pharmacist's record

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Case Report(ゾルピデムによるSRED;Sleep related eating disorder)

眠剤として広く用いられているゾルピデムによる変わった副作用についてご紹介。

BMJのケースレポート
Sleep-related eating disorder secondary to zolpidem. - PubMed - NCBI
BMJ Case Rep. 2013 Feb 21;2013
睡眠関連摂食障害SRED(Sleep related eating disorder)は部分的な意識喪失・健忘を伴う夜間睡眠中の飲食エピソードを特徴とする。
ゾルピデムを含むいくつかの薬剤(他、トリアゾラム、オランザピン、リスペリドンなど)によって引き起こされることがある。
(類似疾患;NES(night-eating syndrome)は部分的に意識を伴い、記憶も保持される)

[Case presentation]
53歳女性
既往:高血圧、脂質異常症不眠症(夫のOSAS※による)
(※参考睡眠をとっているのに、日中眠い? 睡眠時無呼吸症候群 - pharmacist's record
服用:ゾルピデム10mg(5年)、シンバスタチン、カプトプリル
夜間睡眠中の奇妙な行動あり。牛乳や果物などの飲食(ときに料理も)が家族に目撃される。
その最中、彼女はほとんど目を閉じていて、呼びかけには応答するが支離滅裂。記憶も残っていない。
直近1ヶ月では、週2~3回エピソードあり。
朝の吐き気、食欲低下、疲労などの訴えあり(morning nausea, reduction of appetite and fatigue)
1年間で6kgの体重増加あり→BMI26
睡眠時間は0時半~8時半と規則正しい。

ゾルピデム中止により改善、不眠症に対してはクロナゼパム開始
その後、食事療法など行わずに1年で体重5kg減少、BMI23.5へ。


ゾルピデム誘発性SREDは37例報告あり
さらに18例発見(table1)

<ポイント>
不眠症や他の神経疾患に対するゾルピデムの使用の増加はSREDを増加させうる
・SREDは睡眠を妨げ、QOLを低下、患者とその家族に事故の危険性あり
ゾルピデム中止はSREDの改善につながる
・医師は有害事象を回避するため、SREDの症状について患者やその家族に問診する必要がある。


<感想>
実際お目にかかったことはありませんが、ピックアップできていないだけでSREDを引き起こしているケースも見受けられるのかもしれません。家族が異常に思わなければ、気づかれないかと思います。
文献には、まさにSREDをおこしている動画も掲載されています。英語がわかりませんが、受け答えが支離滅裂なのでしょうか…。

診断基準は、
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2945843/
table2に記載あり
ゾルピデム服用中の日中の疲労・傾眠、とくに朝の食欲不振はSREDを疑うきっかけになるかもしれません。

治療については、まずは原因薬剤の中止なのではないかと思いますが、いくつかの治療薬が検討されています。


A pilot double-blind placebo-controlled trial of low-dose pramipexole in sleep-related eating disorder. - PubMed - NCBI
Eur J Neurol. 2005 Jun;12(6):432-6.
研究デザイン:二重盲検ランダム化クロスオーバー試験
P:SREDの患者11名
E:プラミペキソール0.18-0.36mg
C:プラセボ
O:夜間睡眠パラメータ(睡眠効率、運動活性、覚醒エピソードの回数や持続時間)
結果:脱落なし、夜間の活動を減少(p=0.02)、良好な睡眠の回数を増加(p=0.02)
→アウトカムが微妙に代用な気がしますが、一応DB-RCTではあるので、それなりの効果はあるのかもしれません。


Treatment of nocturnal eating syndrome and sleep-related eating disorder with topiramate. - PubMed - NCBI
Sleep Med. 2003 May;4(3):243-6.
比較試験ではなく、治療報告のようです。
SRED2名、NES2名をトピラマートで治療しています。
NES1名は完全に夜間飲食がなくなり、SRED1名・NES1名は顕著な応答率、SRED1名は中等度の効果。
3名はトピラマート100mgで改善あり
すべての患者において、体重減少がみられた(平均11kg減)
→比較試験ではないことに注意。トピラマートはそもそも体重減少の効果が認められている薬なので食欲低下作用が影響しているのでは?という気も。


A randomized, placebo-controlled trial of sertraline in the treatment of night eating syndrome. - PubMed - NCBI
Am J Psychiatry. 2006 May;163(5):893-8.
研究デザイン:二重盲検ランダム化比較試験
P:NES(night eating syndrome)と診断された外来患者34名
E:セルトラリン50-200mg(flexible dose可変用量)n=17
C:プラセボn=17
O:CGI改善率※
(セカンダリ;夜間飲食の変化、夜間覚醒回数、夜間飲食回数、CGI-Sなど)
試験期間:8週間

CGIは7段階評価
参考レストレスレッグスに鉄剤が有効? - pharmacist's record

<結果>
CGIスコア2以下(very much improved or much improved)
セルトラリン:71%
プラセボ:18%

肥満の被験者の平均体重変化
セルトラリン(n=14):-2.9kg
プラセボ(n=14):-0.3kg

→小規模のRCTですが、もしかしたらSSRIセルトラリンが効くかもという結果。


いろいろ試されているようですが、大規模なRCTはないようです。
Combined bupropion-levodopa-trazodone therapy of sleep-related eating and sleep disruption in two adults with chemical dependency. - PubMed - NCBI
かわりの眠剤としてトラゾドンも候補にあがるのかな?と思いましたが、タイトルだけでアブストも読めません…。


SREDの治療薬はいまひとつはっきりしませんね。
もう少しケースレポートを探してみます。

Sleep-Related Eating Disorder Associated With Mirtazapine
J Clin Psychopharmacol. 2014 Dec; 34(6): 752–753.
抑うつや自殺企画(ゾルピデム50mg服用)で入院した24歳女性

数年前より、抑うつdepressed mood、意欲喪失volition loss、睡眠障害sleep disturbanceがあり、1年前に地元のクリニックで fluoxetine(40mg/d)、トラゾドン(75mg/d)、ゾルピデム(10mg/d)を処方。
SREDにより6ヶ月で体重が50kg→70kgに増加
被疑薬はゾルピデム、fluoxetineとし、服薬中止
ミルタザピン(30mg/d)、クロナゼパム(0.25mg/d)に切り替え
2週間で抑うつや不眠は改善し、夜間の飲食は改善し退院

しかし退院後2週間で夜間の飲食あり(家族が止めようとしたらナーバスになり興奮、翌朝に記憶はない)
ミルタザピンを疑い15mg/dに減量したが改善せず、ミルタザピン中止により症状改善。

→ミルタザピンは体重増加が有名ですが、もしかしたらSRED誘発にて、夜間に過食しているのでは?という気もしてきますね…。


もう1つ、こちらは日本の症例
Successful treatment with clonazepam and pramipexole of a patient with sleep-related eating disorder associated with restless legs syndrome: a case... - PubMed - NCBI
Case Rep Med. 2012;2012:893681
詳細は省きますが、トリアゾラムが被疑薬で、クロナゼパム、プラミペキソールで改善したようです。

こちらでもクロナゼパムが登場。SREDの場合は、BZDとしてクロナゼパムが良いのでしょうか…。


Zolpidem and amnestic sleep related eating disorder. - PubMed - NCBI
J Clin Sleep Med. 2007 Oct 15;3(6):637-8.
46歳女性。うつ病不眠症のため徐放性のゾルピデム6.25mgを約1年間服用
服用60~90分後に夜間飲食のエピソードあり。
50ポンド(約23kg)増加、いびきが出るようになった(OSASと診断)。
ゾルピデム中止で夜間飲食がなくなり、かわりにエスゾピクロンを開始したが再発はみられなかった。
エスゾピクロンによって誘発されなかった理由は不明。

→こちらはクロナゼパムではなくエスゾピクロンに切り替えで、ゾルピデムのようなSREDを誘発しなかったという報告。ちなみにCOIはありません。へぇーと思ったのが、海外にはゾルピデムの徐放性製剤があるということ。それ、需要あるんですかね。超短時間作用型の意味がないような…。


いろんな報告がありますが、基本的に被疑薬の中止で改善するのでは?という気がします。
[Sleep related eating disorders as a side effect of zolpidem]. - PubMed - NCBI
Medicina (B Aires). 2010;70(3):223-6.
ゾルピデムは睡眠潜時(sleep latency)を短縮、総睡眠時間を増加。
夢遊病をおこしうるノンレム睡眠のステージ3を増加させる。
ゾルピデムによるSREDをきたした8名の患者を調査。
女性6名、男性2名。ゾルピデム投与量は10mg/d(1名のみ12.5mg)
投与開始後、平均40日で発症している。
全例、ゾルピデム中止により改善。
ゾルピデムは約1%においてSRED誘発の可能性あり。
→約1%で誘発されるという根拠は不明ですが、薬をやめれば簡単に制御できると記載されています。



ちょっとごちゃごちゃしてきましたが、SREDが疑われる場合、服用歴をチェック。
今のところ、報告としてあがっているのは、ゾルピデムトリアゾラム、リスペリドン、オランザピン、ミルタザピンなど(あまりちゃんと調べてないので、他にもあるかもしれません!)。
被疑薬の中止で改善が期待できますが、BZD中断が難しそうな場合には、かわりのBZDとしてクロナゼパムを使用するケースが多いようです。どうしても短時間作用型がよければエスゾピクロンも候補となるかもしれません。


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