pharmacist's record

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モサプリド 乳児への使用について

モサプリド
慢性胃炎に伴う消化器症状の適応を持つ消化管運動機能改善薬
作用機序:選択的セロトニン5-HT4受容体アゴニスト、アセチルコリン遊離の増大を介して上部及び下部消化管運動促進作用を示す。

適応は成人となっており、小児は安全性未確立

ところが乳児にモサプリドを使用するケースがあるという話を耳にして文献検索


モサプリドが対照群として使用されている比較試験です
Efficacy of the Japanese herbal medicine rikkunshito in infants with gastroesophageal reflux disease. - PubMed - NCBI
Pediatr Int. 2015 Aug;57(4):673-6.  日本小児科学会2015
レトロスペクティブのレビュー
目的:胃食道逆流症(GERD)の乳児における六君子湯の有効性と安全性の評価
P:GERDの乳児54名(すべての患児に成長障害あり、アレルギーや手術適応により9名を除外→→45名のカルテを検討)
E:六君子湯(TJ-43)0.3g/kg/day n=29
C:モサプリド 0.5 mg/kg/day n=16
O:六君子湯によるGERD臨床症状の軽減と体重増加
治療期間:3ヵ月

<結果>
1日当たりの嘔吐の頻度:モサプリド群より六君子湯群で有意に低い(P = 0.0146)

weight Z-score※1
六君子湯 -2.5 ±1.5
モサプリド -5.0 ±2.0

<有害事象
両群ともに認められず

※1
Zスコア:平均値との差(weight Z-scoreは、測定した体重と準拠集団の体重の中央値との差を標準偏差値で割ったもの)
体重Zスコアと栄養失調
-3未満:重度の栄養失調(低体重)の可能性
-2~-3:中等度の栄養失調(低体重)の可能性
※出生時の体重にも左右されるので、成長曲線とZスコア曲線との差を経時的にチェックしたほうがよい


六君子湯に軍配があがっているようですが、RCTではなく、後ろ向きのデータ比較のようなので、一概には言えないかと思います。アブストしか確認できず、なんともいえないところです。
症例数が少ないですが、六君子湯、モサプリドともに有害事象はなかった模様。




日本小児外科学会雑誌に、乳児GERの保存的治療についての記載あり。
Vol. 50 (2014) No. 4 p. 786-792
「乳児GERに対する治療」
2003年~2012年に胃食道逆流現象gastro-esophageal reflux(GER)が疑われた乳児40例のうち、24時間pHモニタリングにて食道内pH<4.0以下時間率(pH index)が4.0%以上の21例が検討対象

GER:「24時間pHモニタリングにてpH indexが4.0%以上」と定義。GERは胃内容物が食道内に逆流する現象を指し、GERDはGERによる何らかの症状・合併症(誤嚥性肺炎、喘息、逆流性食道炎など)を伴うものとする。

<保存的治療>
①経口摂取あるいは経管栄養は頻回少量のミルク投与とする
②哺乳直後の仰臥位を避けて、右下半側臥位あるいは上体挙上姿勢を維持
薬物療法

六君子湯※1 0.3g/kg 分3
モサプリド 0.3mg/kg 分3
ラベプラゾール※2 0.5mg/kg 分1
ファモチジン 1mg/kg 分2

※1 六君子湯は胃から十二指腸への排出を促す目的で使用
※2 ラベプラゾールはPPIの中で血中濃度の立ち上がりが早く開始3日間で安定し、薬効発現が早いとされているため選択された。錠剤はコーティングされており、粉砕で薬効が失われ粉砕不可とされているが、小児に薬効があることを自施設で確認の上で使用。


<非手術施行群(16例/21例)>
嘔吐回数が0~1回/日に改善するまでの期間
1か月未満:8例
1か月~3か月未満:5例
3か月~:3例(3例とも食道閉鎖・横隔膜ヘルニアなどの合併症なし。2例は低出生体重児で喘息症状あり、保存的治療で嘔吐・喘息症状は消失、経過観察期間1年および1年半)

保存的治療群では16例中6例のみpHモニタリングを行いpH indexはすべて4.0%以下に改善(残りの10例は症状改善にて、モニタリングの同意得られず)


<外科的治療(5例/21例)>
保存的治療が奏功しない重度の症例に外科的治療としてNissen噴門形成手術を施行
5例中4例が重症心身症合併例
手術後にpH indexは全例4.0%以下になった。


※乳児はもともと生理的に吐きやすい
「0~3か月児の50%、4か月児の67%に頻回嘔吐を認めるが、10~12か月で5%」という報告や、「0~2か月児の70~80%に頻回の嘔吐を認めるが、その95%が生後1年で改善。」という報告がある。

<考察>
pH index4.0%以上だからといって、必ずしも外科的治療とはせずに、まずは保存的治療を第一選択とすべき。
誤嚥性肺炎、喘息、逆流性食道炎、成長障害などがあり保存的治療に抵抗性の場合に外科的治療を考慮。



日本小児耳鼻咽喉科
Vol. 30 (2009) No. 3 p. 286-292
この論文では、反復性中耳炎の背景としてGERDが認められた症例が掲示。
<乳児の反復性中耳炎の症例>
生後10か月の時点でGERDが背景にあると診断
治療
・少量授乳とし、1回100ml以下で頻回投与
・食後はベビー椅子に着座、30分以上は臥位にならない
ファモチジン2%散 0.5g/day
・モサプリド1%散0.35g/day

その他、3例の症例が掲示

<考察>
難治性の反復性中耳炎の背景としてGERDの関与が考えられる
小児喘息の背景としてもGERDの関与が指摘されている

GERDの症状

消化器症状 嘔吐、吐血、下血、哺乳不良
呼吸器症状 慢性咳嗽、喘鳴、無呼吸
その他 腹痛、貧血、体重増加不良、不機嫌、咽頭痛、胸痛、姿勢異常

pH indexが4.0%以下でも、上部消化管造影検査で飲水直後に逆流を繰り返す例もあり、pH indexだけでのGERDの評価はできない。

生活習慣として
・食後臥位をさける
・1回の摂取量を少なくする
・夕食後から就寝までの時間を2時間以上に
といった工夫が必要。
薬物療法としてモサプリドやH2RAがあげられるが、有効性を示す報告がある一方で効果が得られない場合もある。



日小外会誌 第49巻3号 2013.5 P589 O2-4
食道pHモニタリングに基づいたGERD健常患児の長期的保存療法

患児59例、初回検査時の年齢15日~6歳(中央値日齢213)
<治療>
嘔吐が続いても体重増加が許容範囲であり、気道炎傾向があっても入院加療の反復がなければ手術適応外とし、薬物療法で通院加療
pHモニタは乳児:3か月おき、幼児:6ヵ月おき
GERD陰性になるまで継続
薬物療法
ファモチジン1mg/kg/day 分2
・モサプリド0.3~0.5mg/kg/day 分3
症状の強い症例には、下記を併用
六君子湯0.3g/kg/day 分3

<結果>
6例が転居などの理由で通院中断、4例は現在進行形で加療中
残りの49例は手術なしで、症状寛解、pHモニタ陰性化
pHモニタの回数は2~10回(平均4.2回)

<考察>
GERDの保存療法は有効であり、手術療法はかなり限定的



というわけで、乳児のGERにモサプリドを投与するケースがあるようです。
プラセボと比較した試験はないようなので有効性について何とも言えませんが、深刻な有害事象の報告の記載は見当たりませんでした。

別件ですが、ラベプラゾール粉砕の記述があってびっくりしました。自施設で薬効を確認とありますが、どのように確認したんでしょうか。

ちなみに、モサプリドの先発品であるガスモチンの散剤は苦みはなく、口の中で溶かしても嫌な味はしません。
抗生剤などと違って比較的飲みやすい味でした。