pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

涕泣→うつ病?(うつ病の診断基準)

来年は法改訂により減収間違いなし。人員は減らされ、さらに過酷な状況が待っていると思うと憂鬱になりますね。

すでに人員は減少傾向で、業務が減るわけではなく、さまざまな問題が起きて、スタッフのメンタルはボロボロで、ときに涙を流す方もいます。

そこで同僚と話題になったのですが、涙を流すというのは臨床的にどうなんだろう?と…。
辛くて涙を流すというのは、医学的ケアを必要とする状態なのでしょうか?

女性スタッフに聞いたところ、一部の女性においては辛くて涙を流すというのは普通にあることで、とくに病的とは言えないのではないかと。
ただ、男性においてはまずないように思います。


うつ病の診断基準を調べてみました。
涕泣(涙を流して泣くこと)は診断基準にあるのでしょうか。

うつ病の診断(DSM-5)

抑うつエビソードとは?

抑うつ気分 気分が落ち込む、気分が晴れない、悲しい、虚しいなど(自覚的だけでなく他者による観察も含む)。小児ではイライラすることも
興味や喜びの減退 趣味をやらなくなる、遊んでも楽しくない、何をしても面白くない、小さな子供/孫が可愛く思えない
体重・食欲の減少(or増加) 美味しいと思えない、体重変動(例;1か月に5%以上の変化。小児においては期待される体重増加が認められない)
不眠(or睡眠過多) 寝付けない、朝早く目が覚める、途中で目が覚める
精神運動の焦燥/制止 そわそわする、億劫でなにもできない、ぼーっとしている、口数が少ない(他者によっても観察されるもの)
疲労、気力減退 ほとんど毎日気力がでない、身体が重い、動いてないのに疲れる
無価値感、罪責感 自分を責める、周りに迷惑をかけていると感じる、生きる意味がない(罪責感の理由が不適切であることが特徴)
集中力・思考力減退 ものごとを考えられない、仕事ができない、人の話や文章が頭に入らない
自殺念慮 死にたい、消えてしまいたい

抑うつ気分や、興味減退など、これらの症状がほとんど1日中、ほとんど毎日存在する

上記のうち5つ以上が2週間以上つづく(抑うつと興味減退のどちらか1つは必須項目)→→抑うつエビソード


<大うつ病性障害(MDD;Major Depressive Disorder)>
A.抑うつエピソードあり
B.症状が著しく苦痛、または生活に悪影響を及ぼしている
C.エピソードに他の医学的要因がない
(A~C→大うつ病エピソード)
D.統合失調症などほかの精神疾患で説明できない
E.躁病エピソードがない

DSM-4→DSM-5への改訂での大きな変更点は、“死別反応の除外”という基準が削除されたこと。
今までは、死別による反応はMDDとはみなされなかったが、DSM-5ではその他の基準を満たせばMDDと診断
(→この変更点については議論になっているようです)


他にも細かい基準や分類がいろいろあるようですが、MDDに関しては概ね上記のとおりです。詳細はDSM-5をご参照ください。

DSMにおけるMDDの診断基準ではとくに涕泣に関する言及はないようですが、他者により観察される抑うつ気分の項目に適合するのでしょうか…。
ただし、なんらかの理由があっての反応(怒られて泣く、等)ではなく、“ほとんど毎日”、“特別な理由がなく”、さまざまな症状が現れる、という印象を持ちました。

“以前はすぐ泣くような人ではなかったのに、ちょっとしたことで泣くようになった”といった変化は心配ですね。
その他の抑うつエピソードの症状も隠れているかもしれません。

医師のような診断のプロではないとしても、医療者として職場のスタッフの異変には敏感に察知して、適格なフォローができるようになってお互いに支えあって困難を乗り越えていきたいものです。