pharmacist's record

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眠剤と骨折リスク(PLoS One2015 国内のスタディ)

眠剤の転倒/骨折リスクについて、入院患者のデータを解析した日本の研究です。

Hypnotics and the Occurrence of Bone Fractures in Hospitalized Dementia Patients: A Matched Case-Control Study Using a National Inpatient Database. - PubMed - NCBI
PLoS One. 2015 Jun 10;10(6):e0129366.
背景:院内での転倒/骨折の防止は老年医学において重要な課題。眠剤は高齢者の転倒/骨折の危険因子だが、睡眠薬の使用と骨折の関連性についてのデータは不十分。

研究デザイン:ケースコントロールスタディ
P:日本の50歳以上の認知症入院患者(認知症;AD、VaD、ピック病など)
E:眠剤の投与
C:眠剤の投与なし
O:入院中の骨折
資金提供:なし(The authors have no support or funding to report)

院内骨折をケースとして同定し、同じ病院から同様の年齢(±5歳)、同じ性別で4例のコントロールを選定(1:4のa matched case—control study)。それぞれのケースで4例以上のコントロールの候補があった場合、ランダムに4例のコントロールを選択。

<結果>
140494人の患者のうち、830人が入院中に骨折
マッチしたコントロールを選定
Cases(n=817),Controls(n=3158)
併存疾患(Charlson comorbidity indexのスコア):ほぼ同等
ADL:寝たきりは両群ともに56.3%で同等だが、障害なく平らな床を歩ける割合は、ケース13.9%、コントロール18.7%と差がある。

Cases(n=817) Controls(n=3158) オッズ比(95%CI)
BZ系抗不安薬anxiolytic 12.0% 8.8% 1.15(0.90 – 1.47)
ジアゼパムdiazepam 5.6% 5.4% 0.91(0.65 – 1.29)
超短時間型BZ系睡眠薬 2.9% 1.7% 1.53(0.94 – 2.50)
短時間型BZ系睡眠薬 21.2% 14.6% 1.43(1.19 – 1.73)
中間型~長時間型BZ系睡眠薬 7.0% 5.0% 1.01(0.70 – 1.45)
超短時間型非BZ系睡眠薬 23.7% 14.6% 1.66(1.37 – 2.01)
メラトニン作動薬 4.2% 2.6% 1.25(0.84 – 1.88)
ヒドロキシジンhydroxyzine 14.6% 9.1% 1.25(0.84 – 1.88)
フェノチアジン系抗精神病薬 3.1% 1.8% 1.06(0.57 – 2.00)
ハロペリドールhaloperidol 15.2% 9.9% 1.16(0.91 – 1.48)
スルピリドsulpiride 3.2% 1.7% 1.57(0.95 – 2.57)
リスペリドン・ペロスピロン 17.6% 10.9% 1.36(1.08 – 1.73)
MARTA(眠剤として使用) 9.4% 6.9% 1.07(0.79 – 1.44)
抗うつ薬眠剤として使用) 6.1% 3.3% 1.38(0.97 – 1.98)
漢方(used as hypnotic and in treatment of BPSD) 6.1% 6.1% 0.72(0.52 – 1.00)
他の眠剤として使用された神経学的な薬(neurological drugs) 3.8% 2.9% 1.10(0.62 – 1.96)
Number of drugs
0 33.2% 48.1%
1 24.6% 23.6%
2 18.0% 13.7%
≥3 24.2% 14.6%


観察研究なのでデータの解釈には注意が必要ですが、日本のデータですし参考にはなるかなと思って取り上げてみました。
印象的だったのは、眠剤は長時間作用型より、短時間型のほうが骨折との関連が強いという点です。
BZ受容体にはω1~ω3(オメガ)のサブタイプがあり、小脳に分布するω1は鎮静催眠、脊髄に分布するω2は筋弛緩・抗不安作用に関与するようです。文献を調べてみると、ω1は運動失調をおこさず睡眠活性を、ω2は筋弛緩作用に影響とされています(Neurosci Biobehav Rev. 1994 Fall;18(3):355-72.PMID: 7984354)
超短時間型非BZ系睡眠薬とはゾルピデムやゾピクロンを指しているのだと思いますが、ともにω1への選択性が高いとされているわりに、観察研究においては骨折リスクが有意に高くなっています。


では、抗不安薬も含めたベンゾジアゼピンBZDと骨折に関する文献をチェックしてみたいと思います。

Association between use of benzodiazepines and risk of fractures: a meta-analysis. - PubMed - NCBI
Osteoporos Int. 2014 Jan;25(1):105-20.
こちらの19のケースコントロールと6つのコホート研究のメタアナリシスでも、BZDは骨折リスクと関連がある(RR1.25 95%CI[1.17-1.34]、 65歳以上:RR1.26 95%CI [1.15-1.38])が、サブ解析において、長時間型BZDは相対リスクRR1.21(95%CI 0.95-1.54)と、統計的に有意ではなかったという結果となっており、とくに短時間型のBZDは骨折リスクを増加、との結語です。


Risk of hip fracture among older people using anxiolytic and hypnotic drugs: a nationwide prospective cohort study. - PubMed - NCBI
Eur J Clin Pharmacol. 2014 Jul;70(7):873-80
こちらは前向きコホート研究。n=39,938でプライマリは股関節骨折。
standardized incidence ratio (SIR)は、抗不安薬でSIR1.4(1.4-1.5)、眠剤でSIR1.2(1.1-1.2)
とくにリスクが高かったのは、短時間型抗不安薬SIR1.5(1.4-1.6)
リスクが少ないと考えられていた非BZD系睡眠薬(Z-Drug)は夜間骨折のSIR1.3(1.2-1.4)、日中SIR1.1(1.1-1.2)


Risk of fractures requiring hospitalization after an initial prescription for zolpidem, alprazolam, lorazepam, or diazepam in older adults. - PubMed - NCBI
J Am Geriatr Soc. 2011 Oct;59(10):1883-90
後ろ向きコホート研究
対象は65歳以上、アウトカムは入院を必要とする非椎体骨折や股関節骨折
治療前と比較した90日間治療後の非椎体骨折のrate ratioは、

rate ratio
zolpidem(n=43,343) 2.55(95%CI 1.78-3.65)
alprazolam(n=103,790) 1.14(95%CI 0.80-1.64)
lorazepam(n=150,858) 1.53(95%CI 1.23-1.91)
diazepam(n=93,618) 1.97(95%CI 1.22-3.18)

ゾルピデムのリスクは、アルプラゾラムロラゼパムを凌ぎ、ジアゼパムに匹敵との結語


Nonbenzodiazepine sleep medication use and hip fractures in nursing home residents. - PubMed - NCBI
JAMA Intern Med. 2013 May 13;173(9):754-61
ケースクロスオーバー研究
P:50歳以上の介護施設長期入居者15528名(平均年齢81歳)
E/C:非BZD睡眠薬ゾルピデム、エスゾピクロン、zaleplon)の投与の有無
O:股関節骨折

股関節骨折odds ratio(95%CI)
non-BZD 1.66(1.45-1.90)
non-BZD new user 2.20(1.76-2.74)

 
サブ解析(table3)

股関節骨折odds ratio(95%CI)
認知機能
正常~軽度 1.86(1.56-2.21)
中等度~重度 1.43(1.15-1.77)
尿失禁についてUrinary incontinence
Always continent or always incontinent失禁無し、または常に失禁 1.70(1.43-2.01)
Intermittently incontinent間欠的失禁 1.63(1.30-2.04)

認知障害の重症度との関連がはっきりしません。重度のほうが移動が少なく、また移動に介護を必要とするため、重度のほうが転倒が少ないのかもしれません。
介護施設において夜間の排尿時の転倒が多いとのことで、失禁についての関連も検討しています。このような観点からサブ解析をするという視点は良いですね。間欠的に失禁のみられる患者のほうが夜間トイレに行く頻度が多いということだと思うのですが、差はなかったようです。


薬理作用の観点からふらつきの副作用が少ないとされているゾルピデムですが、けしてリスクが低いとは言えないようですね。

ゾルピデムについては、いつも勉強させていただいている先生のブログをご紹介いたします。
ゾルピデムは骨折リスクが低いですか? - 薬局薬剤師の記録的巻物

Sleep.2014 Apr 1;37(4):673-9 PMID:24899758によるとゾルピデムによる骨折リスクは、65歳以上の高齢者においては、年間NNH170くらいです。
個人的な印象としては思ったよりNNH低いなと。ただ、骨折リスク高そうな人にはメーカーさんの触れ込みどおりゾルピデムを使っておこうという交絡もあるかもしれないと思いました。


こちらはBZD以外の薬も含めた骨折リスクの研究。
Is use of fall risk-increasing drugs in an elderly population associated with an increased risk of hip fracture, after adjustment for multimorbidit... - PubMed - NCBI
BMC Geriatr. 2014 Dec 4;14:131
スウェーデンコホート研究
対象は75歳以上の高齢者。各薬剤の股関節骨折のリスクを評価
38407名中2.07%で股関節骨折あり。年齢、性別、multimorbidity levelを調整。

オピオイドopioids OR1.56(95%CI 1.34-1.82)
ドパミン作動薬dopaminergic agents OR1.78(95%CI 1.24-2.55)
抗不安薬anxiolytics OR1.31(95%CI 1.11-1.54)
抗うつ薬antidepressants OR1.66(95%CI 1.42-1.95)
催眠/鎮静薬hypnotics/sedatives OR1.31(95%CI 1.13-1.52)

心疾患に用いられる血管拡張薬、利尿剤、βブロッカー、CCB、ACEi、ARBなどは骨折リスクとの関連は認められず。
上記一覧表に記載の転倒リスクのある薬は、股関節骨折のリスクを増加させるとの結語。


こちらはアウトカムが骨折ではなく転倒です。
Benzodiazepines and the risk of falls in nursing home residents. - PubMed - NCBI
J Am Geriatr Soc. 2000 Jun;48(6):682-5.
背景:BZDを必要とされる介護施設の入居者において、短時間型のBZDが推奨されている。長時間型BZDは転倒/外傷のリスクとなるので避けるべきとされているが、これらのデータは地域在住の高齢者におけるものである。
研究デザイン:後ろ向きコホート
P:介護施設の入居者2510名
E/C:BZDの使用。半減期別に検討
O:転倒

転倒Rate Ratio(95%CI)
BZD使用 1.44(1.33-1.56)
ジアゼパム2mg 1.30(1.12-1.52)
ジアゼパム8mg 2.21(1.89-2.60)
BZD使用7日以内 2.96(2.33-3.75)
BZD使用30日以内 1.30(1.17-1.44)
半減期<12hのBZD 1.15(0.94-1.40)
半減期12-23hのBZD 1.45(1.33-1.59)
半減期≧24hのBZD 1.73(1.40-2.14)
半減期<12hのBZD睡眠薬の夜間転倒 2.82(2.02-3.94)


転倒/骨折リスクの文献は多数あり、他にもさまざまな文献があると思いますが、拾いきれませんね。重要文献を見落としていたらすみません。
ちなみに認知症そのものが骨折リスクであるという報告もあります(調整OR1.82 1.03-3.23 PMID: 12364918 Rev Saude Publica. 2002 Aug;36(4):448-54.)

高齢者にBZDを投与する上で注意すべき点は、

①転倒リスクについてのJ Am Geriatr Soc.2000の文献で示唆されているとおり、BZDの転倒リスクは投与初期に多いため、とくに注意が必要。骨折リスクについても初期のほうが高リスク(Arch Intern Med. 2004 Jul 26;164(14):1567-72.PMID:15277291)
②日中の転倒については長時間型や筋弛緩作用のあるBZDが高リスクと考えられるが、睡眠薬においては、むしろ作用時間が短いほうが骨折リスクが高かった
③ω1受容体選択性/短時間型だから安全とは限らず、短時間型ω1選択性睡眠薬は筋弛緩作用の影響というよりは夜間覚醒時の転倒による骨折リスクが懸念される(長時間型睡眠薬は夜間覚醒が少ないからリスクが少ないという見方もできる)

以上、今回とりあげたいくつかの文献から得た知見です。
あくまで個人的な見解に過ぎないので、可能であれば原著を確認して評価していただきたいと思います。