pharmacist's record

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【風邪】葛根湯 vs パブ□ンゴールド!!

諸事情により漢方の勉強をしなくてはならなくなりました。

正直、まったくわからない。自分にできることは漢方関連のエビデンスを抽出することくらい…。

有名な漢方薬といえば葛根湯。
ということで、まずはこの有名なRCTを。
葛根湯と市販の総合感冒薬(パブ□ンゴールド®)のRCTパブロンゴールド)
Non-superiority of Kakkonto, a Japanese herbal medicine, to a representative multiple cold medicine with respect to anti-aggravation effects on the... - PubMed - NCBI
Intern Med. 2014;53(9):949-56. Epub 2014 May 1.PMID:24785885
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日本で行われたRCTですね
参加者には盲検化はしてないです。漢方のプラセボ化は難しいんですかねぇ。

407名というのはランダム化直前の人数。研究登録は410名です。

組み入れ基準と除外基準はかなり細かく決められいます。
詳細を知りたい方はUMINのサイトへ(UMIN000003610)

ザッと基準を見ていくと、
受診時に症状が中等度以上の方は除外(よって、RCTシートでは"軽度の風邪"としました)。
虚弱体質の方も除外(葛根湯って実証でしたっけ?)
他、基礎疾患のある方はことごどく除外です。
へぇ~と思ったのが、スポーツ競技会出場予定者も除外。なるほど、ドーピング問題ということですね。


ベースラインの風邪症状をざっくりまとめておきましょう。
頭痛:30%
肩こり:葛根湯43%、パブ□ン32%(有意差あり)
鼻水:67%
鼻づまり:50%
くしゃみ:44%
咽頭痛:80%
咳:45%
痰:35%
寒気:55%
倦怠感:50%
熱:36.6℃

組み入れ基準で、のどの違和感あり、となっていますので、咽頭痛を有するものが多いですね。


介入内容ですが、どちらも市販薬です。

・葛根湯(クラシエの製品 葛根湯エキス顆粒A)
Japanese Pharmacopoeia(JP) Pueraia Root (Kakkon) 8.0 g, JP Ephedra Herb (Mao) 4.0 g, JP Jujube (Taiso) 4.0 g, JP Cinnamon Bark (Keihi) 3.0 g, JP Penoy Root (Syakuyaku) 3.0 g, JP Glycyrrhiza(Kanzo) 2.0 g, and JP Ginger (Shokyo) 1.0 g(1日量6gあたりの配合成分)
パッと見、医療用と同じですね。

余談ですが、葛根湯の味は、characteristic odor and sweet, then hot and slightly bitter tasteとのこと。

・パブ□ンゴールドA
dihydrocodeine phosphate 24 mg, dl-methyl ephedrine phosphate 60 mg,guaifenesin 125 mg, acetaminophen 900 mg, lysozyme hydrochloride 60 mg, carbinoxamine maleate 7.5 mg, absolute caffeine 75 mg, vitamin B1 derivative 24 mg and vitamin B2 12 mg
(1日量3.6gあたりの配合成分)
こっちにもエフェドリンが入ってますね。
そして、コデインも入ってます。
おっ、医療用からは姿を消したリゾチームが。。。これって一般用医薬品のなかでは生き残ってるんですかね?

あと気になったのが、製品ブランドサイト(https://www.catalog-taisho.com/explanationbook/04515_Explanation3.pdf)では、クロルフェニラミン(抗ヒスタミン薬)が入っていると明記されていますが、論文には記載がない。な、なぜだ……?と思ったら、carbinoxamineていうのが抗ヒスタミン薬らしい…。いつのまにか抗ヒスタミン成分が切り替わっていたということですかね。
ひとつひとつチェックしていくと、リゾチームは現在の商品には配合されてないです。
研究開始のころの製品と現在の製品では配合が異なっているようですね。


研究の流れを見ていくと、完全な試験脱落はわずかですが、解析にまわっていない症例がチラホラ(つまりITT解析ではないと思うんだけど、All analyses were performed on an intention-to-treat basisとの記載が……)。
解析除外の理由はDocumented at least one severe symptom at enrollment
研究登録時に重篤な症状を1つ以上有していた、つまり研究対象外の患者だったから解析から除外したということのようです。研究対象外だったことが後からわかったってことですかね。


さて、結果ですが、有意差無しです。
どっちかといえばやや葛根湯有利というところでしょうか。ほぼ差はないですけどね。

アウトカムの風邪症状の悪化Aggravation of cold symptomsは、
Aggravation of cold was judged when one of the nasal (running or congestion), throat (soreness) or bronchial (cough or sputum) symptoms became moderate or severe on two consecutive days during the first 5 or 7 days. When a baseline symptom was recorded as moderate, aggravation to severe was regarded as the endpoint.
とのこと。

肝心の有害事象の内訳が書いてないので残念。
効果に差がないなら、有害事象で評価したいところなんですけどね。
それにしても有害事象全体で4.2%vs7.0%って少ないですね。たいていこういうのってもっと多くなりそうな気がするんですけど。薬と関係なさそうな症状もピックアップされるでしょうから…。


さて、問題の証の考慮についてです。
漢方支持者とそうでない人とのあいだで、しばしばネット上で戦争が行われています。
自分は興味がないので、ワイングラス片手に猫の頭を撫でながら、その戦争を眺めているのですが、勝利の行方を見ないまま閉じてしまうので、結局、議論の行方は知らないまま。

漢方の有効性が示せなかった試験があると、使い方がおかしいみたいな意見が出たりして平行線のまま終わるっていうこともありそうでせうよね。ただ、使い方は大事です。適正使用されずに他剤と比較されて勝てませんでした!ていうのは「ちょっと待って」案件ですよね。
ウチの子は野球選手なのに、なんでサッカーさせてるの!ていう大げさな事例はないと思いますが、センターなのにファーストで使わないで!みたいな微妙な事例はあるのかなぁ。

案の定、この研究の著者も、証の考慮をしていないと考察で述べており、専門家が患者の性質に基づいて処方していれば、研究結果は異なっていたであろうと推察しています。


葛根湯の証ってどんな感じでしたっけ?ということで、調べてみると、葛根湯の証は以下のとおり
・比較的体力がある
・風邪の引き始め
・発熱、悪寒、頭痛、関節痛、首や肩のこわばり
・汗をかいていない
(漢方スクエア 絵でわかる漢方処方解説より)

この研究では、悪寒があること、汗をかいていないことは研究組み入れ基準にあり、研究著者はこの2つしか考慮しなかったと考察で述べています。
ただ虚弱体質の方は除外されているので、"比較的体力がある"は満たしていますね。
発症48時間以内となっているため、"風邪の引き始め"という発症時期に関する基準も設けられています(48時間以内では遅すぎるという意見もあるかもしれませんが)。
肩のこわばりを有する割合も、一般的な風邪患者さんと比べるとやや多い印象もあります(印象で語ってすみません。データ比較はしてません…。)

この研究対象患者さんは、それほど葛根湯の対象として大きくずれているようには見えません。漢方素人の自分の印象なのでアテにはなりませんけどね。

個人的には「葛根湯って思ったほどすごくいい薬ではなさそうだなぁ…」という印象。
あるいは、「総合感冒薬もなかなかやるなぁ」とか「ていうかどっちもたいして効いてないのでは?無治療群もあったらぜんぶ有意差なかったりして」とか、いろんな意見があることでしょう。

オープンラベルってことがどのようなバイアスを生むんでしょうね。無治療群との比較だったらプラセボ効果が影響しそうですが、漢方と西洋薬との比較…。さて、いかがでしょう。

ランダム化比較試験は内的妥当性という意味で最強であることは間違いないと思いますが、外的妥当性においては注意を要します。たとえば、この研究はUMINのサイトに細かい基準が載っています。ただ、そこに記載されていなくても考慮すべきことはあるように思います。

たとえば、この研究を踏まえて、風邪症状を有する漢方嫌いの患者さんに葛根湯を処方するのはどうなのか…。
個人的にはナシかと。
だって、このような研究に参加する人って漢方苦手意識ゼロの人ですよね。
除外基準にはありませんが、漢方が嫌いな人はそもそもこの研究には参加しないと思われるため、漢方が嫌いって人に葛根湯を推すのはやはり違うのではないかという気がします。
漢方のRCTにおいては、漢方が嫌いではないという見えないクライテリアが発動しているのではないかと思う今日この頃。


さて自分はというと、最近、まったく風邪をひいていないため、このような風邪薬とは無縁の日々を送っています。
本当に風邪にかかっていないのか
風邪をひいたことをすぐに忘れてしまうのか
風邪をひいたことに気づいていないのか
"忘れている"が有力ですが、そのときになにか対症的な薬剤を使用したかどうかも覚えていないです。おそらく飲んでいないのでしょう。
風邪をひいたら、仕事を休んで寝るという対処こそが体を労わるためには大事なんじゃないかなぁ。このすばらしい素敵な対処法を全世界に周知することが急務であると思っていますが、それが許される社会ではないような気がしているので、そのような社会の病みを治していく必要があるのではないでしょうかッ!
代わりのいない仕事をしている方々は大変だと思いますが、「おまえのかわりなんていくらでもいる!」(※)とかいうパワハラワードが飛び交う世の中なのに、風邪で休めないというのは狂ってますよね~。

※幸い職場でこんなひどい言葉を投げかけられたことはありませんが、誰でも自分のかわりをつとめることができるというのは、組織としてはうまくいっているんじゃないかって気もしますね。まあ、私のかわりはいくらでもいるのでその点はいいところです。ただ、コマ数が足りないっていう問題が…。薬剤師は数年後に過剰になるって数年前に言ってた人たちはいずこへ…??