たまたま下記の論文に出会ったのでとりあげてみました。
古い文献ですが…。
Frequency, severity, and duration of rhinovirus infections in asthmatic and non-asthmatic individuals: a longitudinal cohort study. - PubMed - NCBI
Lancet. 2002 Mar 9;359(9309):831-4
喘息の有無によるライノウイルス感染の頻度、重症度、症状持続期間を検討したコホート研究
背景:ライノウイルスは喘息増悪をきたすことがある
方法:アトピー性喘息と喘息のない健常者を募集。毎日、1日2回、日誌に upper-respiratory-tract (URT) とlower-respiratory-tract (LRT)のの症状と最大呼気流量(ピークフロー)を記録。2週間ごとに鼻吸引物採取によりライノウイルスを検査。
感染リスクと、重症度、感染期間を比較
753名を分析
喘息(n=378) | 健常者(n=375) | 調整オッズ比 | |
ライノウイルス検出 | 38名(10.1%) | 32名(8.5%) | 1.15(95%CI;0.71-1.87) |
LRT/ライノウイルス感染 | 12/28 | 4/23 | データ表記なし |
ライノウイルスの感染の、発症率、重症度、URT感染・症状の持続時間は両群に差は無し
ライノウイルスによるLRT症状は、喘息群のほうがより重症で(p=0.001)、持続時間が長い(p=0.005)
アブストラクトのみで詳細なデータは記載なし。
<結論>
喘息はライノウイルス感染リスクが上昇するわけではないが、ライノウイルス感染に伴う下気道感染のリスクが上昇する。
ライノウイルス
ライノウイルスは鼻かぜウイルスとも言われ、とくに春や秋に流行。
潜伏期は24~48時間程度[1]
臨床症状([1]より):鼻かぜ程度で軽症、鼻汁、鼻閉、くしゃみ、咽頭痛を訴えることが多く、頭痛や倦怠感を訴えることもある。発熱はみられない場合が多い。咳嗽は軽症の場合はみられないが、一般に遅れて出現。下気道感染(気管支炎・肺炎)を起こすこともある。
かぜ症候群の原因の80~90%がウイルスであり、ウイルスとしてはライノウイルスが最も多く、30~40%を占める[3]。
慢性気管支炎患者においてはライノウイルスは急性増悪の原因となることあり[2]
ライノウイルス感染後に続発する細菌感染はインフルエンザ菌や肺炎球菌が多い[2]。
ライノウイルスの印象としては、下気道感染よりも上気道感染で、咽頭痛が強い場合は原因ウイルスとしてライノウイルスよりもアデノウイルスが疑わしいといったところでしょうか。
ただ、診断できたとしても、特異的な治療法はないため基本は対症療法となります。
原因ウイルスを深く掘り下げる意義がないような気も…。
ランセットの論文から、「喘息の場合ライノウイルスによる風邪を引きやすい」とはいえないけど、「喘息患者がライノウイルスによる風邪を引いた場合、下気道の症状が悪化しやすい」といった傾向にあると言えます。ライノウイルスは上気道感染の印象が強いですが、喘息の場合は下気道症状が強く出るかもしれません。ライノウイルスとCOPDの急性増悪との関連も示唆されており[4]、喘息やCOPDの増悪因子として、風邪も侮れないと思いました。
引用文献
[1]感染症学雑誌Vol. 44 (1970) No. 8 P 425-430
[2]感染症学雑誌Vol. 61 (1987) No. 8 P 858-864
[3]日内会誌 98:424-428,2009
[4]Eur Respir J. 2014 Jul;44(1):87-96.