カルシウム拮抗薬(CCB)といえは国内で1、2を争うシェアを誇る降圧剤であり、高齢者でも使いやすく、高血圧の第一選択薬として用いられることが多いです。CCBでたまに問題となるのが末梢の浮腫です。
Managing Calcium Channel Blocker-Related Peripheral Edema - Handler - 2007 - The Journal of Clinical Hypertension - Wiley Online Library
The Journal of Clinical Hypertension
Volume 6, Issue 7, pages 400–402, July 2004
患者のアドヒアランスの低下につながるCCBの一般的かつ特有の副作用として末梢浮腫がある。
CCBによる浮腫は男性より女性に多い(男性11.8%、女性15.6%)
CCBによる浮腫は、体液貯留とは異なり(unlike fluid retention)、利尿薬が効かない(is not diuretic responsive)。非特異的な血管拡張薬のヒドララジンなどでも起こる。
CCBによる浮腫の機序
CCB→輸入毛細血管細動脈の拡張→輸出毛細血管細動脈は拡張しないため血管静水圧が上昇→体液の間質への流出
「Side effects of antihypertensive treatment with calcium channel antagonists」
Am J Hypertens. 2001;14:114A.より引用のデータが下記のとおり。
浮腫 | 頭痛 | 皮膚紅潮 | 有害事象による中断 | |
ニトレンジピン | 28.9% | 15.6% | 11.7% | 32.8% |
アムロジピン | 22% | 4.2% | 2% | 9.3% |
フェロジピン | 16.2% | 6.8% | 3.1% | 13.8% |
ニフェジピン | 14.2% | 3.4% | 6.1% | 17.6% |
ジルチアゼム | 2.4% | 2% | no data | no data |
ベラパミル | 1.7% | 1.8% | no data | no data |
このようなデータとなっていますが、個人的にはアムロジピンは比較的忍容性の高い薬だと認識しています。
こんなに脱落があるものなのかな…?と思いました。むくみの訴えもさほど多い印象はありません。
引用元の文献はアブストラクトしか閲覧できず、患者データなどの詳細が不明なのですが、このデータをそのまま鵜呑みにはできないと思いました。
ただ、ジヒドロピリジン系のほうが浮腫が多いということは次に紹介する文献でも同じ結果となっています。
CCBと浮腫に関する文献
Peripheral edema associated with calcium channel blockers: incidence and withdrawal rate--a meta-analysis of randomized trials. - PubMed - NCBI
J Hypertens. 2011 Jul;29(7):1270-80.
末梢浮腫はCCBの副作用として知られており、CCBによる動脈の拡張が、毛細血管内の圧の上昇と、溢出をきたして、二次的に起こる と考えられている。CCBの末梢浮腫の発生率と中断率を評価
P:高血圧患者
E:CCB服用
C:服用なしorプラセボ
O:末梢浮腫の発生率と、浮腫による中断率
<方法>
Pubmedなどを用いて、1980~2011年のRCT(CCB使用高血圧患者と末梢浮腫の報告)を検索、発生率と中断率を解析。
RCTの基準は、期間4週間以上、患者数100人以上。
選定基準を満たしたのは、106RCT、99469名(平均年齢56歳)
<結果>
CCBあり | CCBなし | p値 | |
---|---|---|---|
末梢浮腫の発生率 | 10.7%(→6か月後24%) | 3.2% | p < 0.0001 |
末梢浮腫による中断率 | 2.1%(→6か月後5%) | 0.5% | p < 0.0001 |
CCB服用期間とともに増加(→服用初期だけに起こるものではないと言える?ただし途中で増量した可能性もある)
【末梢浮腫の発生率】
新しい親油性のジヒドロピリジン系(DHPs)は、従来のDHPsと比較して、57%低い
相対リスク0.43 (95%CI 0.34-0.53; P < 0.0001)
DHPsは、非DHPsと比較すると、
DHPs:12.3%
非DHPs:3.1%
CCBの投与量と浮腫の発生率の関係は、
CCB高用量:16.1%
CCB低用量:5.7%
※高用量の定義:通常の最大量の半量以上
長期的にみると5%が浮腫によりCCB中断という結果。高用量のほうが発生率は増えるようです。
そこで、もう1つ。
CCBとARB配合剤の発売ラッシュのときに、ARBをいれることでCCBの浮腫が抑えられるという説がありました(ARBは輸出細動脈も拡張するため)。
Effect of renin-angiotensin system blockade on calcium channel blocker-associated peripheral edema. - PubMed - NCBI
Am J Med. 2011 Feb;124(2):128-35
背景:末梢浮腫はCCBのコモンな副作用である。ARB/ACEiが用量依存的に末梢浮腫を減少させることが示唆されている。
P:高血圧患者
E:CCB+ARB/ACEi併用
C:CCB単独
O:末梢浮腫の発生、末梢浮腫による中断
25RCT、17206名(平均年齢56歳、男性55%)を解析
追跡期間:平均9.2週間(±3週間)
CCB+ARB/ACEi併用 vs CCB単独
末梢浮腫の発生率 | 併用により38%減少 | 相対リスクRR0.62(95%CI 0.53-0.74) |
末梢浮腫による中断 | 併用により62%減少 | 相対リスクRR0.38(95%CI 0.22-0.66) |
末梢浮腫発生率と追加するRAS系阻害薬の種類別の比較
ACEi | RR0.46,(95%CI 0.37-0.58; 15 studies) |
ARB | RR0.79(95%CI 0.64-0.97; 9 studies) |
アリスキレン | 両群に差は無し(1 study) |
ACEi vs ARB
末梢浮腫の発生率 | RR0.74(95%CI 0.64-0.84) |
ACEiのほうが浮腫の発生率低
RAS系阻害薬併用群のほうが浮腫が少ないという結果です。
ACEiといえば誤嚥性肺炎の予防が有名ですが、CCBの浮腫減少についてもARBよりACEiが優れているという結果。ACEiよりもARBのほうが優れている点とはなんなんでしょうね…。
ACEiの有用性が示唆されている一方でACEi配合の合剤は発売されていないことも違和感があります。
CCBの浮腫による脱落は、そんなに多い印象はないと思っていたのですが、CCBを高用量で使用する場合は浮腫の頻度が高まるので注意が必要です。
アムロジピンの添付文書によると、
5mg投与を継続又は10mgに増量した第III相試験で5mg群で0.6%、10mg群で3.3%
長期投与試験(10mg)の対象となった134例では、投与開始後52週までに浮腫(10.4%)
となっており、その強い血管拡張作用により浮腫の発生がみられたと考えられます。
L型CCBよりも、N型/T型にも作用するCCBのほうが輸出細動脈の拡張作用により末梢浮腫が少ないとされているため、アムロジピンのようなL型CCBで浮腫が発現した場合は、N型/T型にも作用するCCBに変更してみるのも一つの手段だと思います。