pharmacist's record

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若年~中年の高血圧に対する薬物療法(コクランレビュー2017.8)

なぜかタイトルで惹かれてしまったコクランレビューを。

Pharmacotherapy for hypertension in adults aged 18 to 59 years. - PubMed - NCBI
Cochrane Database Syst Rev. 2017 Aug 16;8:CD008276.

背景
Hypertension is an important risk factor for adverse cardiovascular events including stroke, myocardial infarction, heart failure and renal failure.
ふむふむ、そのとおりだけどいまさらどうした?

The main goal of treatment is to reduce these events.
そりゃそうだ!

Systematic reviews have shown proven benefit of antihypertensive drug therapy in reducing cardiovascular morbidity and mortality but most of the evidence is in people 60 years of age and older. We wanted to know what the effects of therapy are in people 18 to 59 years of age.
ほぉ、なるほど。たしかに60歳未満を対象にしたのってあんまないのかなぁ?

ってわけで、PECOは、

P:adults aged 18 to 59 years with mild to moderate primary hypertension defined as SBP 140 mmHg or greater or DBP 90 mmHg or greater
E:antihypertensive pharmacotherapy
C:placebo or no treatment
O:all-cause mortality, total cardiovascular (CVS) mortality plus morbidity, withdrawals due to adverse events, and decrease in SBP and DBP
T:at least one year' duration

対象となる研究は、RCT
コクランですから、データベースはいろいろ網羅。未出版も検索。著者にもコンタクトをとってる。

異質性があればrandom-effects modelで。

dichotomous outcomesはリスク比
continuous outcomesはmean difference (MD)

聞き慣れないワードが出てくるとキョドってしまいますね。
2値変数と、連続変数ってことみたいです。
このレビューにおいては、SBP/DBPがMDで表されているんだろうなぁという感じ。

<結果>
the seven included studies (17,327 participants) were predominantly healthy adults with mild to moderate primary hypertension
選定基準に適合したRCTはあまり多くないみたいですね。7試験17,327名

死亡
Based on five studies, antihypertensive drug therapy as compared to placebo or untreated control may have little or no effect on all-cause mortality (2.4% with control vs 2.3% with treatment; low quality evidence; RR 0.94, 95% CI 0.77 to 1.13).

冠動脈性心疾患
Based on 4 studies, the effects on coronary heart disease were uncertain due to low quality evidence (RR 0.99, 95% CI 0.82 to 1.19).

総心血管死・罹患率(脳血管死・罹患率
Low quality evidence from six studies showed that drug therapy may reduce total cardiovascular mortality and morbidity from 4.1% to 3.2% over five years (RR 0.78, 95% CI 0.67 to 0.91) due to reduction in cerebrovascular mortality and morbidity (1.3% with control vs 0.6% with treatment; RR 0.46, 95% CI 0.34 to 0.64).

有害事象による脱落
Very low quality evidence from three studies showed that withdrawals due to adverse events were higher with drug therapy from 0.7% to 3.0% (RR 4.82, 95% CI 1.67 to 13.92).

降圧効果は研究によって異なるってことでなんともいえないって感じ。


ふむ、なるほど
死亡はほぼ差がないです。
この年代、冠動脈心疾患は減少せず、脳血管障害が減少。
ただ、有害事象による脱落も無視できない

アブストしか読めないのでなんともいえないところではありますが、中年の高血圧に薬物療法は微妙…って思われる方もいらっしゃるんでしょうか?
私はこれはちょっと限定的なエビデンスという気がします

このレビューのうちのほとんどが、
The Medical Research Council Trial of Mild Hypertension
という試験みたいですね。n=14,541です
平均年齢50歳、ベースラインの血圧160/98mmHg、平均追跡5年

原著はこれかな?
MRC trial of treatment of mild hypertension: principal results. Medical Research Council Working Party. - PubMed - NCBI
Br Med J (Clin Res Ed). 1985 Jul 13;291(6488):97-104.
n数が微妙に違うのが気になりますがたぶんこれかと。間違ってたらすみません。

介入は、
Treatments used in this study were bendrofluazide 10 mg daily or propranolol 80 mg to 240 mg daily with addition of methyldopa if required.

原著を見ると、プラセボとの3群比較ですね。
bendrofluazideというのはサイアザイドみたいです
もう1つの介入はプロプラノロール。

なんか古いチョイスだな…
と思ったら1985年の研究ですからね。アムロジピンとか発売されてない頃ですからしょうがない。

利尿薬はまあよいとしても(国内だとサイアザイドをファーストラインで使うDrは少なそうですが)、合併症のない高血圧にプロプラノロールがファーストラインになりえるのでしょうか?

コクランレビューの結果は、この試験の結果に引っ張られている可能性がありますが、ちょっと介入内容そのものがどうなのかなって感じがするのは私だけでしょうか。
しかもこれ降圧効果が不十分な場合に追加投与が許可されてる薬はメチルドパですからね。やっぱり現代とはかけ離れた介入なんじゃないかなぁとおもってしまいます。


これ以外の6試験の介入内容がどうだったのかコクランのアブストに記載がないですが、それもチェックが必要でしょう。

もちろん今の日本でよく使われるCCBやARBが圧倒的に優れているの?と聞かれたら、サイアザイドとは大差ないかもなぁと唸ってしまいますが、さすがにプロプラノロールは…高血圧で使うことってもうほとんどないですよねぇ。

40~50代くらいの合併症のない高血圧を対象にCCB、RASi、サイアザイドの3群でRCTやってみて欲しいなぁと思いました。探せばありそうですが、ないんですかねぇ。
CCBやRASiならもうちょっと良い結果になるんじゃないかなぁと思ってしまうのは私だけでしょうか?このレビューでは有害事象による脱落がけっこう多いという結果になってますが、これもやはり忍容性が高いRASiや長時間作用型のCCBだとガラッと変わってくるなないかなぁと勝手に思っています。

結果をどう解釈してよいか微妙なところではありますが、学んだこととは、この年代の降圧療法は心血管疾患よりも脳卒中リスクを軽減するという意味合いが強いというところでしょうか
(60歳以上でも同じかもしれないけど…。)