pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

変形性関節症とグルコサミン/コンドロイチンvsプラセボ

Effects of glucosamine, chondroitin, or placebo in patients with osteoarthritis of hip or knee: network meta-analysis. - PubMed - NCBI
BMJ. 2010 Sep 16;341:c4675
変形性関節症(OA;osteoarthritis)におけるコンドロイチングルコサミンプラセボの効果を比較したネットワークメタ解析
P:膝や股関節の変形性関節症
E:①グルコサミン ②コンドロイチン ③グルコサミン+コンドロイチン
C:プラセボ
プライマリアウトカム:痛みの強度(10cmVASにて-0.9cmを臨床的に重要な差と予め指定)
セカンダリアウトカム:関節腔の幅の変化

※VAS(Visual Analog Scale):視覚的評価スケール。10cmの直線上、痛みの強度がどの位置にあるかを示す方法。


<選定基準>
n=200以上のRCT → 10RCT(n=3803)を同定

各RCTの概要がtable1に記載あり。
どの試験も平均年齢は60代

グルコサミンの用量はすべて1日1500mg
コンドロイチンの用量は1日800mg~1200mg
(table2より)


<結果>
プラセボと比較した疼痛強度の差(10cmVAS)

グルコサミン コンドロイチン グルコサミンコンドロイチン
疼痛強度の差(95%CI) -0.4cm(-0.7 to -0.1cm) -0.3cm(-0.7 to 0.0cm) -0.5cm(-0.9 to 0.0cm)
エフェクトサイズ −0.17(−0.28 to −0.05) −0.13(−0.27 to 0.00) −0.19(−0.37 to 0.00)

※各試験間の異質性は低い。

スポンサーによる効果の違い(fig3より)

グルコサミン コンドロイチン グルコサミンコンドロイチン
業界と独立した試験(industry independent trials) -0.1(-0.5 to 0.2) 0.1(-0.3 to 0.6) -0.3(-0.7 to 0.2)
業界主催の試験(industry sponsored trials) -0.6(-0.9 to -0.3) -0.4(-0.7 to -0.1) 該当なし

業界と独立した資金提供の試験と比べて、業界主催の試験のほうが、0.5cm(0.1 to 0.9 cm)顕著に効果あり


<結語>
コンドロイチングルコサミンコンドロイチングルコサミンプラセボと比較して、関節痛の減少はみられず、関節裂隙狭小化(joint space narrowing)にも影響は与えない
・一部の患者にとって有益だが、プラセボ効果やOAの自然経過かもしれない。
・どの製剤も危険ではなく、コストとベネフィットを認識した上での使用であれば、継続しても特に害はない。


資金提供の違いによる有効性の差はとても気になるところです。これは偶然なのでしょうか…。
害はないようですが、コストとベネフィットのバランスが良い印象はないですね。


OAについてはこんな文献もあります。
The placebo effect and its determinants in osteoarthritis: meta-analysis of randomised controlled trials. - PubMed - NCBI
Ann Rheum Dis. 2008 Dec;67(12):1716-23.
OAに対するプラセボ効果を検討したRCTのメタ解析

選定基準:プラセボを対照としたRCT
プラセボ効果プラセボ群のベースラインからの変化とし、エフェクトサイズ(ES;ベースラインと試験終了時の平均標準差)を無治療群と比較
プライマリアウトカム:痛みのES

プラセボ群を含む193RCT(n=16364)と、無治療群を含む14RCT(n=1167)。計198RCTを同定

<結果>
痛みの緩和

プラセボ 無治療
痛みの緩和 ES0.51(95%CI 0.46 to 0.55) ES0.03(95%CI -0.13 to 0.18)

・関節の機能や硬直についても、プラセボのほうが有効。
プラセボは注射で投与されたときのほうがより効果が増大。
・ベースラインの痛みの重症度が高いほうがより効果が増大。
・積極的に治療したほうがより効果が増大。


※エフェクトサイズeffect size
二群間の平均値の差を標準化したもの
効果の指標
0.2:小
0.5:中
0.8:大
(検定の種類により指標が異なるので注意)
エフェクトサイズの評価については、上記のようにとらえるのが一般的のようです。
"Cohen, J. (1992). A power primer"のtable1によれば、検定の種類にとって評価が異なるようです。
統計の専門的な知識に疎くてよくわかりませんが、エフェクトサイズは概ね0~1の値で、数値が大きいほど二群間の平均差が大きいということでざっくりと捉えておこうと思います。



変形性関節症に対するプラセボ効果は期待できるとメタ解析でも示唆されており、プラセボ効果、やはり侮れません。
コンドロイチングルコサミンで膝の痛みが治まる!と長期服用している方も多いかと思いますが、もしかしたらプラセボ効果かもしれませんね。
とくに害はないようなので、お金に余裕があって、これらのサプリメント服用で痛みが軽減するという実感が本当にあるのであれば、継続していただいても問題ないですが、こちらから積極的にオススメすることはないと思います。