pharmacist's record

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ビタミンD製剤 エルデカルシトールvsアルファカルシドール

2011年にエルデカルシトールが発売され、よく処方されるようになりましたが、その実力は従来のVD製剤と比べてどれほど優れているのでしょうか?


A new active vitamin D3 analog, eldecalcitol, prevents the risk of osteoporotic fractures--a randomized, active comparator, double-blind study. - PubMed - NCBI
Bone. 2011 Oct;49(4):605-12.
研究デザイン:二重盲検ランダム化比較試験、ITT解析
P:骨粗しょう症患者1054名(46~92歳)
E:エルデカルシトール0.75μg/d
C:アルファカルシドール1μg/d
O:椎体骨折vertebral fracturesの発生(セカンダリ;非椎体骨折、骨密度BMDや骨代謝マーカー)
追跡期間:3年
資金提供:中外製薬

<患者特性>

平均年齢 72歳
男性 2~3%
BMI 22
腰部(Lumbar)BMD Tスコア:-2.7
股関節(total hip)BMD Tスコア:-2.3
既存椎体骨折の数0 37%
既存椎体骨折の数1 30%
既存椎体骨折の数2以上 33%

※Tスコアについて
PTH製剤とビスホスホネートの併用は有用? - pharmacist's record

<結果>
エルデカルシトール543名中528名が薬を服用→427名3年間の試験完遂→528名安全性の解析(有効性は526名)
アルファカルシドール544名526名が薬を服用→410名3年間の試験完遂→526名安全性の解析(有効性は523名)

脱落理由
有害事象:エルデ・アルファそれぞれ31名・40名
同意撤回Withdrew consent:42名・47名
など

新規椎体骨折の発生(Fig2)

エルデカルシトール アルファカルシドール
0-1年 5.9% 5.6%
1-2年 4.0% 5.6%
2-3年 3.9% 7.0%


3年間累積発現率

エルデカルシトール アルファカルシドール ハザード比HR NNT
椎体骨折 13.4% 17.5% 0.74(90%CI 0.56-0.97) NNT24
非椎体骨折 8.0% 9.5% 0.85(95%CI 0.55–1.31)
手首骨折wrist fracture 1.1% 3.6% 0.29(95%CI 0.11-0.77) NNT40

 

有害事象(table2)

有害事象 エルデカルシトール アルファカルシドール risk ratio(95%CI)
尿中カルシウム増加 25.6% 15.6% 1.64(1.28–2.10)
血中カルシウム増加 21.0% 13.5% 1.56(1.19–2.04)
便秘Constipation 7.4% 11.0% 0.67(0.45–0.99)
発疹Exanthem 2.8% 6.3% 0.45(0.25–0.82)
尿路結石Urolithiasis 1.3% 1.0% 1.39(0.45–4.37)
背部痛back pain 13.6% 15.4% 0.89(0.66–1.19)
下痢 9.5% 7.2% 1.31(0.88–1.96)

尿中Caの増加は、eGFRの減少と関連は無し。ベースラインからの変化(36ヵ月)
エルデカルシトール:eGFR69.0(±13.6)→65.8(±14.4)
アルファカルシドール:eGFR68.4(±14.5)→66.7(±14.3)



スポンサーが中外製薬だったのが意外でした。アルファロールのメーカーさんだったんですね(と思ったらエディロールの製造販売元も中外製薬でした H28.4追記)。
率直な感想なんですけど、こんなに脱落多いの?と思いました。
あと、プライマリアウトカムなんですが、信頼区間が90%なのはなぜでしょう。 predefined 90%CIと「事前に定義された」という記載になっているのは、95%CIだと有意差でなかったから90%CIにしたのではないということでしょうか。(90%CIのほうが有意差が出やすくなると思います。間違っていたらご指摘ください。)
でも、セカンダリの非椎体骨折は95%CIとなっていてなんかよくわかりませんね…。

Fig6のサブ解析を見ると、既存骨折が多いほうが、また75歳以上のほうが、群間差が大きい(エルデカルシトールのほうが有効)傾向にあります。
股関節BMDが低い群のほうが、群間差が大きいですが、腰椎BMDは低い群のほうが、なぜか差が小さいです。むしろ、腰椎BMDがあまり悪くない群のほうが群間差が大きい傾向。
骨折リスクが高い患者群のほうが、優位性が大きくなるのかなと思いましたがBMDのサブ解析が「?」でした。
腰椎BMDのTスコアが-2.5以上の群では骨折イベントの総数が少ないので、ブレたのかな?という気はします。

有害事象を見ると、血中Ca、尿中Caの増加が印象的。
便通に関しては、便秘と下痢の割合を見ると、エルデカルシトールのほうが便が緩くなる傾向にあるようです。


最後に薬価対決(2016年1月時点)
エディロール0.75μg®(エルデカルシトール) 100.5円
アルファロール1μg®(アルファカルシドール) 77.9円(ジェネリックだと9.9円)

アルファカルシドールにはジェネリックがあるので、90円の差。
1日1回服用なので、保険無しで年間3万3千円くらい。

日本全体の医療費のことを考えるとこの差は大きいと思いますが、1割負担の方も多いでしょうから、自己負担額の差が年間3千円くらいなら、エルデカルシトールを服用したいと思う患者さんが多いですかね?

本当に骨折リスクが大幅に低下するなら良いのですが、どうもプライマリアウトカムの信頼区間は気になりますね…。
統計のことは疎いのでよくわからないのですが、90%信頼区間で評価しましょうと事前に定義するRCTなんてあるんでしょうか。
試験のプロトコルとか調べればわかるのでしょうか…。
うーん、もやもやする結果です。