pharmacist's record

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トラセミド vs フロセミド(JAMA2023「TRANSFORM-HF RCT」)

ループ利尿薬グランプリ
エントリー:フロセミド、アゾセミド、トラセミ

これまでの主な戦績は
【J-MELODIC】PMID:22451450
Superiority of long-acting to short-acting loop diuretics in the treatment of congestive heart failure
アゾセミド(30~60mg) vs フロセミド(20~40mg)→アゾセミドwin 複合アウトカムの「心血管死または心不全入院」が減少

【TORIC】PMID:12167392
Torasemide in chronic heart failure: results of the TORIC study
トラセミド(平均用量8.2mg) vs フロセミド他(平均用量35mg)→トラセミドwin 「死亡」「心血管死亡」が減少、「低K血症」が減少(トラセミドの抗アルドステロン作用によると思われる)
”フロセミド他”とあるのは、フロセミドとのガチンコってわけではない模様。他の利尿薬を飲んだ人もいたとか…。詳細は原著参照。


J-MEDLODICは非盲検なのに複合アウトカムとして「入院」が入っていますね。ちなみにハードアウトカムの総死亡は同程度の人数だったため、再検証の余地ありでしょうか。(←この考え方の詳細は拙著「トリセツ本」を参照 突然の宣伝ブッコミ)
投与量はメソッドに上記のとおり記載があったものの、最終的な投与量の平均値が各群何mgだったのかの記載が見当たらず。重要な情報だと思うので載っているはずなのでですが、自分の目が節穴過ぎて見つからず。どこに載ってんだろ…。「mg」で文字列検索しても見つからない…。何ページの何行目に書いてあるとかお気づきの方いましたら教えてください~。
一応、換算値はアゾセミド60mg≒フロセミド40mgとのこと。

TORICは初めて知りました。こんな試験があったのか…。中身をしっかり見てないですが、トラセミドに軍配があがった模様。こちらはアウトカムが「死亡」というハードアウトカムです。
詳細は原著をご確認ください。


そのほか、
Use of short-acting vs. long-acting loop diuretics after heart failure hospitalization
PMID:35730147
前向きコホート研究
長時間作用型ループvs短時間作用型ループ→長時間型win 


トラセミド vs フロセミド メタ分析が2つ
Dominance of furosemide for loop diuretic therapy in heart failure: time to revisit the alternatives?
2013年 PMID:23500272
Torasemide versus furosemide in treatment of heart failure: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials
2020年 PIMD:31436024

トラセミド優位だったTORICは方法論的なリミテーションもあるみたいなことがPMID23500272に書いてありますね(とはいえ、トラセミド推しな記載内容)。
2020年のほうは死亡率は有意差ナシとしつつ、トラセミドのほうが潜在的な利点がありそうだとの結語。

なんとなくフロセミドよりトラセミドのほうがよさそうに見えなくもないですが、”KO勝利”ではないって感じかなぁ~。
フロセミドより半減期が長いアゾセミドやトラセミドのほうがいいという話はちらほらでてくるのですが、実際のところどうなんでしょうね。(ちなみにアゾセミドは論文数が少ない)


そこで、今日の本題です(前置きが長ぇ!)
2023年【TRANSFORM-HF】トラセミドvsフロセミドの結果がでました。


Effect of Torsemide vs Furosemide After Discharge on All-Cause Mortality in Patients Hospitalized With Heart Failure: The TRANSFORM-HF Randomized Clinical Trial
JAMA. 2023 Jan 17;329(3):214-223. PMID: 36648467

TRANSFORM-HFでは明らかな優劣はなく、どちらを使っても予後に差はなさそうな印象です。
脱落やクロスオーバー(トラセミド群だったけど途中からフロセミド服用へ。もしくはその逆)もあったようなので、その点はリミテーションあり。
LVEF40%以下という基準がありますが、「or」ですから、LVEFが保たれていてもBNPが高ければIncludeってことです。ヘフレフ限定の試験ではないのでご注意を。
米国の試験ということもあって、BMIが高ぇっすね。日本人患者さんとはちょっと臨床像が異なるかも。

あと驚いたのはトラセミドの用量ですね。トラセミドってこんな高用量で使うの!?
日本のトラセミドの用量は1日4~8mg(適宜増減)ですから、2倍以上の量を投与しています。これはいったい…。
自分がなにか読み間違えてる!?(私の誤解でしたら、どなたかご指摘ください~)

換算目安は日本だと「トラセミド8mg≒フロセミド40mg」だなんて言われてますが(レジデントノート vol.23 No.9 2021)、米国だと換算目安そのものが異なる模様。1:2~4ですから、トラセミド8mg≒フロセミド16~32mgってことですよね。

まあ経口フロセミドはそもそもBAのばらつきが大きいので、換算の目安を決めるのも難しいでしょうけど。。
一方トラセミドはBAが高めで個人差が少ないとか。

おっと脱線しました。
なにはともあれ、トラセミドの優位性を示せずとの結果。
【TORIC】ではトラセミド優位、【TRANSFORM-HF】では「死亡率ほぼ同じ」となった理由はなんでしょうね。考察してみましょう。
心不全治療薬の服用率は?

TRANSFORM-HFではMRAが両群ともに3~4割服用してます。
2002年のTORICはスピロノラクトンの有効性を示したRALES試験が出たばかりのころで、MRAの服用率はTable1に載っていません。対照群の「フロセミド他」にはスピロノラクトンも一部含まれているようですが、1割程度だった模様。
トラセミドは抗アルドステロン作用があると言われていますので、TORICではそれが功を奏したのかな?(対照群も一部スピロノラクトン入ってますが汗)
一方、TRANSFORM-HFは両群3~4割程度はMRA服用していたので、トラセミドの抗アルドステロン作用のメリット(心不全予後改善効果)が薄まった?
な~んて。
関係ないかな?
TORICは対照群に1割程度スピロノラクトンが入ってたみたいですから、トラセミドに抗アルドステロン作用があるといっても死亡率に影響するほどではないかなぁ~。
あと、時代背景の違いも影響してる気がするんですけどね。β遮断薬の服用率もぜんぜん違うし。
2023年のTRANSFORM-HFはそれなりに必要な薬は入っていたから、トラセミドの抗アルドステロン作用のメリットの上乗せはほとんど認められなかったってことなのかなと思いました。

あとは、カリウムの管理ですね。フロセミドは低カリウム血症のリスクがあります。最新の試験ではカリウムコントロールが上手だったとか?残念ながら電話フォローでアウトカムを評価したTRANSFORM-HFの論文にはカリウムのデータは載ってませんけど汗。
ちなみに、TORICでは、フロセミド他群のほうがちょっとだけカリウム低めで推移。ほんの0.1くらいなので、カリウムコントロールに優劣があった説は否定的かも。

さて、いろいろ思いつくままにごちゃごちゃ書きましたが…
そもそもループ利尿薬は心不全の進行・悪化を抑える予後改善薬ではなく、症状緩和のために使ううっ血改善薬という位置づけではないかと思います。心不全患者さんの体液貯留をうまく除去できて、血管内脱水を起こさず、低カリウム血症も起こすことなく上手にコントロールできていれば、短時間型だろうと長時間型だろうとどちらでもいいってことなんですかね~?
循環器専門の有識者の見解が知りたいですね!


以上、駄文終了。
ただの備忘録ですので、臨床応用する上では原著をご確認ください。