pharmacist's record

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チルゼパチド(マンジャロ)単独投与で低血糖を起こすのか

持続性GIP/GLP-1受容体作動薬のチルゼパチド
インスリンなどとの併用ならまだしも、単独投与での低血糖リスクってどうなのでしょうか。
インクレチン関連薬は低血糖を起こしにくい印象をもっていましたが…。
ってことで、いくつか調べてみます。

まずは総説から
総説といえばADAのStandards of Care in Diabetes—2023 かな。
diabetesjournals.org
各薬剤のプロファイルはこちら
9. Pharmacologic Approaches to Glycemic Treatment: Standards of Care in Diabetes—2023 | Diabetes Care | American Diabetes Association
Table 9.2を見ると、低血糖がYes/Noで書かれていて、インクレチン関連はすべてNo

ただGLP-1RAやGIP/GLP-1RAには疎いので、個別の試験データを見てみようかと。
他剤併用ゼロでのチルゼパチドvsプラセボとの比較データが見たいですよね。
チルゼパチド群だけの発生頻度を見ても評価しづらいですし(無治療との差が重要)、ほかの薬に上乗せした試験も評価が難しくなるので、やはり単剤投与におけるプラセボとのガチンコ勝負の結果がみたい。

おそらくこれでしょう。SURPASS-1試験
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
食事療法と運動療法のみではコントロールが不十分な2型糖尿病患者でのtirzepatide単剤療法とプラセボを比較とのこと

残念ながらフルテキスト閲覧できず…
でもメーカーさんの資料のどこかに低血糖に関するデータが載っているんじゃないだろうか!だってプラセボとの比較は気になるデータでしょ!ってことでいろいろ漁ってみます。


マンジャロの適正使用のお願い
https://www.lillymedical.jp/assets/vaultpdf/jp/ja/4c38502a6048f0b6a29f7bbf23383a9fd42c0b3cf56a17dba092d26ac0af2331/%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%AD%EF%BC%88%E3%83%81%E3%83%AB%E3%82%BC%E3%83%91%E3%83%81%E3%83%89%EF%BC%89%E9%81%A9%E6%AD%A3%E4%BD%BF%E7%94%A8%E3%81%AE%E3%81%8A%E9%A1%98%E3%81%84%20%7C%20%E5%8C%BB%E7%99%82%E9%96%A2%E4%BF%82%E8%80%85%E5%90%91%E3%81%91%20%E2%80%93%20%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE
低血糖の項目があります
vsデュラグルチド
vsプラセボ(ただしインスリンとの併用)
などのデータが載っていましたが、なぜか「vsプラセボ」の単独投与のデータはない…。


いろいろさがしてみると、SURPASS-1試験の解説動画がありました。
www.lillymedical.jp


ひどい低血糖はおこさなそうですけど、軽度の低血糖は起こしそうな印象。
プラセボと差はないと予想してたので、ちょっと意外でした。
やっぱり食欲が落ちることも影響しているのでしょうか。

インタビューフォームにもSURPASS-1試験の情報が
https://www.lillymedical.jp/assets/vaultpdf/jp/ja/94ee548118e7dc089a75c45ee562c1579450144248e90d29207e509b5e95520e/%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%AD%EF%BC%88%E3%83%81%E3%83%AB%E3%82%BC%E3%83%91%E3%83%81%E3%83%89%EF%BC%89%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%A0%20%7C%20%E5%8C%BB%E7%99%82%E9%96%A2%E4%BF%82%E8%80%85%E5%90%91%E3%81%91%20%E2%80%93%20%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%82%A4%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE
P39 国際共同第 III 相プラセボ対照二重盲検比較試験:単独療法[GPGK 試験(SURPASS-1)]
こちらは表になってないですが、文章で記載あり(低血糖に関する記載はP45中段)。
ただインタビューフォームのデータを表にすると、

どちらが正しいのかは謎ですが、こちらのほうが10mg群と15mg群の頻度が微妙に多くなってます。

うーん…。原著論文をチェックしてみたいところですね。

単独投与で低血糖を起こしうるのかを調べようとしたら、微妙な食い違いを見つけてしまい戸惑っておりますが(自分がなんらかの勘違いをしていたらすみません)、軽度な低血糖についてはあきらかにプラセボと差があるように見えるので、(軽度な)低血糖リスクはゼロとは言えないのでは?って感じです。NNHでいうと13~20くらいなので、軽視していいものではないかもしれませんね。もしかしたらダイエット目的で使用する場合においても、軽度の低血糖は13~20人に1人に起きているかもしれません。