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1型糖尿病にメトホルミンは有効?

国内のメトホルミンの適応は2型糖尿病(T2DM)で、10歳以上で使用可能です。
1型糖尿病(T1DM)は適応外で禁忌扱いとなっていますが、T1DMを対象としたメトホルミンの臨床試験もあるようです。

つい先日、JAMAにT1DMの10代の青年に対するメトホルミン追加療法の論文が発表されました。

Metformin for Adolescents With Type 1 Diabetes | Adolescent Medicine | JAMA | The JAMA Network
JAMA. 2015;314(21):2241-2250
多施設二重盲検ランダム化比較試験
P:1型糖尿病(T1DM)の青年140名(肥満、12.1歳~19.6歳)
E:インスリン+メトホルミン2000mg/day(n=71)
C:インスリン+プラセボ(n=69)
O(プライマリアウトカム):HbA1cの変化
セカンダリアウトカム:1日インスリン投与量、BMI、ウエスト周囲など
追跡期間26週

<患者背景>
平均HbA1c:8.8%
1日インスリン投与量:1.1U/kg
平均BMIパーセンタイル:94thパーセンタイル(※)

※小児の肥満の度合いはBMIパーセンタイルで評価することが多いようです。
Growth Charts - Clinical Growth Charts
http://www.cdc.gov/growthcharts/data/set1clinical/cj41c023.pdf
この研究の参加者は高度な肥満と捉えて良いと思います。


<結果>

メトホルミンvsプラセボ 13週後 26週後
HbA1c変化(平均差mean difference) -0.3%(95%CI -0.6to0) 0%(95%CI -0.3to0.3)

 
体重1kgあたりの1日インスリン投与量とBMI

メトホルミン(n=71) プラセボ(n=69)
インスリン投与量が25%以上減少した割合(人数) 23%(16名) 1%(1名)
BMI Zスコア10%以上減少した割合(人数) 24%(17名) 7%(5名)

 
胃腸の有害事象
メトホルミン>プラセボ 平均差36%(95%CI 19% to 51%)

<結語>
インスリン投与量の減少と体重減少は期待できるが、胃腸障害の有害事象があり、血糖コントロール改善のためにメトホルミンを追加投与することは支持されない

<感想>
インスリン使用量の減少と体重減少が認められる点は有意義かもしれません。胃腸障害が多いようですが、投与量が多すぎるのでは?という気もします。漸増したのかどうかアブストラクトには記載がないですが、慎重に少量投与開始が望ましいのではないかと思います。

他にもT1DMに対するメトホルミンの文献があるか調べてみました。


The use of metformin in type 1 diabetes: a systematic review of efficacy. - PubMed - NCBI
Diabetologia. 2010 May;53(5):809-20
T1DMのインスリン療法にメトホルミン追加で、HbA1c・体重・インスリン投与量・有害事象の影響を検討したシステマティックレビュー
P:T1DM
E:メトホルミン1000~2550mg/day
C:プラセボ
O:HbA1c、インスリン投与量

<各試験のデータ>
文献検索にて197試験が見つかり、そのうち9RCTが選定基準を満たした。

参加者:15~100名(参加者10名以下の2試験はHbA1c、インスリン投与量、体重などの主要なアウトカムの解析から外されている)
平均体重:62~90kg
平均HbA1c:7.6~10%
追跡期間:3~12か月(1か月未満の2試験はHbA1c、インスリン投与量、体重などの主要なアウトカムの解析から外されている)


<結果>
メトホルミンはプラセボと比べて、以下の減少と関連あり
①インスリン投与量減少:5.7-10.1U/day(6 of 7study)
HbA1c減少:0.6-0.9%(4 of 7study) ※3studyでは有意差無し
③体重減少:1.7-6.0kg(3 of 6study)
④総コレステロール(TC):0.3-0.41mmol/L(11.6~15.9mg/dL)(3 of 7study)
※TC[mmol/L×38.67=mg/dL]

・メトホルミンはプラセボと比べて低血糖が増加。
・乳酸アシドーシスの報告は無し


<結語>
メトホルミンはT1DMにおけるインスリン使用量を減少させるが、その効果が1年をこえて長期に維持されるかは不明。
心血管イベントを減少させる効果についても不明。


<感想>
小規模のトライアルが多く、結果の解釈は慎重に行った方がよさそうですが、メトホルミンによるインスリン使用量の減少については異質性も低く、効果が期待できそうです。
ただ、結語にも述べられているとおり、1年以上の経過が不明で、心血管イベントも検討されていないため、まだまだ検討の余地があると思います。

自己抗体陽性でも進行の遅い緩徐型の場合はしばらくインスリン依存性にならないケースもあるようで、メトホルミンも選択肢となりそうですが、診断がT1DMとなると適応外となるのでやはり使うことはできないということになるのでしょうか。
もっとデータが集まり、有用性が期待できるとなれば、適応が変更になる可能性もあるかもしれませんね。


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