pharmacist's record

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アスベリンが品薄なんだけど、その効果(咳止め)はどれくらい?

ペピジン(アスベリン®)は鎮咳去痰薬として承認を得た医療用医薬品です。
子どもにも幅広く使用されていますが、需要増加にて2023年8月に供給が追いつかないという通知が流れました。
医療用医薬品 鎮咳薬アスベリン製剤の供給について(周知依頼) - お知らせ|一般社団法人日本呼吸器学会
ざっくり言うと品薄・欠品ということです。
現場では在庫確保のためにメンタルをすり減らしている状況…。

ところで、この薬の効果はどれほどなのでしょう?
鎮咳去痰薬ですが、どっちかというと咳を止めたくて処方される印象(痰はカルボシステインやアンブロキソールなど)

2019年にチペピジンの咳止め効果に関する研究結果が報告されました。


(↑分包された粉薬のつもり…)
文献:「急性咳嗽を主訴とする小児の上気道炎患者へのチペピジンヒベンズ酸塩の効果」日本外来小児科学会学会誌編集委員会 編 22 (2), 124-132, 2019-05

プラセボとの比較ではありません。
カルボシステインへの上乗せです。
各群、服用できなかったり、連絡がとれなかったりで解析から除外されたのが数名ずつ(脱落はカルボ単独群8名、併用群6名)
2日後に保護者に電話して咳の症状の変化を確認

残念ながら結果はふるわず…。
保護者の評価なので、主観的評価です。バイアスが生じている可能性はありますが(咳に過敏になりすぎて、不変なのに「まだ咳がつづいてる!悪化してる!」など)、劇的な効果はなさそうですね。

盲検化されていないので、プラセボ効果が生じそうですが、患者さん(の保護者)に対する研究の説明文書・同意書に、「小児科や耳鼻科で咳止めとして使われることの多いチペピジンは、薬がなかったとき(自然経過)に比べて早く咳が止まるのかどうかは分かっていない」と述べているので、プラセボ効果ピグマリオン効果は出にくかったかもしれません。


カルボシステインなしで、チペピジンvsプラセボのガチンコ勝負だったら、結果がかわる可能性もあるので薬理作用・臨床効果が完全否定されたとは言い切れないかもしれませんが、極論だと「去痰薬を服用しておけばOK、さらにチペピジンを追加しても咳に対する効果増強はなさそう」という感じでしょうか…。

いまの職場ではチペピジンの処方をほとんど見かけないので、自分はこの薬の在庫確保にはかかわっていませんが、SNSでの欠品による阿鼻叫喚を見ていると、使用例が多いのでしょうね。


ちなみに、効果はいまいちのようですが、薬理作用がないわけではありません。
飲みすぎたら副作用が出ますので、その点はご注意ください。
ph-minimal.hatenablog.com


さて、夢も希望もない研究結果だったかもしれませんが、そもそも他の鎮咳薬も「かぜによる咳」に劇的な効果を示したものはなかったと記憶しています。
自分は論文を読む勉強をするようになってから、かぜで咳がでていても咳止めの薬を飲まなくなりました。薬を飲もうが飲むまいが咳は出ますからね…(多少は軽減するかもですが)
「ああ…、咳うぜぇ…、でもしゃーないか…」と現代医学の限界を憂いながら、
「かぜひいて 咳が出るときゃ 休みどき」と一句詠みつつ、かぜで休める社会の構築を願っています。