pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

ウエスト/ヒップ比が高いと死亡率が高い?

WHR(ウエスト/ヒップ比)
WHR=ウエスト周囲径/ヒップ周囲径
中心性肥満の指標となり、内臓脂肪の蓄積が懸念される

WHOによると、WHRのカットオフ値(メタボリックシンドロームの合併症のリスク)は、
男性:0.9以上
女性:0.85以上
(→日本人にも適応される数値かは不明)

BMIと肥満>

日本 WHO
肥満の定義 BMI25以上 BMI30以上

<内臓脂肪蓄積型の肥満(中心性肥満)>
ウエストヒップ比が大きい肥満は内臓脂肪蓄積型肥満として、糖尿病や動脈硬化のリスクとなる
日本肥満学会の診断基準は内臓脂肪面積100cm2以上(CTにて測定)
そのスクリーニングとして、

ウエスト周囲径
男性 85cm以上
女性 90cm以上

BMI25未満でも内臓脂肪面積が100cm2を超えるケースあり(ある報告では男性で20%)


参考文献
WHO | Waist circumference and waist–hip ratio
総合健診Vol. 42 (2015) No. 2 p. 301-306



WHRと死亡率との関連を検討した文献が発表されました。
Normal-Weight Central Obesity: Implications for Total and Cardiovascular MortalityMortality Risk in Persons With Normal-Weight Central Obesity | Annals of Internal Medicine

背景:BMI正常な中心性肥満と生存率の関連は不明
目的:BMI正常の中心性肥満における心血管死のリスクを検討

対象:18~90歳の成人15184名

中心性肥満の指標として、ウエストヒップ比waist-to-hip ratio (WHR) を使用

<結果>
死亡リスク

男性 女性
中心性肥満ありvsなし(BMI正常) HR1.87(95%CI 1.53 to 2.29) HR1.48(95%CI 1.35 to 1.62)

WHRで定義された中心性肥満はBMIで定義された肥満よりも死亡率に関連していると結語。


Measurementsには心血管死と記載がありながら、resultには総死亡の記載となっていることに違和感を覚えましたが、本文にはそのあたりも詳しく記載されているのでしょうか。
肝心のWHRのカットオフ値がアブストに載ってないというのも残念。WHOの基準と同じでしょうか…?

議論の余地ありかもしれませんが、今までの知見においても、中心性肥満は良くないとされているので、まあ妥当な結果かと思います。
WHR関連の文献をいくつかピックアップします。


Waist circumference and waist-to-hip ratio as predictors of cardiovascular events: meta-regression analysis of prospective studies. - PubMed - NCBI
Eur Heart J. 2007 Apr;28(7):850-6
前向きコホートとRCTのメタ分析
258,114名で4355例のCVDイベントあり
<結果>
CVDイベントは…、
ウエスト周囲径1cm増加→相対リスク2%増加
WHR0.01増加→相対リスク5%増加


A comparison of adiposity measures as predictors of all-cause mortality: the Melbourne Collaborative Cohort Study. - PubMed - NCBI
Obesity (Silver Spring). 2007 Apr;15(4):994-1003.
メルボルンコホート研究
年齢27~75歳(99.3%が40~69歳)
男性16,969名、女性24,344名
中央値11年フォローアップで2822名死亡(男性9.0/1000 person-y 女性4.3/1000 person-y)
リスク因子:BMI、WC(ウエスト周囲径)、WHR、脂肪体重、体脂肪率

<結果>
top(5th) quintile vs the 2nd quintile
男性:すべてのリスク因子で有意に死亡リスク増加。ハザード比HR1.2~1.3
女性:BMI、脂肪体重、体脂肪率有意差なし。WCのHR1.3、WHRのHR1.5

table3に詳細データあり。BMIや脂肪体重など、全体的にU字現象がみられる。

※quintile:観測値を小さい数値から5等分。5th quintileは数値が最も高い群となる。

<結論>
ウエスト周囲径とWHRは、BMI体脂肪率よりもすぐれた指標となる。
肥満関連の死亡リスクの評価において、ウエスト周囲径とヒップ周囲径の測定を推奨



【感想】
日本ではあまり重要視されていない印象のあるウエスト/ヒップ比(WHR)ですが、BMIよりも死亡リスクの指標となる可能性があります。
データが揃って、その重要性が決定的となれば健診の項目にも載るという未来もあるかもしれませんね。

BMI正常でもWHRが高い(要はお腹が出ている)のは予後が悪い可能性あり、ですか…。
油断できませんね。運動しなくては…。