表題のとおり臨床疑問を頂きました。
骨粗しょう症治療薬PTH(Parathyroid Hormone)製剤は骨形成促進作用があり、リモデリングを起こすことで骨密度を改善、骨折のリスクを軽減すると言われています(PTHは骨吸収を促進するが、間欠的投与により骨芽細胞を増やし骨形成が促進)。
2011年のガイドラインでは、“ファーストラインとは言えないが、ビスホスホネートやSERMによる治療でも骨折を生じた例や、高齢で複数の骨折を生じた例、骨密度の低下が著しい場合に推奨されている”となっています。
(2015年版は拝見してないので、立ち位置が変わっていたらすみません汗)
骨折についての文献としてメタアナリシスがあります。
Effect of teriparatide on bone mineral density and fracture in postmenopausal osteoporosis: meta-analysis of randomised controlled trials. - PubMed - NCBI
Int J Clin Pract. 2012 Feb;66(2):199-209
8RCT(n=2388)のメタアナリシス
P:閉経後骨粗しょう症
E:テリパラチド皮下注射20μg/day(range10-40)
C:プラセボ注射、プラセボ経皮パッチ、HRT、アレンドロネートなど
O:BMD(骨密度)、骨折リスク
試験期間:6か月~36か月
<結果>
椎体骨折(vertebral fractures) | risk ratio 0.30(95%CI 0.21-0.44)(3trials,n=1452) |
非椎体骨折 | risk ratio 0.62(95%CI 0.44-0.87)(3trials,n=1842) |
このように骨折リスクの低下が期待できるPTH製剤ですが、痛みの軽減も期待できるのでしょうか?
back painで文献検索してみました。
The effects of teriparatide on the incidence of back pain in postmenopausal women with osteoporosis. - PubMed - NCBI
Curr Med Res Opin. 2005 Jul;21(7):1027-34.
骨折予防を検討した臨床試験の二次解析
P:閉経後の骨粗しょう症の女性
E:テリパラチド(ヒトPTH 1-34)20μg/d(n=541)
C:プラセボ(n=544)
O:背部痛の発生/悪化
試験期間:19か月
<結果>
背部痛 | テリパラチド | プラセボ | 相対リスク減少 |
moderate or severe | 11.5% | 16.5% | 31%減少 |
---|---|---|---|
severe | 2.2% | 5.2% | 57%減少 |
Reduced risk of back pain following teriparatide treatment: a meta-analysis. - PubMed - NCBI
Osteoporos Int. 2006 Feb;17(2):273-80.
椎体骨折は最も一般的な骨粗鬆症骨折でありQOLの低下と背部痛の原因となる
テリパラチドは骨量を増加させ、椎骨および他の骨粗しょう症骨折の危険性を低減することが示されている。
5つの二重盲検ランダム化比較試験のシステマティックレビュー
4RCT:閉経後の女性
1RCT:突発性性腺機能低下症または骨粗鬆症の男性
2RCTは対照群がプラセボ
2RCTは対照群がアレンドロネート
1RCTはホルモン補充療法に対するテリパラチド上乗せ試験
<結果>
テリパラチドは対照群と比較して、100人年(patient-years)あたりの背部痛(back pain)の発生率を有意に減少
背部痛 | 相対リスク |
any | RR0.66(95%CI 0.55-0.80) |
---|---|
moderate or severe | RR0.60 (95% CI, 0.48-0.75) |
severe | RR0.44 (95% CI, 0.28-0.68) |
テリパラチドの投与量:20μg/日と40μg/日の間に差はない
プラセボや骨吸収抑制薬antiresorptive drugs(※)と比較したメタ分析でも同様の結果が得られた。
※hormone replacement therapy(HRT)、alendronate
<結論>
テリパラチドは、プラセボやアレンドロネート、HRTと比べて、背中の痛みの発症/悪化のリスクを低下させる。
Reduction in the risk of developing back pain persists at least 30 months after discontinuation of teriparatide treatment: a meta-analysis. - PubMed - NCBI
Osteoporos Int. 2006;17(11):1630-7
イントロダクション:テリパラチドは骨折リスクを減少させる。また、プラセボや骨吸収抑制剤と比べて、背部痛の痛みの発生を減少させる
試験終了から30か月の追加フォローアップ
4つのDB-RCTのメタアナリシス
背部痛のリスク(vsプラセボor骨吸収抑制剤)
背部痛 | 相対リスクRR(95%CI) |
any | RR0.73(0.61-0.87) |
moderate or severe | RR0.72(0.58-0.89) |
severe | RR0.39 (0.25-0.61) |
有意な異質性なし
サブ解析
2 placebo-controlled trials (n=1,617) は同様の結果でリスク軽減。
2 antiresorptive therapy comparator trials (n=296)はmoderate or severe back painに関して統計的有意差はなし
背中の痛みを経験した患者の累積割合が30ヶ月のフォローアップを通して対照群と比較して有意に低い(p <0.001)
Back pain during different sequential treatment regimens of teriparatide: results from EUROFORS. - PubMed - NCBI
Curr Med Res Opin. 2010 Aug;26(8):1799-807.
研究デザイン:前向き、ランダム化、オープンラベル
P:脆弱性骨折を起こした骨粗しょう症の閉経後の女性
E/C(substudy 1)
最初の1年間:テリパラチド20μg/d(n=507)
次の1年間:①テリパラチド20μg/d(n=305)、②ラロキシフェン60mg/d(n=100)、③no active treatment(n=102)
(全例、カルシウム剤、VD剤投与)
O:背部痛。VAS(0~100mm)による自己評価
<結果>
最初の1年(全例テリパラチド、対照群なし)でVASのmeanSDは48.9mm→11.5mm
次の1年
テリパラチド | ラロキシフェン | no active treatment | |
VAS meanSD | -2.2mm | -4.4mm | +0.7mm |
<結論>
最近の椎体骨折の存在にかかわらず、テリパラチドは背部痛の減少に関連
いろいろピックアップしてみましたが、概ね、テリパラチドは背部痛の発生や増悪の減少が期待できるという結果のようです。
最後の文献、アブストラクトしか見れないのですが、全例テリパラチド1年投与後にランダム化しての1年間追加試験で、テリパラチドよりラロキシフェンのほうがやや痛みが軽減しているみたいです(conclusionでラロキシフェンについての記述はありませんが)。最初の1年でVASが11mmまで減少しているので、臨床的に有意義な差とは言えないような気もしますが、ちょっと気になりました。両薬剤のガチンコ対決もあるなら見てみたいものです(Pubmedではこの文献しか引っかかりませんでした)。
腰痛は辛いですよね。ただ、注射の痛みも嫌だな…なんて思ったりもします。
PTH製剤の経口薬が開発されるといいですね。