pharmacist's record

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高齢の日本人糖尿病に対するSGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬は尿糖としてグルコースを排泄し、体重を減少させますが、高齢者においては筋肉量減少にもつながってサルコペニアのリスクを高めるんじゃねーかっていう件について、日本人高齢糖尿病患者を対象としたプラセボ対照試験の結果が出ました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37622398/

プライマリはHbA1c変化ですが、体重や筋肉量もみています。
ビジアブには載せませんでしたが、握力とかも調べた模様(そっちは割愛)。

エンパグリフロジンを投与した介入群だけみると、体脂肪だけでなく筋肉量も減ってんじゃん!って思うのですが、プラセボ群も52週間の経過とともに筋肉量はそれなりに減っているんですね(プラセボ効果と言いたいわけではなく、高齢者の1年間の自然経過ではないかと)。プラセボ群では体脂肪は減らず筋肉量だけが減っているのが印象的です。


論文の「結論」としては、「筋肉量を損なうことなく血糖値や体重を減らす」とありますが、どこまで一般化できるのかがカギとなりそうですね。

気になるのはやはりこの試験の参加者の背景です。
BMI22以上を募集しているので、参加者のBMIの平均は25.6。
BMI25.6って身長170cmなら74kgですからね。かつて減量に励んでいた(今は挫折中)自分よりも重いです。
本試験においては、うまいこと体脂肪が減ってよかったね!ということかもしれませんが、”どんな患者さんか”によって話がかわってくるかもしれません。

「SGLT2阻害薬の恩恵が大きいから投与したい症例」とは糖尿病に限らず、血糖値は高くないけど心不全やCKDがあるっていう患者さんも含まれるかと思います(最近はむしろ後者のほうが主流?)。
糖尿病でちょっと食べすぎな傾向にあって太り気味な高齢者なら本試験と同じような結果が得られそうですが、糖尿病ではない患者さんだとさまざまなパターンが考えられます。
たとえば、
余分な脂肪がないほど痩せていたら?
体が弱ってきて食事量が落ちてきている高齢者だったら?(SGLT2阻害薬はおよそ300kcal分のグルコースをお排泄する 参考:SGLT2阻害薬エンパグリフロジン服用開始後の尿量変化と尿糖の量は? - pharmacist's record←腎機能正常のデータですが)
ADLが著しく低下してほとんど動けないような高齢者だったら?

このような疑問は本試験からは答えを導くことは難しいかもしれませんね。

ただ、本試験から、筋肉よりも脂肪を減らす傾向にあり、想定したほどサルコペニア・フレイルの助長のおそれはなさそうだというのは朗報なのかなと感じました。

心不全においてはどうやらHFpEFにも有益なんじゃね?的な報告もあがってきているので、SGLT2阻害薬の恩恵が大きい高齢者もいると思います。
”高齢者”といっても、最近は寿命が長くなり、80代でもピンピンしている元気な方も多いです。
サルコペニアやフレイルを恐れすぎて、「SGLT2阻害薬がよい適応となる患者さんだけど高齢者だから避けよう」というような思考停止は避けて、個別にリスク&ベネフィットを考えるという基本姿勢が大事なのかなと思います(←それが難しくて悩ましいんですけどね…)。

「どのような高齢者なのか」を「年齢、体重、BMI」といったパラメータだけで評価するのは意外と難しいと思いますので、食事量や日常生活における活動量(パッと判断しやすいのは歩く速度など、見た目の元気っぽさ)なども重要な情報となるのではないでしょうか。

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以下、ビジアブ作成の補足。
メモ的なものなので読み飛ばしてOK

解析人数はプライマリアウトカムの解析人数としています。
この論文では、「 The primary endpoint was evaluated for the full analysis set」とある通り、プライマリはFASです。
論文の補足資料(Wordファイル)のFigS1のフローチャートには、
介入群と対照群それぞれ
Treated set:65人、64人
Full analysis set:64人、63人
Completed:62人、60人
となっています。

プライマリはFASなので、ビジアブの解析人数を64人、63人にしようと思ったのですが、Fig1やFig2Sのプライマリアウトカムのn数が64人、62人になっていました。

FASの対照群は63人のはずが1人どこへいってしまったのか自分には読み取れませんでしたが、ビジアブの記載上は介入群64人、対照群62人としました。