pharmacist's record

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単純性尿路感染症に抗菌薬は必須なんだっけ?

先日書いた膀胱炎についての記事(単純性膀胱炎に第3世代セフェムってどうなんだっけ? - pharmacist's record)の続編です。

「おっ、放置するであろうと予想されたホスホマイシンについて調べたのか!?」と思った方、申し訳ございません。そこは残念ながら放置です。

前回のRCTの結果を見て、ふと、思ったんです。思ってしまったんです。
ぶっちゃけ抗菌薬つかわなくてもまあまあ治るんじゃないの?って…(無知ですみません)。

で…、プラセボ対照のRCTなんてあるのかな?と調べようと思ったのですがめんどくさくなり、文献検索するのをやめました。

で、なにをしたかというと、「そういやいつだったかイブプロフェンと抗菌薬を比較したRCTがあったな…」と。
なんか、話題になっていた気がする。

薬の名前さえわかってりゃ、グーグル先生で一発検索だ!

すぐに見つかりました。
Ibuprofen versus pivmecillinam for uncomplicated urinary tract infection in women-A double-blind, randomized non-inferiority trial. - PubMed - NCBI
PLoS Med. 2018 May 15;15(5):e1002569.PMID:29763434

pivmecillinam …、な、なんだそれは…。
どうやらペニシリン系の抗菌薬でグラム陰性菌にけっこう効くらしい。

このPivmecillinamという名前にどうもデジャブを感じて、もやもやしていたところ、先日チェックしたサンフォードの尿路感染症の項目に載ってましたね。第二選択薬の一覧に載ってました。なぜ先日のブログに書かなかったかというと、そんなもんは日本にねぇ!と思ったためです。

ところが、調べてみると、なんと以前日本にもあった薬みたいですね。ぜんぜん知らなかった。
また大事な抗菌薬が発売中止の日本・・・ - 感染症診療の原則
青木先生(※)のブログです。リンクフリーとのことでしたので恐れ多くも貼り付けさせていただきました。
"青木先生が発売中止を残念がる抗菌薬"ということですね。

このペニシリン系抗菌薬のピブメシリナム(メリシン 発売中止)を対照薬として、イブプロフェンの有効性を検討した非劣性試験です
さっそくビジアブを。

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組み入れ基準についてもう少し触れておくと、
尿路感染症ってのは、
dysuria combined with either increased urinary frequency or urinary urgency or both, with or without visible hematuria
とのこと
肉眼的血尿の有無にかかわらず、頻尿や尿意切迫感、もしくはその両方を伴う排尿障害って感じでしょうか。

除外基準については、症状1週間以上持続のほかに、
upper UTI (fever, upper back pain, reduced general condition); vaginal irritation/discharge; severe abdominal pain
などなど
Upper UTI(上部尿路感染症)てのは、腎盂腎炎などをさすんでしょうね。まあそりゃさすがに抗菌薬無しってのはありえないですよね。
糖尿病など慢性疾患もいろいろと除外されてます。

介入の投与量はどうでしょう
イブプロフェン、読み間違えかなと思うくらい多いですよね。600mgてのはどうやら1日量ではなく1回量のようです。

そこで、イブプロフェンの海外の用法用量は?
https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2007/017463s105lbl.pdf
海外は600mg錠とか800mg錠があるらしい…。
リウマチやOAの承認用量は、
Suggested Dosage: 1200 mg-3200 mg daily (300 mg qid; 400mg, 600 mg or 800 mg tid or qid)
とのこと。

ちなみに、サンフォードにおける、ピブメシリナムの用量は 400mgを1日2回、3~7日間とのことでした。

非劣性マージンは10%
解析はITTではなくFASで、若干脱落・中断が多いような気もしなくもないですが、まあこんなもんですかねぇ。3日間の治療でこんなに中断するもんなんでしょうか…?


で、結果ですが、これはもう明らかに劣ってますね。
やはり抗菌薬が必要なんだなぁと感じました。

試験中断理由として、
イブプロフェンでNo effect/Got worseが8名、Adverse eventは0名
抗菌薬でNo effect/Got worseは0名、Adverse eventは2名
こんなところにも微妙な違いが出てますね。

そして気になる合併症
腎盂腎炎(pyelonephritis)は、
イブプロフェン7名
抗菌薬0名
(ほかにもいろいろ比較データが載ってますので、ぜひ原著をご確認ください。)

うーん。

対症療法でも半数以上が改善するので、wait-and-see strategy(経過観察として、抗菌薬の処方を遅らせる?)で抗菌薬の使用量軽減に寄与しうる…と書いてありますが、自分が患者さんの立場だったら抗菌薬を飲みたい!て思っちゃいましたね…。

論文の最後の一文は「抗菌薬が必要な患者さんを特定できるようになるまでは、イブプロフェンのみを推奨することはできない」とのこと。
たしかに、どういう人には抗菌薬が必要かが特定できるようになるといいですね。


※この本「感染症診療マニュアル」を執筆した超有名な先生です。