pharmacist's record

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食事のときに、野菜を先に食べる→血糖値は下がる? part2

前回(食事のときに、野菜を先に食べる→血糖値は下がる? - pharmacist's record)に引き続いてのテーマです。

2019年の糖尿病診療ガイドラインに、
「近年、食品の摂り方によって、食後の血糖上昇を抑制しうることが注目されている。特に食物繊維に富んだ野菜を先に食べることで食後血糖の上昇を抑制し、HbA1cを低下させ、体重も減少させることができることが報告されている」

日本糖尿病学会(編) 糖尿病診療ガイドライン2019
CQ3-13「食事の摂り方は糖尿病の管理にどう影響するか」より
糖尿病診療ガイドライン2019|一般社団法人日本糖尿病学会

もちろん引用文献がついています。
確認してみると…。
てっきり、先日とりあげた文献かと思っていたら、なんとランダム化比較試験の文献でした。
これはノーチェックだったわ!ってことでそちらも参照してみました。


A simple meal plan of 'eating vegetables before carbohydrate' was more effective for achieving glycemic control than an exchange-based meal plan in Japanese patients with type 2 diabetes
Asia Pac J Clin Nutr. 2011;20(2):161-8. PMID: 21669583.

こちらは、ランダム化比較試験なので、患者背景に大きなズレはありません。
HbA1cは昔のJDS値なので、現行のNGSP値でいうと、試験参加者の平均HbA1cは8.7%くらいですね。
JDS値+0.4=NGSP値)

さて、食べる順序を「野菜→炭水化物」にするという介入群(Vegetables before carbohydrate (VBC) group)ですが、他にも指導を行っています。
「果物ではなく、緑の野菜を少なくとも 1 日 1 回食べる」
「一口あたり 20 回以上噛む」
「野菜、キノコ、海藻、GIの低い食品の摂取量を増やす」
という指導も行っています。

おや?先日とりあげた2010年発表の研究と似てますね。
論文の著者をチェックしたら同じ先生でした。
レトロスペクティブの調査で有効性が期待できそうなので、RCTで検証したということでしょうか。


ちなみに、GI(グリセミック・インデックス)は食後血糖値の上昇度の指標みたいなもんです(前回の記事で説明し忘れてた)
GIが高ければ食後の血糖値が上がりやすいということ。

数々の食品のGI値の一覧はこの論文のTable1にあります。
Dietary glycemic index and load in relation to metabolic risk factors in Japanese female farmers with traditional dietary habits
Am J Clin Nutr. 2006 May;83(5):1161-9. PMID: 16685061
たとえば、
白米77、玄米55、食パン(White bread)74
ほか、いろいろ載っているのですが、GIだけにこだわればいいというわけではない気がします。
たとえばケーキのDIは46だそうですが、食パンを食べるかわりにケーキばかり食べてたらまずいような…。
そのほか、せんべい(Rice crackers)のGIは91、ポテトチップスは54…。でも、ポテチばかり食べてたら油のとりすぎになりそうですよね。

本試験の介入内容「野菜、キノコ、海藻、GIの低い食品の摂取量を増やす」のあるとおり、GIだけにこだわればいいわけではなく、野菜やきのこなども摂りましょうって感じですね。


さて、話を戻して…
対照群は何もしていないのかというと、こちらも食事指導が入っています。
交換食ベースの指導(exchange-based meal plan)とは、“Food Exchange Lists: Dietary Guidance for Persons with Diabetes”を使用した指導です。
「1日あたり350g以上の野菜と80kcal以上の果物を摂取するよう推奨」とあります。

“Food Exchange Lists: Dietary Guidance for Persons with Diabetes”というのは、おそらく市販されている「糖尿病食事療法のための食品交換表」のことではないかなと。
私は第7版を持ってますが、フルカラーで各食品のデータが写真つきで載っています。


この2通りの介入にて24か月フォローし、介入群も対照群もHbA1c低下。両群を比較すると、介入群のほうが有意に下がっていたという結果です。
(原著のFig2にグラフがあるのでぜひそちらを参照してください。フルテキストフリーの論文です!)

食事摂取量の変化をみてみると、両群ともに食事摂取カロリーを減らすことに成功しています。
ただ、食事指導内容の違いによって、食事量の変化に差が生じており、介入群では対照群よりも炭水化物と果物の量が少なく、野菜が多くなっています(詳細は原著参照)。
この食生活の変化の違いが血糖値に差を生んだのかもしれませんね。


ひとつだけ気になる点があるとすれば、試験開始時に約7割の人たちが糖尿病の薬物療法を受けていたのですが、2年間のフォロー中にこの薬に変化はあったのかってことですね。
介入群だけ薬の用量などが増えている傾向にあったら、それが結果に影響した可能性が出てきます。
論文の「Result」には記載がないですが、「Discussion」のLimitationに関する記述として、
「介入群では、14% の患者が薬の量を減らし、7% が薬の量を増やした。 一方、対照群の患者の50%は、薬の量を増やし、そのなかには経口血糖降下薬からインスリン療法への変更も含まれていた」
とあります。詳細不明ですが、この一文だけをみると、対照群のほうが増量していたということでしょうか。
そうなると、介入群の効果を弱めるバイアスがかかるため、やはりこの介入は有効なのかもしれません。

前回も書いた通り、不利益がほとんどなさそうな介入なので、自分としてももし血糖値が上がってきたらやってみたいなと思える対策かなと感じました。
さっそく、血糖値(HbA1c)がじわじわあがってきて薬を飲むのが嫌だから食事療法をがんばろうと思うという患者さんにご紹介しました(効果があったというデータもあるという話こみで)。
ハードアウトカムへの影響は不明ですが、簡単にできるところがいいですよね~。


参考)
↓本試験の筆頭著者の先生によるレビュー
食品の摂取順序を重視した糖尿病栄養指導の血糖コントロール改善効果
食品の摂取順序を重視した糖尿病栄養指導の血糖コントロール改善効果
糖尿病 55 巻 1 号 1-5,2012
このレビューにも研究結果がまとめられているので(日本語&フルテキストフリー)、参照してみてください。