pharmacist's record

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DPP4i(with SU剤)の低血糖リスク(BMJ 2016)

Addition of dipeptidyl peptidase-4 inhibitors to sulphonylureas and risk of hypoglycaemia: systematic review and meta-analysis | The BMJ
BMJ 2016;353:i2231
イントロダクション:低血糖は入院リスク、心血管疾患、死亡率の増加といったリスクがある。ACCORD試験における強化療法群では、2.5倍の低血糖の増加がみられ、冠動脈疾患を有するような影響を受けやすい患者で低血糖の影響と思われる死亡率が増加により試験中止となっている。低血糖は、血糖降下薬の安全性を評価する上で考慮しなくてはならない有害事象である。
DPP4iは単剤療法として使用された場合、低血糖の発生率はプラセボやメトホルミン(約5%)と同等であった(When DPP-4 inhibitors have been used as monotherapy, the incidence of hypoglycaemia was comparable to that of placebo or metformin)
メトホルミンやチアゾリジンとの併用では、DPP4iは低血糖リスクが増加しないことがいくつかのRCTで示唆されているが、SU剤との併用では、低血糖の発生率増加が指摘されている。
(※DPP4iの低血糖リスク Dipeptidyl peptidase-4 inhibitors for treatment of type 2 diabetes mellitus in the clinical setting: systematic review and meta-analysis. - PubMed - NCBI BMJ. 2012 Mar 12;344:e1369. table2参照)

目的:DPP4iとSU剤の使用による低血糖リスクの定量化(quantify)のためメタアナリシスを実施

研究デザイン:プラセボ対照RCTのメタアナリシス(被験者50名以上のスタディが対象)

P:T2DM
E:DPP4i+SU剤
C:プラセボ+SU剤
O:低血糖

DPP4i:アログリプチン、リナグリプチン、サキサグリプチン、シタグリプチン、ビルダグリプチン


評価者バイアス:"Two authors independently reviewed/extracted"

出版バイアス:言語制限なし。Funnel plotで評価、showed no asymmetry,p=0.2(非対象を示さなかった)

元論文バイアス:選定基準はRCTのみ。コクランのツールで評価

<結果>
10RCTを解析(計6456名)
9RCTはフォローアップ24週以下、1RCTはフォローアップ中央値76週

DPP4i+SU剤(n=4020) プラセボ+SU剤(n=2526) risk ratio
低血糖hypoglycaemia 479(11.9%) 169(6.7%) RR1.52(95%CI 1.29 to 1.80) I2=20%

  
服用期間別のNNH

[DPP4i+SU剤]vs[プラセボ+SU剤] NNH(95%CI)
6ヶ月以下 NNH17(11 to 30)
6~12ヶ月 NNH15(9 to 26)
12ヶ月以上 NNH8(5 to 15)


サブ解析
DPP4i(full dose):RR1.66(1.34 to 2.06)
DPP4i(low dose):RR1.33(0.92 to 1.94)



<感想>
DPP4iのlow dose群では統計的有意差はないが、完全にリスクの排除はできず、精度を高めるためより大きなサンプルが必要とされるとのこと。
DPP4i群の投与量の内訳は、full dose(n=2096),low dose(n=726),undefined dose(n=1198)
low doseはサンプルが少ないため統計的有意差が出なかった可能性もあるかもしれません。
DPP4iの投与量依存的に低血糖リスクが増えるかどうか(RR1.66 vs RR1.33)については、
「DPP4iの低血糖リスクは投与量による違いはなかった(I2=0%)("there was no difference between low and full dose DPP-4 inhibitors for risk of hypoglycaemia")」との記載もあり微妙なところでしょうか。


DPP4iは低血糖リスクは低いとされていますが、SU剤に上乗せする場合は要注意。
国内のrecommandation[1]においては、
SU剤服用中の患者にDPP4iを投与する場合は、

グリメピリド2mg/日を超えて使用→2mg/日以下に減量
グリベンクラミド1.25mg/日を超えて使用→1.25mg/日以下に減量
グリクラジド40mg/日を超えて使用→40mg/日以下に減量

となっています。

今回のメタアナリシスにおいて、6ヶ月以内の低血糖のNNHが17ということで、意外とリスクが高いことがわかりましたので SU剤に上乗せでDPP4iを追加投与する場合は慎重に投与量を調整したほうが良いと思います。


[1]「インクレチン(GLP-1受容体作動薬とDPP4阻害薬)の適正使用に関する委員会」http://www.fa.kyorin.co.jp/jds/uploads/photos/797.pdf