pharmacist's record

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スギ花粉によるアレルギー性鼻炎に対する小青竜湯の効果(@花粉曝露室)

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
Kurita J, Yonekura S, Iinuma T, Yoneda R, Imamoto S, Hanazawa T, Kawasaki Y, Namiki T, Okamoto Y. Evaluation of shoseiryuto for seasonal allergic rhinitis, using an environmental challenge chamber. World Allergy Organ J. 2022 Mar 20;15(3):100636. PMID: 35399817
(臨床試験登録情報はこちら→ https://center6.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000037952)

※原著論文では、TNSS(11~12時)の95%信頼区間が「-0.79 to -0.82」と記載されているのですが、各群のスコアとp=0.97(有意差なし)という記載を見る限り、これは「-0.79 to 0.82」の誤植だと思います。マイナス~マイナスだったら有意差ありなので矛盾するんじゃないかなと。
※2 Fig1に「43 adopted as PPS」(3名プロトコル逸脱があった模様)とありますが、「Finally, 46 subjects were analyzed」とあるので、解析人数は46名にしてあります。


花粉曝露室を用いて、被験者を花粉に曝露させ、実験的に花粉による鼻炎症状を引き起こして小青竜湯の効果を検証した試験です。

花粉の曝露を受ける2週間前から、小青竜湯もしくは乳糖(プラセボ)を1日3回食前で服用継続し、試験当日の朝9時~12時まで入室、12時に退室して21時まで花粉症の症状を記録。



ざっくり示すとこんな感じ(雑)

花粉の曝露によって引き起こされた症状について、入室中は30分ごと、退室後は3時間おきに記録。
プライマリアウトカムは11~12時の計3回分の平均値です。つまり、入室中の症状が主要評価ですね。
残念ながら、入室中の曝露開始から2~3時間の鼻症状スコアはプラセボと有意差なし
副次的な評価にはなりますが、退室後にあたる15~21時のスコアは有意に軽減していたという結果です(12点満点で1点弱の差ですが)。

花粉曝露直後(曝露中の3時間)はプラセボとほぼ差はなく、退室後の症状軽減のスピードは小青竜湯服用時のほうがはやかったようですが、退室後の症状変化については主要評価項目(プライマリ)ではないので、本試験においては効果実証されずという結論となります。

特殊な状況下での効果検証でしたが、これが実臨床ではどうかというのはなんとも言えませんね。各症状の経時変化を見る限り、薬理作用がまったくないってことはなさそうな印象かなと。

ちなみに、漢方をカプセルに詰め込んでから服用しているので、味で見破られることのないように工夫されています。盲検化はばっちりですね。


試験参加者の花粉症もちのみなさまは大変だったかと思います。これクロスオーバー試験ですから、漢方とプラセボの両方を試しています。つまり、好きでもないスギ花粉を1ヶ月程度のウォッシュアウトを経て、2回花粉ただよう実験室に入室したわけです。

症状がひどい場合はフェキソフェナジンが許可されたようですが、当日の21時までは服用禁止。試験に参加した志願者の方々、おつかれさまでした(敬礼)。


主要な結果は以上になります。

詳細は原著をご確認ください。全文フリーなのでまるごと閲覧可能です。
有害事象(少数なので比較できるほどのデータ数ではないですが)、Good respondersとPoor respondersの背景なども比較されています。

各症状(鼻だけでなく目の症状も)の経時変化もグラフになっています。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8938619/figure/fig2/



おまけ
ちなみに、通年性アレルギー性鼻炎に対する小青竜湯vsプラセボのRCTもあります。
1995年とかなり古いですが、日本で実施されており、全文閲覧可能です。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibirin1925/88/3/88_3_389/_pdf
↑については拙著(祝!"ビジアブ"電子書籍化 - pharmacist's record)でも取り上げていますので、こちらのビジアブが気になる方はご参照ください。


ぽんこつ余談
このブログ記事を書き終えてから、内容を間違いがないかチェックしたのですが、湯水が湧き出るかのごとくたくさんのミスが見つかり、公開前に冷や汗をかきました。すべて直したつもりですが、数値ミスや論文解釈の不一致など「それ、ちがうんじゃね?」みたいなのがありましたらすみません。論文の中の誤植らしきものには気づけたのに、自分の記載内容が誤りだらけというぽんこつっぷり…。