pharmacist's record

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経口糖尿病治療薬についてのレビュー/メトホルミンと腎機能/インクレチンと膵炎/ブロモクリプチンとDM/レパグリニドとクロピドグレル

ちょっと古いですが、糖尿病治療薬についてのレビューをピックアップ。

Management of type-2 diabetes mellitus in adults: focus on individualizing non-insulin therapies. - PubMed - NCBI
P T. 2012 Dec;37(12):687-96.

table1

HbA1c減少 禁忌Contraindications デメリットDisadvantages メリットAdvantages
ビグアナイド(メトホルミン) 1.0~2.0% 腎機能障害(sCr:男性1.5mg/dL以上、女性1.4 mg/dL以上)、重度の肝機能障害、薬物療法を必要とするうっ血性心不全 胃腸症状、Vb12欠乏、造影剤使用時に休薬が必要 体重変化なし、副作用が少ない、安価
SU剤 1.0~2.0% - 低血糖、体重増加 効果が早い
チアゾリジンTZDs 0.5~1.4% NYHAⅢ,Ⅳの心不全 体液貯留、体重増加、骨折、心筋梗塞の可能性増加、肝障害に慎重投与 脂質改善
αGI 0.5~0.8% 肝硬変、炎症性腸疾患、大腸潰瘍、腸閉塞 胃腸症状、服用回数が多い(1日3回) 低血糖リスクが少ない
グリニド 0.5~1.5% 併用禁忌;レパグリニドとゲムフィブロジル※ 体重増加、服用回数が多い(1日3回) 食後高血糖に適している
DPP4i 0.5~0.8% - 膵炎、長期的な安全性データの不足 体重変化なし
GLP1アゴニスト 0.5~1.0% リラグルチド;甲状腺髄様がん・多発性内分泌腫瘍症候群2型 膵炎、胃腸症状、高価、長期的な安全性データの不足、注射の負担、胃不全麻痺に慎重投与 体重減少
ドパミンアドニスト(bromocriptine)(日本ではDMに未承認) 0.5% syncopal migraines(失神に伴う片頭痛?) 胃腸症状 体重 減少~変化なし

pramlintide、colesevelamは本邦未発売のため割愛
★日本の添付文書と異なっている部分もあるので注意
(例;ブロモクリプチンは弁膜の病変があると禁忌、メトホルミンの腎機能の禁忌の指標が異なるなど)

※ゲムフィブロジルとは?
本邦未発売のフィブラート系薬剤。セリバスタチンとの併用で横紋筋融解症による死亡例あり、日本では承認申請を取り下げとなっています。


メトホルミンと腎機能障害
Ccr30以上なら投与量減量で安全に投与継続できる可能性が示唆されているが、Ccr45以下の患者に新規開始するべきではない(レビュー本文より)

ということですが、Diabetes Careに腎機能別の乳酸アシドーシスの発生率の報告がでています。

Incidence of lactic acidosis in patients with type 2 diabetes with and without renal impairment treated with metformin: a retrospective cohort study. - PubMed - NCBI
Diabetes Care. 2014 Aug;37(8):2291-5.
メトホルミンによる乳酸アシドーシスの頻度を腎機能別にレトロスペクティブ解析
対象:77,601名のメトホルミン服用のT2DM患者(2007~2012年のデータ)
アウトカム:乳酸アシドーシス(LA;lactic acidosis)
<結果>
LA35例
すべて非致死的
23例は併存疾患の関連あり

GFR(mL/min/1.73m2) 人数 LA events person-years(人年) Incidence rate per 
1,000 person-years (95% CI)
ALL 77601 35 337590 10.4(7.22–14.42)
90~ 6038 2 26266 7.6(0.92–27.51)
60~90 38836 8 172354 4.6(2.00–9.15)
30~60 31278 23 133842 17.2(10.89–25.79)
~30 1449 2 5128 39.0(4.72–140.89)

※Incidence rate per 1,000 person-yearsの項目ですが、データを見る限り10万人年につき何例という解釈のようです。

イベント数が少なすぎて、GFR30以下のデータはかなり信頼区間に幅が出ており、解釈が難しいですが、腎機能が低いほうがリスクが高い傾向にあるといえるように思います。
メトホルミンの腎機能低下例の使用制限は各国微妙に異なっているようですが、カットオフの設定は難しいですね。


インクレチン関連薬と膵炎について
Incretin treatment and risk of pancreatitis in patients with type 2 diabetes mellitus: systematic review and meta-analysis of randomised and non-ra... - PubMed - NCBI
BMJ. 2014 Apr 15;348:g2366
インクレチン関連薬と膵炎のリスクを検討したメタアナリシス
対象の研究デザイン:RCT、non-RCT、前向き・後ろ向きコホート、ケースコントロール
P:T2DM
E:GLP1 or DPP4i
C:プラセボ or 生活習慣改善 or 他の糖尿病薬
O:膵炎
言語制限なし

<結果>
55RCT(n=33,350)

膵炎の発生率 0.11%(37/33350)
インクレチン OR1.11(95%CI 0.57 to 2.17)
GLP1 OR1.05(0.37 to 2.94)
DPP4i OR1.06(0.46 to 2.45)

 
3レトロスペクティブコホート

膵炎の発生率 0.47%(1466/311915)
エキセナチド(2試験) OR0.93(0.63 to 1.36)、OR0.9(0.6 to 1.5)
シタグリプチン HR1.0(0.7 to 1.3)

 
ケースコントロール(1003 cases, 4012 controls)

インクレチン(DPP4i、GLP1) OR0.98(0.69 to 1.38)

 
ケースコントロール(1269 cases, 1269 controls)

エキセナチドorシタグリプチン OR2.07(1.36 to 3.13)


インクレチン薬が強く関連しているというわけではなさそうな印象です。

今年発表された観察研究のメタアナリシス(1,324,515名)でも、有意な上昇はみられていません。
Using real-world data to evaluate the association of incretin-based therapies with risk of acute pancreatitis: a meta-analysis of 1,324,515 patient... - PubMed - NCBI
Diabetes Obes Metab. 2015 Jan;17(1):32-41.
インクレチンと急性膵炎の関連はOR1.03(95% CI 0.87-1.20)

Incretin based drugs and risk of acute pancreatitis in patients with type 2 diabetes: cohort study. - PubMed - NCBI
BMJ. 2014 Apr 24;348:g2780
2007年~2012年、20748名のインクレチン新規処方患者と、51712名のSU剤新規処方患者を2013年3月まで追跡

患者数 膵炎発生 person-years人年 急性膵炎の発生(/1000人年)
インクレチン 20748名 27例 18682人年 1.45例/1000人年(95%CI 0.99 to 2.11)
SU剤 51712名 119例 80815人年 1.47例/1000人年(95%CI 1.23 to 1.76)

インクレチンvsSU剤 HR1.0(0.59 to 1.70)

SU剤との比較ではほぼ同等という結果となっており、T2DMの場合はインクレチンが投与されていなくても、注意すべき有害事象としてとらえておく方が妥当といえるのではないでしょうか。


ブロモクリプチンと糖尿病
日本では、パーキンソン病、末端肥大症、高プロラクチン血性排卵障害、乳汁漏出症などに適応が通っていますが、FDAよりT2DMに承認されています。
http://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2009/020866lbl.pdf
↑海外の添付文書です

Randomized clinical trial of quick-release bromocriptine among patients with type 2 diabetes on overall safety and cardiovascular outcomes. - PubMed - NCBI
Diabetes Care. 2010 Jul;33(7):1503-8
T2DM3095名、非劣性試験、プロモグリプチンでCVD複合アウトカムHR0.6(95%CI 0.35-0.96)
こんなRCTも出ているようですが、どうなんでしょうね。この発表から5年経ってますが、その後の評価はどうなんでしょうか?
ちゃんと吟味したほうが良さそうですが、フルテキストはちょっと読む時間がなくて今回はスルーします。すみません。



2012年のレビューなのでいろいろと古いところがあるかもしれませんが、系統的にまとまっていたので、Table1の表と、個人的に気になった点を別途文献検索などを行い書き連ねてみました。
海外でブロモクリプチンがDMに適応が通っていることは初めて知りました。有名なのでしょうか?

その他、レビュー本文中の記載で気になった、ピオグリタゾンについてですが、
PROactiveについての記述はちょっとどうかな?と思いました。
セカンダリアウトカムが改善って書いてありますけど、たしかあれは後付け解析でしたよね。いいとこどりしたんじゃなかったかと。
その点に言及してないようなので、他の記載内容も批判的吟味が不十分なのかもしれないと差し引いて読んだ方がいいかもしれません。


レバグリニドについては近年、クロピドグレルとの相互作用で話題になりましたね。
2012年時点では知られていなかったと思いますので、このレビューでは触れられていません。

http://www.nihs.go.jp/dig/sireport/weekly13/18150910.pdf
カナダではレパグリニドとクロピドグレルは低血糖リスクを懸念して併用禁忌

Glucuronidation converts clopidogrel to a strong time-dependent inhibitor of CYP2C8: a phase II metabolite as a perpetrator of drug-drug interactions. - PubMed - NCBI
クロピドグレルの代謝産物がCYP2C8を阻害
レパグリニドのAUCが4~5倍に上昇(対象;ボランティア)

今のところ日本の添付文書は改訂は無いようです。
併用禁忌とするか併用注意とするかは議論の余地があるかもしれませんが、注意喚起はしたほうが良いと思います。
情報収集を製薬メーカーに依存していると、このような情報を取りこぼしてしまうのでいろんなところにアンテナを張っておかないといけませんね。