pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

PPI中止vs継続 (コクランレビュー2017)

社内の研修に行ってみたりすると(強制なので逃げられない)、なんというかいろいろ温度差を感じるわけですが、どうも最近の風潮からかポリ=悪みたいな感じになってますね。
なにを根拠に言ってんだろうなぁとか思ったり。

最近のPPIディス祭もやはり知れ渡っているみたいで、そんな発言をしてらっしゃる人もいましたね
ケア○ットとか日○メディカルみたいな論文紹介サイトみたいなのをご覧になっているのかなぁ。それともブログとかですかねぇ。ぶっちゃけ論文なんて読めなくても、ネットの世界にアンテナを伸ばしておけばそれなりの情報は手に入りますしね。

そこで、ふと思うのですが、アブストを和訳しただけ、みたいな文献紹介を読んでそのまま丸飲みしている方も多いと思います。
論文を吟味できる人が忙しくて時間がないため、そういう記事を読んで知識を増やしていくのはいいと思うんです。いざというとき、自分自身で原著にあたってその情報のグレードを評価できるわけですから。

でも、RCTて何?観察研究てなに?みたいな感じで、何もわかっていない状態のまま、アブスト和訳の結果だけ見て、○○というエビデンスがーみたいなことを言うようになると…。
うーん。
それってどうなんでしょう。
一次情報を吟味できないのに、エビデンスアブストの結論だけ)を振りかざすようになるとまずいのでは?

ハッ!!この言葉、ブーメランとなって自分の後頭部に突き刺さった気がします!!痛いです!!!

もっと論文読まなければ!と思うんですけどね…。遅いんですよね~。スピーディに読むためにはやはり英語の壁は高いといまだに思ってるんですが、みなさんはサクサクいけちゃうんでしょうか。自分は無理です。英語キライ。統計キライ。

で、話を戻しますが…。
研修のディスカッションみたいなやつで、PPIに否定的なエビデンスの話が出たとき、この論文をぶちまけてみようかな?なんて思ったりしたんですけど、そこはメインテーマではなかったし時間制限もあったので(ていうかめんどくさいので)スルーしました。

Deprescribing versus continuation of chronic proton pump inhibitor use in adults. - PubMed - NCBI

PPIの「中止or減量」vs「継続」のシステマティックレビューです
対象研究はRCT/準RCT

6試験を選定1758名48〜57歳(1試験だけ、平均73歳)

Five trials investigated on-demand deprescribing and one trial examined abrupt discontinuation.
オンデマンドって何でしょうね。「要求に応じて」だから頓服みたいなことでしょうか?
バッサリ切ったのは1試験のみってことみたいです。

対象となった研究の参加者は、
nonerosive reflux disease or milder grades of esophagitis
非びらん性胃食道逆流疾患か軽度の食道炎

結果は、
There was low quality evidence that on-demand use of PPI may increase risk of 'lack of symptom control' compared with continuous PPI use (risk ratio (RR) 1.71, 95% confidence interval (CI) 1.31 to 2.21), thereby favoring continuous PPI use (five trials, n = 1653).

うーん、ちょっとリスク比だとイメージが沸きにくい。
NNHが知りたいところですが、アブストのデータだけだと算出できなそう。

患者満足度も超大事ですが、どうでしょう?
There was also low quality evidence that on-demand PPI use may be associated with reduced participant satisfaction compared with continuous PPI use


エビデンスの質は低いとしながらも症状コントロールや患者満足度は継続使用のほうが高いということですね。

こんなSR&MAもありますし、患者さんのナラティブを無視してPPIの処方は要らねぇ!なんて安易に言えないですよねぇ。

低用量アスピリンなんて飲んでたりしたら、
Proton pump inhibitors in prevention of low-dose aspirin-associated upper gastrointestinal injuries. - PubMed - NCBI
こんなことになってますからね。切るの怖いですよね。

PPIのネガティブデータ(※)はいろいろ出てますが、はたして交絡の層を完全に剥がすことができているのでしょうか?正直、自分にはよくわかりません。

本当は研修という場でこのような悩ましい問題をじっくり議論すべきなんですよ。
管理薬剤師相手に「添付文書ベースド疑義照会」みたいな研修は不要です。そんなの自力でできるはず。
「悩ましい問題はそもそも答えがないので教えるのが難しい」という側面も教育側からしたらあるのかもしれないですが、悩ましい問題に足を踏み込まないままでは、「教育」という言葉自体、薄れて消えてしまいますよね。



Risk of community-acquired pneumonia with outpatient proton-pump inhibitor therapy: a systematic review and meta-analysis. - PubMed - NCBI
Continuous Proton Pump Inhibitor Therapy and the Associated Risk of Recurrent Clostridium difficile Infection. - PubMed - NCBI
Use of proton pump inhibitors and risk of hip fracture in relation to dietary and lifestyle factors: a prospective cohort study. - PubMed - NCBI
Association of Proton Pump Inhibitors With Risk of Dementia: A Pharmacoepidemiological Claims Data Analysis. - PubMed - NCBI
Proton pump inhibitors linked to hypomagnesemia: a systematic review and meta-analysis of observational studies. - PubMed - NCBI
Proton Pump Inhibitor Use and the Risk of Chronic Kidney Disease. - PubMed - NCBI
Proton pump inhibitors and the risk of acute kidney injury in older patients: a population-based cohort study. - PubMed - NCBI
Association of Gastric Acid Suppression With Recurrent Clostridium difficile Infection: A Systematic Review and Meta-analysis. - PubMed - NCBI(これはH2RAも含む)
Risk of death among users of Proton Pump Inhibitors: a longitudinal observational cohort study of United States veterans. - PubMed - NCBI
Community acquired pneumonia incidence before and after proton pump inhibitor prescription: population based study. - PubMed - NCBI
Proton-Pump Inhibitor Use and the Risk of First-Time Ischemic Stroke in the General Population: A Nationwide Population-Based Study. - PubMed - NCBI
Use of Proton Pump Inhibitors and the Risk of Hospitalization for Infectious Gastroenteritis. - PubMed - NCBI
Proton-pump inhibitors and risk of fractures: an update meta-analysis. - PubMed - NCBI

(以上、気が向けば読むかもしれない…。こうやってまとめておけばあとで役に立つときがくるかも…しれない)

非喘息性急性下気道感染症に対する経口ステロイドvsプラセボ(JAMA2017)

JAMA2017,8より
昨日メール飛んできた発表ほやほやの経口プレドニゾロンの論文ですッ

Effect of Oral Prednisolone on Symptom Duration and Severity in Nonasthmatic Adults With Acute Lower Respiratory Tract Infection: A Randomized Clin... - PubMed - NCBI
JAMA. 2017 Aug 22;318(8):721-730.

研究デザイン:Multicenter, placebo-controlled, randomized trial

P:"急性の咳","抗菌薬を必要としない、少なくとも1つ以上の下気道感染症状","慢性肺疾患の既往がない","過去5年間に喘息治療薬の使用なし"
401 adults with acute cough and at least 1 lower respiratory tract symptom not requiring immediate antibiotic treatment and with no history of chronic pulmonary disease or use of asthma medication in the past 5 years
E:40-mg prednisolone (n = 199) 分1
C:placebo (n = 202) 分1
O:中等度の咳の持続期間と2~4日目の症状の重症度
治療期間:5 days.
資金提供:National Institute for Health Research (NIHR) (UK).

プライマリアウトカムは2つ
資金提供は製薬メーカーではない

少なくとも1つ以上の下気道感染症状ってなんだろう?ってことでISRCTN57309858.をチェック
Phlegm (sputum)
Chest pain
Shortness of breath
Wheeze
このどれかってことでしょうね

アブストのアウトカムに臨床的に重要な差も記載されているのがわかりやすくていいですね(詳細は原著を参照)

患者除外基準は、
肺がんや慢性肺疾患(COPDなど)
気管支喘息(5年以内に治療あり)
など

ベースラインの患者背景
mean age, 47 [SD, 16.0] years; 63% women; 17% smokers; 77% phlegm; 70% shortness of breath; 47% wheezing; 46% chest pain; 42% abnormal peak flow),


<結果>
Median cough duration was 5 days (interquartile range [IQR], 3-8 days) in the prednisolone group and 5 days (IQR, 3-10 days) in the placebo group (adjusted hazard ratio, 1.11; 95% CI, 0.89-1.39; P = .36 at an α = .05).
Mean symptom severity was 1.99 points in the prednisolone group and 2.16 points in the placebo group (adjusted difference, −0.20; 95% CI, −0.40 to 0.00; P = .05 at an α = .001).


有害事象に差はみられず、重篤な有害事象の発生はないってことですが、PSL40mg/日で5日間…、それなりになにか影響ありそうな気もしてしまいますが、、、。n=400近いですが、有害事象を検討するのには不十分だったりするんですかね。有害事象の詳細が見てみたいところです。

セカンダリとして抗菌薬の使用量が検討されています
抗菌薬を必要としない患者群といえど、必要に応じて抗菌薬投与された模様。これもプラセボと有意差なし。

このあたりの結果の詳細を読んでみたいところですね。


wheezeや胸痛が約5割に認められている患者群に抗菌薬無しで(投与許可されてるみたいですが)、ステロイドを入れるという感覚がいまいち自分にはピンと来ないのですね。
で、その抗菌薬を必要としないっていう判断の基準はなんなのかってところ、そこが一番興味がわきました。

これについてはISRCTN57309858.を見ましょう。
NICEガイドラインにそった記述があります。
抗菌薬を考慮するのはどんなとき?

ちょこっと抜き取ると、「頻呼吸20回以上、片側性の胸部徴候、SpO2<94%」などという記述…。あとは基礎疾患とか…
参考になるので是非ISRCTN57309858を読んでチェックしてみてください。
NICEのガイドラインというのもちょっと見てみたくなってきましたね


さて、率直な感想としては、自分がこの患者組み入れ基準に適するようなLRTIを発症したとして、PSLがっつり飲みたいか?と言われれば、別に要らないっす!という感じでしょうか。

咽頭炎に対する経口ステロイドのほうがもうちょっとマシな結果だったような(似たようなもん?)
咽頭炎に関しては、地域医療ジャーナルに書いたのでそちらをご参照ください
cmj.publishers.fm
経口ステロイド短期使用の有害事象のコホート研究なども取り上げています。

最近、この手の研究結果がチラホラと…。咽頭炎もJAMAでしたね。
咽頭炎、LRTIと続きましたが他にもあるのでしょうか!
正直なところ、外来で管理できるレベルの感染症の患者さんにステロイドって必要なんですかね。
有害事象のほうが怖そうな印象ですが…。

くわしいことは知りませんが、現時点ではあまり経口PSLをすすめたい気持ちにはならないですね。
もう少し有害事象について詳しい情報が欲しい。地域医療ジャーナルでとりあげたBMJ2017の文献以外にも探してみよっかなという気持ちがフツフツと沸いてきましたが、眠気も湯水のようにフツフツと沸き起こってきて意識が朦朧としてきたので今日はこのへんでおひらき。

転倒による怪我の予防介入のRCT

今日は昼休みとれそうです!
昼休みブログ更新活動!さっそく論文!

先日、ベンゾジアゼピンと転倒に関する抄読会のなかで、転倒を予防するための介入はないんだろうかという話になり、気になったので調べてみました。


Interventions for the prevention of falls in older adults: systematic review and meta-analysis of randomised clinical trials. - PubMed - NCBI
SR&MA
対象はRCT
さまざまなデータベースを参照、referenceも。
P:60歳以上の高齢者
E:転倒予防の介入(運動、教育、マネジメントプログラムなど)
C:通常ケア
O:転倒

結果は
22試験より、risk of falling (risk ratio 0.88, 95% confidence interval 0.82 to 0.95) I2=31%

おおむね、リスク減かな?という感じですが、本文のfig2,3を見ると、
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC381224/figure/fig2/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC381224/figure/fig3/
うーん、なんとも微妙な感じですね。
視覚的にみると異質性高そうな気も…

運動の介入も有益(NNT16)ってことですが、きちんと介入しないと逆に転倒したりしそうな気もしますね。
マネジメントプログラムはNNT11

さまざまな介入研究を集めているので、各研究ごとに個別に吟味したほうがよさそうな印象

ちなみにfunnel plot(どこに載ってるのか見つかりませんでしたが)は出版バイアスはないことを示唆
2名で独立して評価し、
元論文バイアスはjadadスコアで評価したっぽい。ちょっと古いやり方ですかね。まあ、10年以上前のSR&MAですから。


じっくり読んでみたいところですが時間がない!

1つだけRCTも!

Prevention of fall-related injuries in long-term care: a randomized controlled trial of staff education. - PubMed - NCBI

クラスターRCT(112施設をランダム化)

P:寝たきりではない65歳以上の高齢者 10,558名
E:2日間の集中的な安全訓練プログラム
(居住空間やpersonal placeでの安全性を目標としたプログラム。)
C:とくに介入なし?(すみません、時間内に記述見つけられず!泣)
O:入院や受診を必要とするような転倒による怪我
フォローアップ:1年

介入の詳細は本文参照
(杖や車椅子の使用における注意なども含まれているみたいです。向精神薬に対する評価・介入も行った模様)

結果は、ネガティブ
There was no difference in injury occurrence between the intervention and control facilities (adjusted rate ratio, 0.98; 95% confidence interval, 0.83-1.16).

これはちょっと驚き。
クラスターRCTですがかなり規模の大きい試験で改善みられず。
ただこの研究は受診を必要とするレベルの転倒による怪我なので、ちょっと転んだだけみたいなのはカウントされません。

このような介入自体が無効なのか、介入方法に問題があった(教育・指導が十分ではなかった等)のか、なんともいえませんが、転倒防止策としてどのような介入が有効なのか、もっといろいろ調べないとなんともいえませんね。
ただちょっと気になったのは、control群の施設も、介入は受けてないにしろ、転倒気をつけようぜっていう意識が働いた可能性はあるような気がします。独自に対策をとったかどうかはわかりませんが、このような研究に参加しているからには、意識は高まるんじゃないかなぁと。


さて、休憩時間が終わりました。
Limitation等、もっと読んでみたいところではありますが今回はこのあたりで終了です。

つづく…かも?