pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

【ホットフラッシュ】オープンラベルプラセボ vs 無治療!

突然ですが、論文を読んだポルナレフやります。


「まったく理解を超えていたのだが…
 ありのまま、今、読んだ論文のことを話すぜ!

 薬が入っていないプラセボ(偽薬)だと説明した上で、投与したはずなのに、
 ホットフラッシュが改善した

 何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何が書いてあるのかわからなかった。

 催眠術とか超スピードとかそんなチャチなもんじゃあねえ
 もっとすげえものの片鱗を味わったぜ」


JOJO好きのフレンズならニヤリとしたはず!

では、ここからは真面目に…(咳払い)


薬の有効性を評価するときに、無治療と比較すると、”薬を使っているから改善したような気がする”的なバイアスが生じるため、どっちがどっちかわからないようにした上で、薬 vs プラセボで比較試験を行います(盲検化)。

これがプラセボの役目だったのですが、近年、効果のない偽薬であることがわかった上で、プラセボを投与して(オープンラベルプラセボといいます)、無治療と比較するという研究が実施されています。記憶にあたらしいところだと、腰痛の試験がありましたね(Open-label placebo treatment in chronic low back pain: a randomized controlled trial PIMD:27755279)

効果のない偽薬だと患者さんもわかっているはずなのに、なぜか無治療よりも腰痛が改善していたという謎…

今回は腰痛ではなく、更年期症状の一つであるホットフラッシュです。
オープンラベルプラセボは効くのでしょうか!?

さっそく、ビジアブを。

f:id:ph_minimal:20201124204121p:plain
Open-label placebos for menopausal hot flushes: a randomized controlled trial
Sci Rep. 2020 Nov 18;10(1):20090. PMID: 33208855

100人を半々にわけて、4週間オープンラベルプラセボを投与したら、ホットフラッシュが改善傾向。
レーティングスケールが何点満点なのか論文に書いていないので、引用元をみたら有料論文でしたので、内訳は不明…。よって、論文に記載されていた、 Cohen’s d を載せました。

コクランハンドブック(Chapter 15: Interpreting results and drawing conclusions | Cochrane Training)によると、 「0.2 represents a small effect, 0.5 a moderate effect, and 0.8 a large effect (Cohen 1988). 」ということなので、効果サイズは「0.2→小、0.5→中、0.8→大」です。プラセボあなどるなかれ。そこそこいい感じに改善しています。 


ちょっとイメージがつきにくいので、ディスカッションの項目から抜粋しておくと、
「ホットフラッシュスコアは、プラセボで43%減少、無治療群で19%減少。毎日のホットフラッシュは33%減少し、更年期関連のQOL(生活の質)全般に改善」ということでした。まあまあいい感じですよねぇ。


有害事象はこちらをご覧ください。
Table 4 Baseline-adjusted occurrence of adverse events.
当然といえば当然ですが、有害事象が増加することなし。
プラセボ最強説浮上でしょうか(汗)


その他、論文の「ディスカッション」の中で、興味深かった記述について抜粋しておきます。

「肯定的な患者と臨床医の関係は、健康上のアウトカムに有益であることが知られており」
なるほど。こういう側面も重要ですね。意外と薬効に大きく影響したりして…。

ビジアブでは割愛しましたが、介入群の50人のうちの43人はさらにランダム化して、プラセボ継続と中止にわけて、4週間試験を継続しているのですが…、
「4週間後に中止したほとんどの患者(52%)では、さらに4週間改善が持続した」
どういうこっちゃ…

さらに他の文献からの知見によると、
プラセボ薬を中止または漸減した後も、ほとんどの患者は改善したままであった」

プラセボ効果のメカニズムとは…?
「ランダム化の前に、すべての患者にプラセボ効果についての説明を行うことで、ポジティブな期待感が喚起されたのではないかと主張している研究者あり」
「治療効果を期待することは、実際の治療成績に影響を与える可能性がある」

ただし…、
「我々の結果は、期待値と治療効果の関係はそれほど単純ではないこと、つまり、単に良くなることを期待しているだけでは、誰かが良くなる理由にはならないことを示している。」
とも…。
このあたり、難しいので(私の頭では…)、ぜひ原著をご確認ください。


最後にリミテーションについて考えてみると、盲検化されていない試験なので、プラセボ投与群は実は個人購入できるようなホットフラッシュ対策の商品を使ったりしていた…という可能性は否定できないかも…。
(実際にそういうことが行われていたかどうかは不明)


さて、長くなりましたが、とても興味深い知見であることはたしかでしょう。

「ホットフラッシュ サプリメント」でググるといろんな商品がでてきます。もしかすると、プラセボ効果としての有益性もかなり上乗せされているかもしれませんね。まあ、患者さんの症状が軽快するなら、プラセボ効果も上手に取り入れていくべきなのかもしれません。
いろいろと考えさせられる試験でしたね!