pharmacist's record

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細菌性副鼻腔炎とウイルス性上気道炎の見分け方は?

Acute bacterial rhinosinusitis in adults: part I. Evaluation. - PubMed - NCBI
Am Fam Physician. 2004 Nov 1;70(9):1685-92.
急性副鼻腔炎はコモンな疾患の1つであり、多くの場合ウイルスが原因だが、細菌によって引き起こされることもある。
ウイルス性上気道感染症と臨床像が似ており正確な診断が困難。
ABRSの3分の2は抗生剤無しで改善、またウイルス性上気道感染症のほとんどが7日以内に改善するため、抗生剤による治療は7日以上の症状持続や臨床基準を満たした場合に行うべき


<Key clinical recommendation>
・ABRSの予測に有用な4つの徴候/症状(LEVEL C)

膿性鼻汁purulent nasal discharge
上顎歯または顔面痛(片側優位)maxillary tooth or facial pain(especially unilateral)
片側優位のの上顎洞の圧痛unilateral maxillary sinus tenderness
症状改善後の悪化worsening symptoms after initial improvement

 
・副鼻腔X線は合併症のないABRSの診断には推奨されない(LEVEL B)

・ABRSのほとんどはウイルス性上気道感染によって引き起こされる(LEVEL B)

・ウイルス性と細菌性を区別することは困難。細菌性は7日以上症状持続(The diagnosis of ABRS should be reserved for patients with a duration of symptoms of seven days or longer)(LEVEL C)


<市中ABRSの起因菌>

インフルエンザ菌Haemophilus influenzae 35%
肺炎球菌Streptococcus pneumoniae 34%
嫌気性菌Anaerobes 6%
グラム陰性菌Gram-negative bacteria 4%
黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureus 4%
モラクセラ・カタラーリスMoraxella catarrhalis 2%
A群溶血性連鎖球菌Streptococcus pyogenes 2%


感度・特異度・LR(table4)

Signs and symptoms 感度 特異度 LR+ LR-
上顎の痛みMaxillary pain 51% 61% 1.4 0.8
上顎歯の痛みMaxillary toothache 18-36% 83-93% 2.1 to 2.5 0.7 to 0.9
膿性分泌物Purulent secretions 32-62% 67-89% 1.4 to 5.5 0.5 to 0.9
上顎の圧痛Maxillary tenderness 49% 68% 1.5 0.8
症状の再燃(“double sickening”) 72% 65% 2.1 0.4
一般的な臨床的印象General clinical impression 69% 79% 3.2 0.3
先行する上気道感染Previous URI 85-99% 8-28% 1.1 to 1.2 0.1 to 0.6
色のついた鼻水History of colored discharge 72-89% 42-52% 1.5 0.3 to 0.5
充血除去剤の応答不良Poor response to decongestants 41% 80% 2.1 0.7
前屈時の痛みPain on bending forward 67-90% 22-58% 1.2 to 1.6 0.5 to 0.6

 
1つ1つの所見のLRはどれも決定打にかけますが、組み合わせることで、診断に有用となります。
Williams Prediction Rule→省略(table5に詳細あり)

<Berg Prediction Rule>
以下4つの項目(各1点)
・片側優位の膿性鼻汁purulent rhinorrhea with unilateral predominance
・片側優位の局所の痛みlocal pain with unilateral predominance
・両側の膿性鼻汁bilateral purulent rhinorrhea
・鼻腔内の膿の貯留presence of pus in nasal cavity.

スコア 副鼻腔炎(n=68) 副鼻腔炎ではない(n=87) LR
3~4点 55 10 7.0
2点 10 10 1.3
0~1点 3 67 0.06

  

風邪が治ったと思ったらぶり返して、膿性鼻汁・頬の圧痛(とくに片側)・前屈時の頭痛・上顎歯の痛みなどの症状がでてきたら急性副鼻腔炎が疑わしいという感じでしょうか。
膿性鼻汁かどうかの判断は難しいように思います。細菌性ではないただの風邪でも色のついた鼻水が出るのは普通にありえますし、患者さんの言葉をそのまま鵜呑みにして膿性鼻汁だと判断してしまうと、Berg Prediction Ruleは微妙なのでは?とも。
ただ、“鼻汁が臭う”という場合は、細菌性の膿性鼻汁だと判断しても良いのかなと思っていますがいかがでしょうか。

起因菌は6~7割が肺炎球菌とインフルエンザ菌で占めています。
米国感染症学会の副鼻腔炎ガイドライン2012によると、エンピリックな治療として第一選択薬がAMPCからAMPC/CVAに変更されたようです。小児への肺炎球菌ワクチンの普及により、成人においても起因菌として肺炎球菌の割合が減り、インフルエンザ菌やモラクセラが増えたためとのこと。
「レジデントのための感染症診療マニュアル第3版」によると、抗生剤の選択は急性中耳炎と同じ以下の薬剤を通常10日間(成人では5~7日間の短期投与推奨もあり)
・肺炎球菌→AMPC
インフルエンザ菌
 BLNAS(βラクタマーゼ非産生ABPC感受性)→AMPC
 BLPAR(βラクタマーゼ産生ABPC耐性)→AMPC/CVA、第2世代以上のセフェム(CCLなど)、ST合剤
 BLNAR(βラクタマーゼ非産生ABPC耐性)→第3世代以上のセフェム(CFIX、CTRXなど)
・モラキセラ→第3世代以上のセフェム
風邪の症状改善後10日以上局所不快感や圧痛などが持続、あるいは細菌性を示唆する所見が揃う、副鼻腔症状+39℃以上の発熱をきたすような場合に抗菌薬を考慮とのこと。

風邪!!! - pharmacist's record
以前、風邪について調べたときにとりあげたコクラン2013のメタアナリシス「Antibiotics for the common cold and acute purulent rhinitis」において化膿性鼻炎でも10日以内の持続であれば、抗生剤の投与は鼻炎の持続RR0.73(95%CI 0.47-1.13)。有効な傾向にはありますが、統計的有意差は無かったという結果。このあたりを踏まえて、少し待ってもよいだろうということかな?と。

ただ、実際は副鼻腔炎の診断ならすぐに抗生剤が処方されるケースのほうが多いのではないかと思います。鼻炎の持続が短い傾向にはありますしケースバイケースでしょうか。ただ、どうも慢性副鼻腔炎マクロライドというイメージが強いせいか、急性細菌性副鼻腔炎でもマクロライドが処方されたりするケースがあるような気がします。細菌性副鼻腔炎の起因菌は主に肺炎球菌やインフルエンザ菌なので、マクロライドが第一選択とはいえず、レジデントマニュアルのとおりβラクタムが妥当かと思います。