pharmacist's record

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低血糖と血圧上昇(&低血糖症状のおさらい)

Hypoglycemia-induced blood pressure elevation in patients with diabetes. - PubMed - NCBI
Arch Intern Med. 2010 May 10;170(9):829-31
背景:低血糖に続発する交感神経副腎系の活性化を介した血圧上昇はヒトの実験で実証されているが、低血糖イベント後の血圧の変化はあきらかにされていない。

<対象患者>
T1DM4名、T2DM18名。平均罹病期間18年
14名(T1DM4名/T2DM10名)がインスリン療法
18名が降圧療法

<方法>
持続血糖測定(CGM;Continuous Glucose Monitoring)と24時間自由行動下血圧測定(ABPM;Ambulatory Blood Pressure Monitoring)を実施

血糖値は5分後とに測定
血圧は日中は15分毎に測定、夜間は30分毎

低血糖の定義は60mg/dL以下


<結果>
低血糖12名(55%)、計14回エピソードあり、そのうち11回は午前7時から午後11時の間に発生
低血糖の自覚症状を訴えた患者はいない(No patient reported symptoms of hypoglycemia)

低血糖時の血糖値の中央値は50 mg/dL (extreme values, 40-59 mg/dL)
低血糖持続時間の中央値は25分 (extreme values, 10-120 minutes)

低血糖イベントの30~60分後にSBP(systolic blood pressure)が23%上昇(range 3%-38%)、
平均SBP125→154mmHg(p=0.003)
DBP(diastolic BP)は上昇がみられるも有意ではない(p=0.07)
心拍数(heart rate)は上昇なし

βブロッカーやジルチアゼムのような陰性変時/変伝導作用を持つ薬の使用→心拍数安定
上記薬剤の使用なし→心拍数増加傾向、SBP上昇と相関あり

年齢、糖尿病罹病期間、腎機能、低血糖の持続時間/重症度→→血圧上昇と相関はみられなかった

平均血糖値と平均SBPのグラフ
f:id:ph_minimal:20160623003202p:plain


<感想>
グラフを見れば、一目瞭然ですが、血糖値が低下した時に血圧が高くなっている傾向がみられます。
低血糖になるとカテコラミンが放出されるのでその影響でしょうか。

心拍数の増加は有意ではなかったとのことですが、βブロッカーなどの服用により抑えられていただけなのかも?と示唆されている模様

で、気になるのが、
低血糖発作時は必ず血圧は上昇傾向を示すのか?」
です。

言い換えれば
「(たとえば意識障害をきたしているとき)血圧が普段より低ければ低血糖は除外できるのか?」と。

これはおそらく違うでしょう。

以下を参考に低血糖について復習。
重篤副作用疾患別対応マニュアル|医薬品医療機器情報提供ホームページ
http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/file/jfm1104010.pdf

60‐70 mg/dL未満 自律神経(交感神経)症状(とくに急激に低下したとき) 冷や汗、動悸、頻脈、手指のふるえ、顔面蒼白など
30 mg/dL未満 中枢神経症 意識障害、嗜眠、集中力低下、せん妄、けいれんなど

(他、空腹感、めまいや頭痛、いらだちなどもみられる。自律神経症状?中枢神経症状?)

低血糖を繰り返していたり、高齢者の場合などは、自律神経症状を自覚しないこともある。

交感神経症状はインスリン拮抗ホルモンが活性化していることを意味する

健常者においては空腹時でも血糖値は70mg/dLを下回ることはほとんどない。


症例報告としてこちらが紹介されています
ナテグリニドによる遷延性重症低血糖の1例
糖尿病 Vol. 52 (2009) No. 10 P 843-848

50歳男性、T2DM、腎機能低下(Stage 3)あり。
ナテグリニドで治療中
感冒様症状にて数日間食事摂取困難→低血糖による意識障害

入院時:体温36.6℃,脈拍68回/分,血圧86/62 mmHg, 血糖値26mg/dl
Cr8.7mg/dL, BUN108.3 mg/dL, K5.7 mEq/L, Na130 mEq/L
脱水による急性腎不全をきたしたことが誘引とのこと


この症例ではむしろ血圧は低下しています。
意識障害をきたす、つまり中枢神経症状まできたすと血圧は上昇傾向を示すとは限らないといえるのかもしれません(ちなみに、重篤副作用マニュアルで紹介された別の症例では、血糖値25mg/dLで入院、入院時血圧142/80mmHg。低下するとも限らないのかも)
意識障害における血圧測定の意義といえば、こちらが有名ですよね(意識障害+血圧上昇→脳卒中の可能性あり? - pharmacist's record

ちなみにナテグリニドは主に肝代謝(腎5-16%)ですが、活性代謝物のM1とM7も未変化体の1/3程度の活性を持つとされ、血糖降下作用があります。未変化体の腎排泄が停滞し、低血糖の原因になったのでは?という気もしますが、血中濃度はM1,M7よりナテグリニドのほうが血中濃度が高かったようです。

経口糖尿病薬の主要代謝経路はこちら↓
(5) 経口血糖降下薬
日本透析医学会雑誌 Vol. 46 (2013) No. 3 p. 334-339


さて話は戻りますが、血糖値が50mg/dL前後まで低下すると交感神経作用により血圧上昇傾向となっていることから、ACCORD試験でみられた予後の悪化の原因のひとつなのかな?とも思える血圧上昇との相関が認められています。
低血糖を起こさずに血糖コントロールをすることは、適正な血圧コントロールにもつながるのかもしれませんね。


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