pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

オピオイド導入時の吐き気止めの予防投与は有用?

このRCTのことを完全にスルーしており、まったく知らなかったのですが、「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)」で取り上げられていました。
ガイドライン|日本緩和医療学会 - Japanese Society for Palliative Medicine

67ページ 悪心・嘔吐
「原則として制吐薬の予防投与は行わない。ただし、悪心が生じやすい患者では予防投与を行ってもよい」
プロクロルペラジンなどのドパミン拮抗薬を用いる場合には薬剤性錐体外路症状に注意」
との記載あり

146ページのオピオイドによる悪心嘔吐に関するCO18.19のところで、引用文献として挙げられています。

さっそくビジアブ

f:id:ph_minimal:20201126210543p:plain
Efficacy of Prophylactic Treatment for Oxycodone-Induced Nausea and Vomiting Among Patients with Cancer Pain (POINT): A Randomized, Placebo-Controlled, Double-Blind Trial
Oncologist. 2018 Mar;23(3):367-374. PMID: 29038236

治療薬は中枢性ドパミン受容体拮抗薬です。商品名はノバミン®ですが、いまだにこの一般名が覚えにくいのは私だけでしょうか。
クロプロルペラジン、クロペラルプラジン、プロクロルペラジン、プロペラルペラジン、クロプラルペラジン… さあ正解はどれだ!?ってクイズになりそうですね。
正解はプロクロルペラジンです。


さて、試験対象者はがん患者。
部位の限定はありませんが、肺がんが多いですね。
オピオイドは使ったことのある患者さんは除外となっており、弱オピ(トラマドール)の使用経経験のある割合が約3割でした。

ケモの吐き気と混ざってはまずいということで、直近のケモ導入などいろいろと除外基準が設定されています(詳細は原著をご確認ください)

試験参加者のNRSは平均7点くらい。
実際に使用したオキシコドンの投与量は平均80mgくらいでした(若干、プラセボ群の方が多い)。

ECOG performance statusについては、こちらをご参照ください
[研究者・医療関係者の皆さん] ガイドライン・各種規準 - ECOG のPerformance Status(PS)の日本語訳:日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG:Japan Clinical Oncology Group)
患者さんの全身状態を0~4の5段階で評価するスコアです。0は無症状、4は「まったく動けない/自分の身の回りのことはまったくできない/完全にベッドが椅子で過ごす」です。
本試験では0~3が対象で、4の患者さんは除外されています。


結果はビジアブのとおり有意差はありませんでした。
若干、有利な傾向ではありますが、劇的な予防効果はなさそう。

PubMed Central, Table 4.: Oncologist. 2018 Mar; 23(3): 367–374. Published online 2017 Oct 16. doi: 10.1634/theoncologist.2017-0225
↑有害事象の詳細はこちらを見てほしいんですが、著明な増加って感じには見えないものの、CTCAEのグレード3以上はちょっと増え気味なのかなぁ…という印象です。

論文の著者も、「プロクロルペラジンの予防投与は、吐き気や嘔吐の予防に効果はなさそうであり、眠気などの有害事象を引き起こす可能性がある」と言及しています。

臨床試験結果は有意差なしということでネガティブな結果ではありましたが、とても有用な知見だと思います。
有意差を示したものだけが有用な知見というわけではないですからね!