pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

糖尿病自己管理教育のオンラインゲームで血糖コントロールが改善する?

先日、衝撃のニュースが

pharmacymanga.blog.fc2.com

るるーちゅ先生のブログがお休みへ…

巨星落つ…
ラオウが拳を振り上げて神々しく散っていく姿とオーバーラップしたわけですが、またいつか進化したお姿で戻ってくることでしょう。

るるーちゅ先生の4コマ漫画のブログはやっぱり影響力No1だと思っています。論文とか興味ない薬剤師でもるるーちゅ先生のブログは読んでるって方も多いのではないでしょうか。
るるーちゅ先生の穴を埋めるのは不可能に近いのですが、「るるーちゅ先生充電期間中はこっちに任せろ!」と心にもないことを軽はずみに発言した結果、毎日更新するんだねと(い、いや…毎日とは言ってないんだが…)。そして、宿題としていろんな論文が送られてきました。
し、しまった…
るるーちゅ先生が丸投げ魔人だということを忘れていました。

宿題1
糖尿病とオンラインゲーム

あれ?自分はゲームはまったくやらないのですが…
よく見てみると、これは糖尿病の教育をオンラインゲームを通して行うという介入のようです。

A Team-Based Online Game Improves Blood Glucose Control in Veterans With Type 2 Diabetes: A Randomized Controlled Trial. - PubMed - NCBI
Diabetes Care. 2017 Sep;40(9):1218-1225

P:Patients in the northeastern Veterans Affairs hospital system who are taking oral diabetes medications, have a PPR<80%, and have a HbA1c >7.5.
E:DSME game (with a civics booklet)
C:civics game (with a DSME booklet).
O:HbA1c levels
T:介入は半年、フォローアップは1年

PPR(pill possession ratio) 服薬保持率=服薬量/総処方量

どんなゲームなのかはFig1を見ればなんとなくわかるんじゃないかと。

マスキング:なし
ランダム化:あり。服薬保持率(カットオフ60%)とHbA1c(カットオフ8.5%)で4ブロックで層別化


患者背景
地域が微妙に偏っているが、他はほぼ同等
男性の割合:94%
平均年齢:60歳
HbA1c:9%
PPR80%未満:75%

サプリメンタリにフローチャートあり
http://care.diabetesjournals.org/content/diacare/suppl/2017/07/24/dc17-0310.DC1/DC170310SupplementaryData.pdf

ITTか?:ランダム化直後の人数(フローチャートのn数)と結果のtable2のn数は一致している

Lost to follow-upは?
DSME:227名→6ヶ月目 14名→12ヶ月目 26名 (計40名)
コントロール:229名→6ヶ月目 17名→12ヶ月目 23名 (計40名)

ラボデータ
DSME
6ヶ月目 201名
12ヶ月目 187名

コントロール
6ヶ月目 201名
12ヶ月目189名

脱落やデータロスがどちらかの群で圧倒的に多いということはない模様

statistical analysisにて
検出力80%で4mmol/molの差を検出するためのサンプルサイズは450名


結果は、table2、Fig3を参照

実際介入を行っていた最初の6ヶ月は、両群ともにHbA1cが0.4%(4mmol/mol)減少
介入終了後の6ヶ月のフォローアップ後のHbA1c
介入群:8mmol/mol減少
コントロール群:5mmol/mol減少



介入期間中は対照群と同程度の低下ですが、介入終了後の6ヶ月で差が見られるというよくわからない結果。
6ヶ月間のオンラインゲームでの教育で知識がついて、じわじわと結果に反映されてきたということでしょうか。

ちなみに、この12ヶ月フォローするというのは、事前に決められていたことのようです。
clinical trial gov NCT02082704にそのように記載されていますので、6ヶ月で差がつかなかったから、もう半年フォローしようっていうわけではなく予定通りのフォロー期間です。


さて、
自分はゲームはやらないのですが、子供の頃(精神年齢低いのでつい最近ともいえる)はよくやっていました。
大学時代は薬の名前とか覚えられないから、全部ゲームにしてくれないかなと思ったり。
ゲームだと覚えられますよね。RPGの呪文の名前とか。でもいまとなってはゲームだろうと記憶できなくなってきたためRPGはもう無理です。多分クリアできない…。

ちょっと脱線しましたが、ゲーム感覚で自分の病気の生活上の注意事項(糖尿病なら主に食事など?)を勉強できるのはアリなのかなという気もしますね。ただそういうのがもともと嫌いな人には不向き。

そして、ゲームってすぐ飽きちゃうんじゃないかなって気もします
半年も続けるってのはなかなかの忍耐力ですよね。
ポケモンGOも最初は凄かったですが、続けてる方はどれくらいいるのでしょうか

患者向け食事リーフレットのかわりとして、このようなオンラインゲーム(アプリ?)を提供するのも面白い試みだなと思いました。スマホでできるようなものがいいんじゃないかと思います。ちょっとした空き時間でできますから。

空き時間で思い出しましたが、効率的な時間の使い方って大事ですよね。最近、休憩時間をフル活動して論文を読んでいますがなかなかいい感じです。家で怠けるために(これ重要!)上手に時間を使いたいですね。

若年~中年の高血圧に対する薬物療法(コクランレビュー2017.8)

なぜかタイトルで惹かれてしまったコクランレビューを。

Pharmacotherapy for hypertension in adults aged 18 to 59 years. - PubMed - NCBI
Cochrane Database Syst Rev. 2017 Aug 16;8:CD008276.

背景
Hypertension is an important risk factor for adverse cardiovascular events including stroke, myocardial infarction, heart failure and renal failure.
ふむふむ、そのとおりだけどいまさらどうした?

The main goal of treatment is to reduce these events.
そりゃそうだ!

Systematic reviews have shown proven benefit of antihypertensive drug therapy in reducing cardiovascular morbidity and mortality but most of the evidence is in people 60 years of age and older. We wanted to know what the effects of therapy are in people 18 to 59 years of age.
ほぉ、なるほど。たしかに60歳未満を対象にしたのってあんまないのかなぁ?

ってわけで、PECOは、

P:adults aged 18 to 59 years with mild to moderate primary hypertension defined as SBP 140 mmHg or greater or DBP 90 mmHg or greater
E:antihypertensive pharmacotherapy
C:placebo or no treatment
O:all-cause mortality, total cardiovascular (CVS) mortality plus morbidity, withdrawals due to adverse events, and decrease in SBP and DBP
T:at least one year' duration

対象となる研究は、RCT
コクランですから、データベースはいろいろ網羅。未出版も検索。著者にもコンタクトをとってる。

異質性があればrandom-effects modelで。

dichotomous outcomesはリスク比
continuous outcomesはmean difference (MD)

聞き慣れないワードが出てくるとキョドってしまいますね。
2値変数と、連続変数ってことみたいです。
このレビューにおいては、SBP/DBPがMDで表されているんだろうなぁという感じ。

<結果>
the seven included studies (17,327 participants) were predominantly healthy adults with mild to moderate primary hypertension
選定基準に適合したRCTはあまり多くないみたいですね。7試験17,327名

死亡
Based on five studies, antihypertensive drug therapy as compared to placebo or untreated control may have little or no effect on all-cause mortality (2.4% with control vs 2.3% with treatment; low quality evidence; RR 0.94, 95% CI 0.77 to 1.13).

冠動脈性心疾患
Based on 4 studies, the effects on coronary heart disease were uncertain due to low quality evidence (RR 0.99, 95% CI 0.82 to 1.19).

総心血管死・罹患率(脳血管死・罹患率
Low quality evidence from six studies showed that drug therapy may reduce total cardiovascular mortality and morbidity from 4.1% to 3.2% over five years (RR 0.78, 95% CI 0.67 to 0.91) due to reduction in cerebrovascular mortality and morbidity (1.3% with control vs 0.6% with treatment; RR 0.46, 95% CI 0.34 to 0.64).

有害事象による脱落
Very low quality evidence from three studies showed that withdrawals due to adverse events were higher with drug therapy from 0.7% to 3.0% (RR 4.82, 95% CI 1.67 to 13.92).

降圧効果は研究によって異なるってことでなんともいえないって感じ。


ふむ、なるほど
死亡はほぼ差がないです。
この年代、冠動脈心疾患は減少せず、脳血管障害が減少。
ただ、有害事象による脱落も無視できない

アブストしか読めないのでなんともいえないところではありますが、中年の高血圧に薬物療法は微妙…って思われる方もいらっしゃるんでしょうか?
私はこれはちょっと限定的なエビデンスという気がします

このレビューのうちのほとんどが、
The Medical Research Council Trial of Mild Hypertension
という試験みたいですね。n=14,541です
平均年齢50歳、ベースラインの血圧160/98mmHg、平均追跡5年

原著はこれかな?
MRC trial of treatment of mild hypertension: principal results. Medical Research Council Working Party. - PubMed - NCBI
Br Med J (Clin Res Ed). 1985 Jul 13;291(6488):97-104.
n数が微妙に違うのが気になりますがたぶんこれかと。間違ってたらすみません。

介入は、
Treatments used in this study were bendrofluazide 10 mg daily or propranolol 80 mg to 240 mg daily with addition of methyldopa if required.

原著を見ると、プラセボとの3群比較ですね。
bendrofluazideというのはサイアザイドみたいです
もう1つの介入はプロプラノロール。

なんか古いチョイスだな…
と思ったら1985年の研究ですからね。アムロジピンとか発売されてない頃ですからしょうがない。

利尿薬はまあよいとしても(国内だとサイアザイドをファーストラインで使うDrは少なそうですが)、合併症のない高血圧にプロプラノロールがファーストラインになりえるのでしょうか?

コクランレビューの結果は、この試験の結果に引っ張られている可能性がありますが、ちょっと介入内容そのものがどうなのかなって感じがするのは私だけでしょうか。
しかもこれ降圧効果が不十分な場合に追加投与が許可されてる薬はメチルドパですからね。やっぱり現代とはかけ離れた介入なんじゃないかなぁとおもってしまいます。


これ以外の6試験の介入内容がどうだったのかコクランのアブストに記載がないですが、それもチェックが必要でしょう。

もちろん今の日本でよく使われるCCBやARBが圧倒的に優れているの?と聞かれたら、サイアザイドとは大差ないかもなぁと唸ってしまいますが、さすがにプロプラノロールは…高血圧で使うことってもうほとんどないですよねぇ。

40~50代くらいの合併症のない高血圧を対象にCCB、RASi、サイアザイドの3群でRCTやってみて欲しいなぁと思いました。探せばありそうですが、ないんですかねぇ。
CCBやRASiならもうちょっと良い結果になるんじゃないかなぁと思ってしまうのは私だけでしょうか?このレビューでは有害事象による脱落がけっこう多いという結果になってますが、これもやはり忍容性が高いRASiや長時間作用型のCCBだとガラッと変わってくるなないかなぁと勝手に思っています。

結果をどう解釈してよいか微妙なところではありますが、学んだこととは、この年代の降圧療法は心血管疾患よりも脳卒中リスクを軽減するという意味合いが強いというところでしょうか
(60歳以上でも同じかもしれないけど…。)

外用ケトプロフェンによる光線過敏症とサンスクリーン(日焼け止め)

ケトプロフェンテープによる光線過敏症は日焼け止めで防げるのか?

正直、よくわからなかったのですが…。

Ketoprofen-induced photoallergic dermatitis. - PubMed - NCBI

ケトプロフェンによる光線過敏症(皮膚炎)のレビューです。
全文フリー

日焼け止めについての記述を拾い上げてみると、
「皮膚炎を悪化させることが知られている成分(octocryleneオクトクリレン)があり、それらは日焼け止め製品に含まれる。これらの製品を避けるように患者を教育することは非常に重要」
とのこと。

これは、添付文書にも書いてありますね。
オキシベンゾン(ベンゾフェノンの誘導体)も該当するようです
(サンスクリーンとか化粧品とかまったく使わない自分にはなんのこっちゃという感じですが)

皮肉にも紫外線を避ければいいなら日焼け止めを塗ればいいじゃん!ということで、交差性(cross-photosensitization)のある製品を併用してしまうと逆効果かもよ?という感じです。
フェノフィブラートのようなベンゾフェノン骨格を含む薬剤も交差性があるようですね(類似の骨格があるかどうかが重要)。

国内の文献も探してみましょう。

日本内科学会雑誌 Vol. 96 (2007) No. 5 p. 1006-1012

治療について書いてありますね。
第一に皮疹部への日光暴露を避ける
ケトプロフェン外皮薬の場合、数週間の遮光を徹底
薬物療法ステロイド外用薬
症状に応じて、抗ヒスタミン

原因薬剤は
スパルフロキサシン
ピロキシカム
グリセオフルビン
エノキサシン
ロメフロキサシン
テガフール・テガフールウラシル
メキタジン
フルタミド
クロルプロマジン
フロセミド
サラゾスルファピリジン
カルバマゼピン
ドキシサイクリン
ヒドロクロロチアジド
プロメタジン
など

治療で抗ヒスタミン/抗アレルギー薬を使う場合、フェノチアジン系化合物で過敏症を起こした場合は、メキタジンやプロメタジンは避けたほうが良いってのは盲点かもしれませんね。


ほか、
皮膚 Vol. 35 (1993) No. 1 P 26-32
このあたりも参考になります。

ほかにもいろいろありそうですが、とりあえずここまで。

結局、よくわかってないのですが、
・日焼け止めを使えばケトプロフェンによる光線過敏症を防げるかは不明
・日焼け止めの成分によってはケトプロフェンと交差性があり、むしろ悪影響かもしれない。
・そもそも、そこまでケトプロフェンにこだわらなくていいのでは?ほかの外用NSAIDsをオススメしたいところ


気が向いたらもっと調べて追記するかもしれませんがそろそろ午後の部が始まるのでこのあたりで終了させて頂きます。

いやあ、1時間って短いですね。情報収集速度が遅いことを痛感。
なにか間違いがございましたらご指摘くださいm(_ _)m