pharmacist's record

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標準化eGFR40以上の後期高齢者→推算クレアチニンクリアランスは?(日腎薬誌2021)

腎機能評価に関する薬局発の論文が出ていました。ぜひとも皆様に論文に目を通してもらいたいのでご紹介します。

前置きとして、腎機能評価について簡単におさらい。

腎機能評価のゴールドスタンダードはイヌリンクリアランス。これはイコール実測GFR
蓄尿による実測クレアチニンリアランス(Ccr)も正確。ただし、実測GFRより1.2~1.3倍高くなります。これはクレアチニンの尿細管分泌によるもの。

どちらもめっちゃ大変なので実際にはこれらは臨床で使用されることは少ないです(とくに外来では)。

そこで、血清クレアチニン値に基づいて、推算式でGFRやCcrを求める方法があります。
日本人向けGFR推算式で「標準化eGFR」が、Cockcroft & Gault式(CG式)で「推算クレアチニンリアランス(eCcr)」が求められます。

標準化eGFRは標準体型に補正した腎機能ですので、重症度評価に用いられます。CKDのステージ分類ですね。単位はmL/min/1.73^2です。
一方、薬物投与設計に用いるのは体型の補正を外した個別eGFR、もしくはCG式によるeCcrとされています。こちらの単位はmL/minですね。


さて、これらは血清クレアチニン値に基づいた腎機能推算値ですから、超高齢者とくにサルコペニア・フレイル症例においては、筋肉量の減少により血清クレアチニン値が低くなって過大評価されます。eCcrも個別eGFRも過大評価されうるのですが、各推算式の特徴によりeCcrより個別eGFRのほうが高く見積もられやすいです(※)(標準体型より小柄であれば、標準化eGFRは個別eGFRよりもさらに高い数値になります)

※eCcrは年齢の影響が大きいため超高齢だと過小評価されることになり、これがお互いに打ち消しあって過大評価されにくくなるものと推測される。


患者さんがお持ちになる採血結果に載っているeGFRは標準化eGFR(mL/min/1.73m2)であることが多いです。
個別eGFRだけが載っている検査表を自分は見たことない。。。(そういうケースもあるかもしれないけど)
つまり薬物投与設計に使用される指標ではなく、CKDの重症度評価に使う指標の数値が載っている(ことが多い)ということです。

はい、前置き終わり。

では、論文の概要です。

体重・年齢の指標を用いた腎機能低下症例の抽出~検査値不明の後期高齢者に対して~
日本腎臓病薬物療法学会誌.2021年10巻3号 p. 337-345


標準化eGFR、身長、体重、血清クレアチニン値のデータが得られた後期高齢者(75歳以上)のうち、標準化eGFRが40以上の患者さんを抜粋。
そして、その715名のeCcrを算出して、eCcr40を下回る腎機能要注意患者を抽出しています。

標準化eGFR(検査表にのっているやつ)が40を上回っているけど、Ccrは40以下となったのが約17%
「男性 51.9 kg 以下または83 歳以上、女性 48.6 kg 以下または84 歳以上では、標準化eGFRが40以上でも、eCcrは40以下の可能性がある」とのこと。

※この指標(目安)は本研究のサンプルデータで得られた数値かと思います。この指標より体重が重く、年齢が若くても、クレアチニンの数値によっては標準化eGFRが40以上→eCcrは40以下になる可能性はあるので、その点は誤解なきようお願いします。目安としてご参考いただければ。


めちゃくちゃざっくり言うと、
「超高齢で体重が軽めだと、検査表に載っているeGFRがそこそこあるように見えても、eCcrは低いかもしれないので要注意やで!」って感じでしょうか(雑すぎて論文の著者の先生に怒られるかもしれませんが…)。


ちなみに、個別eGFRが40以下だったのは8%だったみたいです(eCcr40以下の人数よりも少ない)。
前述のとおり、やはりeCcrより個別eGFRのほうが高く推算されてますね~。
クレアチニンは尿細管分泌されるので実測Ccrは実測GFR(イヌリンクリアランス)よりも1.2~1.3倍高くなりますが、推算式で算出したeCcrやeGFRは高齢者ではむしろ逆転し、「eCcr<個別eGFR」になったりします。おかしいですね~。まあ、推算式には限界があるってことです(細かい話は割愛!どなたか腎のスペシャリストの先生に聞いてください!)


繰り返しますが、薬局発の論文です。
研究を実施した先生に敬意を評し、皆様におかれましては、わたくしの雑な総評&感想ではなく、ぜひ原著論文をご確認ください~。日本語で読めますから!ディスカッションの内容とかいろいろと勉強になると思いますから!