pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

桔梗湯はのどの痛みに効くのか!? 桔梗湯RCT 第2弾

このタイトルを見て、
「あー、それな。前後比較試験では『喉の痛みを改善』という結果だったけど、プラセボとRCTで比較したら『プラセボと差はない』という結果だったって話でしょ」
という声が聞こえてきそうですが、実は同じテーマでもう1回RCTやったんですよね。

1回目のRCTは
cmj.publishers.fm
地域医療ジャーナルで取り上げました。2019年の話です。

ただこの結果が出たあと、もう1回RCTを計画しているという情報をキャッチしておりました。
https://center6.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000040377
UMINにしっかり登録されています。
この結果はいつでるんだろうな~~~と気になっていたのですが、本の執筆に夢中になっている間に論文化されていました。2022年の話です。
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
Ishimaru N, Suzuki S, Shimokawa T, Iijima K, Kanzawa Y, Nakajima T, Kinami S. Kikyo-to for Acute Upper Respiratory Tract Infection-Associated Sore Throat Pain: A Multicenter Randomized Controlled Trial. J Integr Complement Med. 2022 Sep;28(9):768-774. doi: 10.1089/jicm.2021.0433. Epub 2022 May 31. PMID: 35648044.

こちらは全文フリーではなく、アブストラクトオンリーなのですが、わかる範囲でビジアブ化

2019年発表のRCTとの違いは、プライマリアウトカムが「服用10分後の痛み」ではなく「服用30分後の痛み」というところでしょうか。
しかし、結果はやはりプラセボに対する優越性は示せず でした。


ちょっと補足します。
のどの痛みをVASで評価してますが、VASは0~100で高いほうが痛みが強いということ。
「Primary outcome was change to sore throat score according to VAS 30 min after administration of Kt」
「Difference between the groups in the mean change of sore throat score according to VAS at 30 min was without statistical significance (Kt 15.3, placebo 17.2; p = 0.66). 」
プライマリアウトカムは「ベースライン→30分後の変化値」ということですので、桔梗湯が15.3、プラセボは17.2というのは「30分後のスコア」を指しているのではなく、「ベースラインから30分後のスコアの差」を指しているものと思われます。まあ0~100で1.9の差なので「差はない」って解釈でOKかと思います。

ちなみにビジアブ上、盲検化を「マル?」とした理由は、味で気づいた可能性もあるためです。
プラセボとして乳糖を用いていますが、服用方法は「温湯に溶かし, 一旦冷やした後, 少量ずつ口に含んで嚥下する」なので、味で気づきそうな気も…。(とはいえ、試験結果が「差はない」なので、”プラセボ効果によって桔梗湯に有利な結果につながる”というバイアスは生じてなさそう)

桔梗湯群は36名ですが、解析は34名ということで2名が解析から除外されたようです。詳細はおそらく論文の本文に書いてあるのかなと思いますが、アブストではそのあたりは省略されています。

以上、補足おわり。


というわけで、今回も残念な結果となりました。
分3で連日服用したら咽頭痛が治るのがはやくなるのか(例:痛みがなくなるのが1日はやまる 等)は別途検証の余地があるかもしれませんが、少なくとも、”服用後すぐにのどの痛みが軽快する”という効果はなさそうです。

筆頭著者の先生の名前が同じでしたので、再挑戦っていう感じだったのでしょうね。
ネガティブな結果ではありましたが、お蔵入りにせずに論文として発表していただき、ありがとうございます。と関係者の皆様に感謝したいです。結果がポジティブだろうとネガティブだろうと研究結果を開示することが大事ですからね。

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2023.4.4追記
ゴリゴリの私見なので割愛したんですが、サンプルサイズについての指摘もあるかと思います(ざっくりいうと症例数が少ない)。

これ2019年のときもサンプルサイズ70人で計算し、70人で試験実施。
今回の試験では症例数を増やすのかなと思いきや、同数の70人で計画した模様。
増やせば有効性を示せたのではないかという意見もあるでしょう。
「症状が軽減している傾向にはあるけど、有意差はついていない」というのであれば、症例数増やせばよい結果が出たんじゃないの!と自分も期待したいですが、その傾向もみられないので(2019年の試験も同様)、微妙かなぁ~という気がします。もちろん、ワンチャンあるかもしれないので、こればかりは推測の域を出ません。また、症例数を増やして小さな差で「有意差あり」という結果になったとしても、臨床的意義のある差といえるかどうかも考慮する必要があるでしょう。Minimally important differenceってやつですね。