pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

供給不足で品薄となっている咳止め「デキストロメトルファン」の効果はどれくらい?

全国的に咳止めの薬が品薄!
ないものはない!

あ、失礼、取り乱しました。

”咳止め”といいますが、どれくらい咳を止めるんでしょうね。

咳止めのチペピジンについてはこちらで紹介しました。
ph-minimal.hatenablog.com

ではデキストロメトルファンメジコン)は?
Googleで「pubmed dextromethorphan placebo cough」で検索


To compare the effect of dextromethorphan, promethazine and placebo on nocturnal cough in children aged 1-12 y with upper respiratory infections: a randomized controlled trial
Indian J Pediatr. 2013 Nov;80(11):891-5. PMID: 23592248
P:1~12歳の上気道感染症120人
E/C:プロメタジン vs デキストロメトルファン vs プラセボ
O:夜間の咳の重症度、咳嗽後の嘔吐、睡眠の質
プラセボと比較して優れた有効性は認められず
(詳細なデータはアブストに記載なし)


Objective and self-reported evidence of dextromethorphan antitussive efficacy in children, aged 6-11 years, with acute cough due to the common cold
Pediatr Pulmonol. 2023 Aug;58(8):2229-2239. PMID: 37232330.
(研究目的がちょっと特殊ですけど。詳細はアブストのObjective参照)
P:かぜによる咳のある6~11歳の小児128人
E/C:デキストロメトルファン vs プラセボ
O:24時間の咳の回数
→デキストロメトルファンプラセボと比べて、24時間の咳の総回数が21%減少、日中の咳が25.5%減少


Antitussive efficacy of dextromethorphan in cough associated with acute upper respiratory tract infection
J Pharm Pharmacol. 2000 Sep;52(9):1137-42. PMID: 11045895 (フルテキストフリー)
P:急性上気道感染症後の咳嗽43人
E/C:デキストロメトルファン30mg vs プラセボ(単回投与)
O:咳嗽測定値の変化((changes in cough measurement)
(「Statistics」に書いてあるアウトカムは↑ ただプライマリとの記載はない。サンプルサイズの計算に関する記載なし)
→群間差はほとんどなかった(little difference between the treatment groups)
【咳の音圧レベル】
デキストロメトルファン:81.71 dB → 73.65 dB(180分後)
プラセボ:80.99 dB → 76.69 dB(180分後)
【咳の頻度】
デキストロメトルファン:50 → 19(180分後)
プラセボ:42 → 20.5(180分後)

https://academic.oup.com/jpp/article/52/9/1137/6157592?login=false
(↑にPDFあり。Fig1,Fig2をみたほうがわかりやすい)


Effect of dextromethorphan, diphenhydramine, and placebo on nocturnal cough and sleep quality for coughing children and their parents
Pediatrics. 2004 Jul;114(1):e85-90.PMID: 15231978.
P:上気道感染症の小児100人
E/C:デキストロメトルファン vs ジフェンヒドラミン vs プラセボ
O:夜間の咳の「頻度」「重症度」「煩わしさ(bothersome )」
→いずれのアウトカムにおいてもプラセボと比較して優れた効果を示さず。
(詳細なデータはアブストに記載なし)


Efficacy of cough suppressants in children
J Pediatr. 1993 May;122(5 Pt 1):799-802. PMID: 8496765.
P:夜間咳嗽のある18ヵ月~12歳の小児49人
E/C:コデイン vs デキストロメトルファン vs プラセボ
O:咳嗽スコア(範囲0~4)、複合症状スコア(範囲0~9)
プラセボと有意差なし
(詳細なデータはアブストに記載なし)


次は、Pubmedで「Dextromethorphan cough」でフィルターをRCTにして検索
57件ヒットしますが、参考にならなそうなものは省きます(慢性咳嗽も割愛)。

Effect of honey, dextromethorphan, and no treatment on nocturnal cough and sleep quality for coughing children and their parents
Arch Pediatr Adolesc Med. 2007 Dec;161(12):1140-6.PMID: 18056558. (フルテキストフリー)
P:2~18歳の夜間咳嗽のある上気道感染症105人
E/C:はちみつ vs はちみつ風味のデキストロメトルファン vs 無治療 (就寝前単回投与)
O:咳の頻度、重症度、煩わしさ、子どもと親の睡眠の質
→デキストロメトルファンは無治療より優れていなかった

詳細は↓こちらのFig2をみてください。
https://jamanetwork.com/journals/jamapediatrics/fullarticle/571638
ちょっとだけ無治療よりスコアがいいように見えるけど、この程度の差だと効果を実感できるかはなんとも…。はちみつよりやや劣ってるのかな…(はちみつはちっちゃい子は禁忌なので注意やで!)


A comparison of the effect of honey, dextromethorphan, and diphenhydramine on nightly cough and sleep quality in children and their parents
J Altern Complement Med. 2010 Jul;16(7):787-93. PMID: 20618098.
P:24~60ヶ月(2~5歳)の上気道呼吸器感染症による咳のある小児139人
E/C:はちみつ vs デキスロトメトルファン vs ジフェンヒドラミン vs 支持療法
O:咳の頻度、重症度、睡眠の質
→咳の頻度ははちみつがもっとも有効。
アブストには詳細が載っていないが、ざっくりと表現すると「はちみつ > デキストロメトルファン >支持療法」だった模様)


Effectiveness of antitussives, anticholinergics, and honey versus usual care in adults with uncomplicated acute bronchitis: a multiarm randomized clinical trial
Fam Pract. 2023 Mar 28;40(2):407-413. PMID: 36239199 (フルテキストフリー)
P:18歳以上の合併症のない急性気管支炎、日中または夜間の咳嗽(7-point Likert scale)のスコアが4以上 194人
E/C:通常治療 vs イプラトロピウム吸入 vs デキストロメトルファン vs はちみつ (最長14日間)
O:中等度~重度の咳が続いた日数

通常治療: 5 日(IQR:4-8.75)
イプラトロピウム: 5 日(IQR:3-8)
デキストロメトルファン: 5 日 (IQR:4-9.75)
はちみつ: 6 日 (IQR:3.5-7)
※IQR:四分位範囲(25パーセンタイル-75パーセンタイル)
※新型コロナの流行によりサンプルサイズ達成できず。予定より症例数が少ない

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9619792/figure/F2/
↑こちらにFig2のカプランマイヤー曲線が。どれも似たような経過を辿った模様。

この試験でははちみつがいまいち奮わなかった模様。
はちみつは成人より小児、もしくは気管支よりも上気道の炎症に起因する咳に向いてるってこと?(←これはただの妄想)


Child assessment of dextromethorphan, diphenhydramine, and placebo for nocturnal cough due to upper respiratory infection
Clin Pediatr (Phila). 2006 Sep;45(7):633-40.PMID: 16928841
P:上気道感染症に起因する咳のある6~18歳の小児37人
E/C:デキストロメトルファン vs ジフェンヒドラミン vs プラセボ
O:夜間の症状
→それぞれの効果に有意差なし



どうでしょうか。
ザッと上位にヒットした文献をピックアップしましたが、プラセボ強しという印象
プラセボ効果っていうよりかは自然治癒でしょうね。
2023年のやつ(PMID: 37232330)は2~3割軽減したようですが、ネガティブな結果の研究が多い印象です。

↓ただ、鎮咳作用という薬理作用がないというわけではないと思われます。
A randomized placebo controlled trial to evaluate the effects of butamirate and dextromethorphan on capsaicin induced cough in healthy volunteers
Br J Clin Pharmacol. 2014 Dec;78(6):1272-80. PMID: 24995954
こちらは健常者を対象に、カプサイシン誘発性の咳嗽に対する反応を見ています。
デキストロメトルファンプラセボより咳の感受性を低下させたようです(P = 0.01)
ただし、プラセボ群も咳の感受性がベースラインよりも低下したそうです( Cough sensitivity decreased from baseline in all arms)。
ううむ。これは自然治癒というわけではないので、プラセボ効果もあるとみてよいのでしょうか。

咳止めとしてのプラセボ効果については↓でレビューされているので気になる方はぜひ。
The Powerful Placebo Effect in Cough: Relevance to Treatment and Clinical Trials
Lung. 2020 Feb;198(1):13-21.PMID: 31834478


というわけで咳止めのなかではデータ豊富な印象のあるデキストロメトルファンですが、だいたいこんな感じです。以前から抱いていた自分の認識の通りでした(2023年発表の研究もあったのが新しい収穫)。
現在、デキストロメトルファンを含む咳止めの供給が滞っており、在庫確保のために薬局も卸さんも多大な労力を費やしているというのが日本の医療の末端でおきていることです。

咳止め効果の有無をここで論じる気はありませんが、「めっちゃ効く」っていうのは期待できないと思います。ちょっと前に自分もかぜひいて(連日の検査でコロナは否定)、のどの痛みのあとにやってくる「のどイガイガ系の咳」に悩まされました。医師から申し訳なさそうに「咳止めがいま品薄で…」と言われたのですが、食い気味に「咳止めナシで大丈夫です!」と答えました。

咳止めという薬理作用はあるのかもしれませんが、少なくとも「いま咳で厄介なことになっている自分を満足させるほどの効果はない」という認識でしたので。
わずかな効果でもいいから咳止めを欲してやまない他の患者さんにまわしてくださいって感じでしたね。

自分はひたすら「のど飴舐め舐め妖怪」となり、のどの乾燥を少しでも避けるという対策で乗り切りました。「のどイガイガ系の咳」についてはとにかくのどの乾燥が咳を招く(気がする)ので、自分はとにかく「うがい」「水分補給」「のど飴」ですね。のど飴が口の中にあるうちは咳が出なかった気がするんですが気のせいですかね?飴が口の中からなくなって、水分とらずに、徐々に乾燥してきたら、咳が出てきて、またのど飴を放り込んでっていう繰り返しでした。
もちろん効果があるというデータはないので、自分の妄言です。よい子は真似しないでください!(別に害はないからやってもいいですけど…。効果の保証はできません)


※亀スピードの能力しかないくせに、怒涛のスピードでレビューしてまとめたので、もし誤記があったらすみません。臨床応用においては、ぜひ原著をご確認ください。

高齢の日本人糖尿病に対するSGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬は尿糖としてグルコースを排泄し、体重を減少させますが、高齢者においては筋肉量減少にもつながってサルコペニアのリスクを高めるんじゃねーかっていう件について、日本人高齢糖尿病患者を対象としたプラセボ対照試験の結果が出ました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37622398/

プライマリはHbA1c変化ですが、体重や筋肉量もみています。
ビジアブには載せませんでしたが、握力とかも調べた模様(そっちは割愛)。

エンパグリフロジンを投与した介入群だけみると、体脂肪だけでなく筋肉量も減ってんじゃん!って思うのですが、プラセボ群も52週間の経過とともに筋肉量はそれなりに減っているんですね(プラセボ効果と言いたいわけではなく、高齢者の1年間の自然経過ではないかと)。プラセボ群では体脂肪は減らず筋肉量だけが減っているのが印象的です。


論文の「結論」としては、「筋肉量を損なうことなく血糖値や体重を減らす」とありますが、どこまで一般化できるのかがカギとなりそうですね。

気になるのはやはりこの試験の参加者の背景です。
BMI22以上を募集しているので、参加者のBMIの平均は25.6。
BMI25.6って身長170cmなら74kgですからね。かつて減量に励んでいた(今は挫折中)自分よりも重いです。
本試験においては、うまいこと体脂肪が減ってよかったね!ということかもしれませんが、”どんな患者さんか”によって話がかわってくるかもしれません。

「SGLT2阻害薬の恩恵が大きいから投与したい症例」とは糖尿病に限らず、血糖値は高くないけど心不全やCKDがあるっていう患者さんも含まれるかと思います(最近はむしろ後者のほうが主流?)。
糖尿病でちょっと食べすぎな傾向にあって太り気味な高齢者なら本試験と同じような結果が得られそうですが、糖尿病ではない患者さんだとさまざまなパターンが考えられます。
たとえば、
余分な脂肪がないほど痩せていたら?
体が弱ってきて食事量が落ちてきている高齢者だったら?(SGLT2阻害薬はおよそ300kcal分のグルコースをお排泄する 参考:SGLT2阻害薬エンパグリフロジン服用開始後の尿量変化と尿糖の量は? - pharmacist's record←腎機能正常のデータですが)
ADLが著しく低下してほとんど動けないような高齢者だったら?

このような疑問は本試験からは答えを導くことは難しいかもしれませんね。

ただ、本試験から、筋肉よりも脂肪を減らす傾向にあり、想定したほどサルコペニア・フレイルの助長のおそれはなさそうだというのは朗報なのかなと感じました。

心不全においてはどうやらHFpEFにも有益なんじゃね?的な報告もあがってきているので、SGLT2阻害薬の恩恵が大きい高齢者もいると思います。
”高齢者”といっても、最近は寿命が長くなり、80代でもピンピンしている元気な方も多いです。
サルコペニアやフレイルを恐れすぎて、「SGLT2阻害薬がよい適応となる患者さんだけど高齢者だから避けよう」というような思考停止は避けて、個別にリスク&ベネフィットを考えるという基本姿勢が大事なのかなと思います(←それが難しくて悩ましいんですけどね…)。

「どのような高齢者なのか」を「年齢、体重、BMI」といったパラメータだけで評価するのは意外と難しいと思いますので、食事量や日常生活における活動量(パッと判断しやすいのは歩く速度など、見た目の元気っぽさ)なども重要な情報となるのではないでしょうか。

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以下、ビジアブ作成の補足。
メモ的なものなので読み飛ばしてOK

解析人数はプライマリアウトカムの解析人数としています。
この論文では、「 The primary endpoint was evaluated for the full analysis set」とある通り、プライマリはFASです。
論文の補足資料(Wordファイル)のFigS1のフローチャートには、
介入群と対照群それぞれ
Treated set:65人、64人
Full analysis set:64人、63人
Completed:62人、60人
となっています。

プライマリはFASなので、ビジアブの解析人数を64人、63人にしようと思ったのですが、Fig1やFig2Sのプライマリアウトカムのn数が64人、62人になっていました。

FASの対照群は63人のはずが1人どこへいってしまったのか自分には読み取れませんでしたが、ビジアブの記載上は介入群64人、対照群62人としました。

MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)のエサキセレノン(ミネブロ)で尿量は増えるか?

ミネブロ錠 1.25 mg、2.5 mg、5 mgに関する資料
2.7.6 個々の試験のまとめ
https://www.pmda.go.jp/drugs/2019/P20190109003/430574000_23100AMX00011_K101_1.pdf
500ページ越えの資料…(唖然)

71ページ
「尿量は、CS-3150 群及びプラセボ群で同程度であった」
CS-3150ってのはエキセサレノンのこと。

「尿中ナトリウム排泄量は、投与後のいずれの蓄尿期間でも CS-3150 群がプラセボ群より多かった。」
MRAはNa再吸収を抑制。
Na排泄量はプラセボより多かったみたいですが、利尿効果を示すほどではなかったってことでしょうか。

72ページ、図 2.7.6.3.6-2に尿量の推移のグラフあり。
しかし、ごちゃごちゃしててよく見えぬ。
投与開始4時間以内の尿量は100mg、200mgの超高用量ではプラセボより尿量が多いようにも見えますが、そもそもエキセサレノンの通常量は、2.5~5mg
臨床用量では利尿作用はないだろうってことですね。

87ページ
「投与1~4 日目及び10 日目の尿量の変化量とCS-3150 の投与量に明確な関連は認められなかった。100 mg 群のみ、投与開始前日からの変化量が、いずれの測定日でもプラス値を示した。」
こちらは10日間投与したデータでしょうか。こちらはグラフの提示がないっぽい。

468ページ
「尿量及び尿中電解質(ナトリウム、カリウム)の排泄量とCS-3150 の投与量との間に、明確な関連性は認められなかった。」
Day1,Day2,Day7のグラフあり。2.5mgが若干多いようにも見えますが、5mgは増えてない。まあ誤差範囲ってことですかね

以上

エプレレノン(セララ)のデータも見たかったんですが、見つからず。
こちらも臨床用量では尿量は増えないとみていいだろうって循環器の先生の講演で聞いたことがありますが、出典がわからず…。