pharmacist's record

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最も有効なピロリ除菌療法は? 整腸剤は併用したほうがよい?

Comparative effectiveness and tolerance of treatments for Helicobacter pylori: systematic review and network meta-analysis. - PubMed - NCBI
BMJ. 2015 Aug 19;351:h4052
デザイン:システマティックレビュー、ネットワークメタ解析
目的:副作用の少ない最も有効なH.pylori除菌療法を決定

<イントロダクション>
ピロリ菌H.pyloriは消化不良(dyspepsia)、消化性潰瘍、胃がんなどのリスクとなる。
21世紀初頭のヨーロッパのガイドラインにおける推奨はPPI+CAM+(AMPC or MNZ)の3剤療法。
ラニチジンクエン酸ビスマス+(AMPC,CAM,MNZのうち2剤)の3剤療法も同等の効力。
耐性菌の発生により有効性は低下しつつある。

<方法>
さまざまなピロリ除菌療法を比較したRCTを選定し解析
識別された15565の試験のうち143試験が適合。14種類のレジメン。
(ピロリ除菌の前処置、7日間・10日間・14日間以外の治療期間は除外)

<結果>
除菌率

レジメン 標準療法と比較した試験数 被験者数 除菌率(95%CI)
標準療法PPI+CAM+(AMPC or MNZ)7日間 0.73(0.71-0.75)
PPI+AMPC+CAM+5ニトロイミダゾール 7日間 1 119 0.94(0.89-0.98)
PPI+AMPC 5or7日間→PPI+CAM+(AMPC or 5ニトロイミダゾール)5or7日間 15 3713 0.87(0.85-0.90)
PPI+CAM+(AMPC or MNZ)10or14日間 32 6844 0.81(0.78-0.84)
PPI+ビスマス+抗生剤2種 10or14日間 6 1188 0.85(0.82-0.89)
PPI+ビスマス+抗生剤2種 7日間 8 1340 0.79(0.73-0.84)
PPI+AMPC+CAM+5ニトロイミダゾール 10or14日間 0 0 0.91(0.87-0.94)
PPI+CAM+(AMPC or MNZ)+プロバイオティクス 7日間 11 2392 0.83(0.78-0.87)
PPI+CAM+(AMPC or MNZ)+プロバイオティクス 10or14日間 1 33 0.90(0.85-0.94)
ラニチジンクエン酸ビスマス+(AMPC,CAM,MNZのうち2剤) 7日間 11 1839 0.82(0.76-0.86)
ラニチジンクエン酸ビスマス+(AMPC,CAM,MNZのうち2剤) 10or14日間 0 0 0.86(0.78-0.91)
PPI+LVFX+抗生剤1種 7日間 8 2329 0.76(0.69-0.81)
PPI+LVFX+抗生剤1種 10or14日間 0 0 0.90(0.84-0.94)
PPI+AMPC 7日間→PPI+AMPC+CAM+5ニトロイミダゾール 7日間(ハイブリッド療法) 0 0 0.89(0.81-0.94)

※プロバイオティクス:ラックビー、ミヤBMなどの整腸剤


有害事象の発症率(table4に記載)
各群における傾向(標準3剤療法における発症率)

上腹部痛/心窩部痛(5%) ラニチジンクエン酸ビスマスがベースのレジメンで発症率低、プロバイオティクス有でやや発症率低、ニトロイミダゾールを含む抗生剤3剤併用で発症率高
味覚障害(8%) ビスマスやLVFXで発症率低、抗生剤3剤併用で発症率高
頭痛(3%) プロバイオティクス有で発症率低
下痢(8%) プロバイオティクス有で発症率低

味覚障害は抗生剤の種類により左右される。
CAMは味覚障害のリスク因子となる。
PPI+LVFX+AMPC7日間療法と、PPI+CAM+AMPC7日間療法との比較で、LVFX群のほうが低リスク

<結論>
・プロバイオティクスを含む3剤療法10or14日間、LVFXベースの3剤療法10or14日間、ハイブリッド療法14日間、PPI+AMPC 5or7日間→PPI+CAM+(AMPC or 5ニトロイミダゾール)5or7日間 などが最適な治療法かもしれない。
・治療期間を7日間より長くすることで除菌率を高めるが有害事象は増える。
・地域によって有効性が異なる可能性がある


ちなみに日本での保険適応は、
一次除菌がPPI+AMPC+CAMで、二次除菌がPPI+AMPC+MNZ です

最適の治療法は、このメタ解析だけでは決定できないかもしれませんが、参考にはなると思います。
整腸剤併用群で消化器症状が減るだけでなく除菌率も向上する傾向にあるのが印象的でした。


そこで整腸剤(プロバイオティクス)とH.pyloriに関する文献を検索したところメタ解析がありました
Meta-analysis of the efficacy of probiotics in Helicobacter pylori eradication therapy. - PubMed - NCBI
World J Gastroenterol. 2014 Dec 21;20(47):18013-21

P:ピロリ除菌を受ける18~80歳
E:PPI+抗生剤2種の3剤療法+プロバイオティクス
C:PPI+抗生剤2種の3剤療法+プラセボ(or追加なし)
O:ピロリ除菌率(治療後少なくとも4週間以上あけて検査)。セカンダリ;副作用頻度

除外基準
・脱落(損失)の割合が20%以上
・慢性非代償性疾患、免疫疾患、または上気道感染症に罹患していた
・前月にPPIもしくはH2RAを使用

RCTのクオリティの評価としてJadadスケールを使用
3点以上を高品質、2点以下を低品質とする

jadadスケールについて
Jadad scale - pharmacist's record


異質性Heterogeneity(I²)
25%未満:low
25%~50%:moderate
50%以上:high


<試験データ>
711試験を同定。
201試験が不適当出版で除外、422試験が非RCTで除外、88試験が動物対象やin vitro、小児対象などにより除外。

14試験が適切であるとして選定
・Follow-up timeは概ね4~8週
・loss rateは数%以内(1試験のみ16%と高め)
・H.pylori再検査方法はほとんどの試験で尿素呼気試験を採用
・n数は数十件~数百件
・使用された抗生剤はすべてAMPCとCAM
・治療期間は7~14日間
(table1、table2より)


<プロバイオティクス>
詳細はtable2に記載あり
Lactobacillus(ラクトミン)を使用した研究が多い。本邦で発売されている製剤と同じ菌種は少ない。

Adjuvant probiotics improve the eradication effect of triple therapy for Helicobacter pylori infection. - PubMed - NCBI
この中国の研究では、Lactobacillus acidophilus、Streptococcus faecalis、Bacillus subtilisを含む錠剤を使用
Lactobacillus acidophilus:レベニンSやラクトミン末に含有
Streptococcus faecalis:ビオフェルミン配合散、ビオフェルミンR散/R錠、ビオスリー配合散/錠、ラクトミン末、レベニンSなどに含有
Bacillus subtilis:ビオフェルミン配合散に含有


<除菌率>
プロバイオティクスvsコントロール
OR1.67(95%CI 1.38-2.02) (I²=0.00%)

アジア人に限定
OR1.78(95%CI 1.40-2.26)

各試験のORはfigure3に記載

<有害事象>

OR(95%CI) 異質性
総有害事象 OR0.49(0.26-0.94) I²=85.7%
金属味metallic taste OR0.87(0.20-3.72) I²=83.2%
下痢 OR0.21(0.06-0.74) I²=91%
心窩部痛epigastric pain OR0.55(0.20-1.57) I²=69.7%
味覚障害taste disorders OR0.73(0.45-1.19) I²=8.2%
嘔吐vomiting OR0.40(0.15-1.08) I²=1.9%
吐き気nausea OR0.66(0.42-1.04) I²=0%

有効性・安全性ともに良好なようです。
なぜ除菌率が向上するのかわかりませんが、とくにアジア人は除菌率が向上していたという結果。
整腸剤の併用により除菌率の向上や下痢などの副作用防止が期待できるので、とくにお腹が弱いといった方でなくても整腸剤の併用を検討してみてもよいのではないかと思います。