pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

逆流性食道炎(GERD) 就寝時の体位について

なんか最近、ぼんやりとツイキャスを聴いたりするんですが、つい医療系の方のキャスを聞いてしまいますねぇ。勉強キャスみたいなのもあって「へぇ~、学生さんかなぁ、みんながんばってるなぁ」と思うのですが、じゃあオレモベンキョウガンバロウとは微塵も思わない…。なんでだ。

で、GERDの話をしてました。就寝時の体位の話。
「頭の位置を少し高く!」「左側臥位で!」
前者は物理的に逆流しにくくなるんかなぁって感じで、後者は胃の構造によるもの?(胃底部にたまって逆流しない?)

適当にネットで検索すると、出典ゼロの健康系のページでたしかにそう書かれています。教科書的なものにもそう書いてあるのかもしれません。
ただ、やはり「出典が気になってしまう病」のため、「文献やガイドラインを探したくなる」という急性症状あらわる。

前者の頭部(っていうか上半身?)の位置を高くするのは、専門的な用語を用いると、Fowler位(仰向けから少し上半身を起こした体位)っていうみたいですね。
酔いつぶれた結果、四肢を大の字にして仰向けに倒れこみ、枕が首の下にもぐりこんで、歯科治療をうけるかのごとく大きく仰け反るポーズとなっていると噂されている自分の寝相はGERDのハイリスクということですか、そうですか。
(そもそも飲酒自体どうなの?ていう話は聞かなかったことにしたい所存)


みんな大好きガイドライン(胃食道逆流症GERD診療ガイドライン2015)では、生活習慣について少し触れられています。
タバコやチョコレート、炭酸飲料、右側臥位はLES(下部食道括約部)の圧を低下させる(食道の出口を締める圧が低下)。酸暴露時間延長させるのが、タバコ、アルコール、チョコレート、脂肪食、臥位、右側臥位とのこと。

元ネタを見ましょう
Are lifestyle measures effective in patients with gastroesophageal reflux disease? An evidence-based approach. - PubMed - NCBI
Arch Intern Med. 2006 May 8;166(9):965-71.PMID:16682569
PubmedとOvid(←なにこれ…。滋賀医大Srws第三回Ovid Medline検索と文献管理 へぇ、こんなものが。)でheartburn, GERD, smoking, alcohol, obesity, weight loss, caffeine or coffee, citrus, chocolate, spicy food, head of bed elevation, and late-evening mealというキーワードで文献ひっかきあつめてレビューしたみたいです。

これらのリスク因子に対する介入で症状が改善するかってことにも触れてますね

Neither tobacco nor alcohol cessation was associated with improvement in esophageal pH profiles or symptoms
あらら。やめたところで症状が改善するかは微妙すか。

Head of bed elevation and left lateral decubitus position(左側臥位) は、pHが低い時間を改善(つまり酸の暴露を改善)。ただGERDを改善するのはHead of bed elevation。あと症状改善につながるのは減量。

ひとつひとつじっくり吟味するには、さらにこのレビューの元論文までさかのぼらないといけないので、めんどくさいのでやめましょう。左側臥位がいいなんてたいして影響なさそうな気がしていたんですけど(実際、症状改善にまでつながるかは不明)、体の右と左、どちらを下にして寝ようがどっちでもいい問題だと思うので、それならば左側臥位をすすめてみるというのはアリかも。寝相を変えるのは無理!て人はいるかもしれないのでそこは強制するほどのことではないかなぁ。ただ、ちょっと頭の位置を高く、というのはやってみたほうがいいかもですねぇ~。


さて、いちおう、自分自身の手で原著を検索してみましょう。
個人的に眉唾だと思ってるのが、左側臥位なので、
left lateral decubitus position GERDで検索してみますか。

Effect of lateral positioning on gastroesophageal reflux (GER) and underlying mechanisms in GER disease (GERD) patients and healthy controls. - PubMed - NCBI
Neurogastroenterol Motil. 2013 Mar;25(3):222-9, e161-2.PMID:23190417
10名のGERD患者、10名の健常者が対象
食後に右側臥位と左側臥位にランダムにわけて、、一過性下食道括約筋弛緩transient lower esophageal sphincter relaxation (TLESRs)について調べてます。
GERD患者においては、左側臥位より右側臥位のほうがTLESRsが増加。つまり左側臥位のほうがいい。
この傾向は健常者においては認められず。


Body position affects recumbent postprandial reflux. - PubMed - NCBI
J Clin Gastroenterol. 1994 Jun;18(4):280-3.PMID:8071510
こちらはまさに右か左かを検討してます。
うーむ、やっぱ左側臥位のほうがよさげな感じですか。


Influence of spontaneous sleep positions on nighttime recumbent reflux in patients with gastroesophageal reflux disease. - PubMed - NCBI
Am J Gastroenterol. 1999 Aug;94(8):2069-73.PMID:10445529
臥位食道のpH低い10名が対象
夕食に高脂肪食をとらせて、夜10時にスナック。
そして、睡眠時の体位を検討してます。

右側臥位はpHの低さと関連。
仰臥位supine position(いわゆる仰向け)では、胃食道逆流(GER)エピソードが増加

結語として、夜間GER患者には、左側臥位が好ましいとのこと。


もういっちょ
Effect of different recumbent positions on postprandial gastroesophageal reflux in normal subjects. - PubMed - NCBI
Am J Gastroenterol. 2000 Oct;95(10):2731-6.PMID:11051341
やはり右側臥位より左側臥位のほうがよさそう。
ちなみに、その原因は、酸がどうこうってよりは、前述のtransient lower esophageal sphincter relaxationsが原因と。
胃底部に胃酸がたまって逆流しにくくなるってわけではないのかも。


さて、手当たり次第、ひっかけてアブストをみてみましたが、怪しげな通説かと思っていた左側臥位が良いってのはそれなりに根拠あり!て感じのようです(症例数充分な質の高いRCTがあるってわけではないけど)。
患者さんにオススメしてみるかな。

というわけで、
≪患者さんに自信をもってオススメするための下調べにめちゃくちゃ時間がかかってしまった一例≫
でした。


おまけとして、GERDと飲酒についてもう少し。

この問題もちょっと気になるので、少し原著をさがしてみましょう

検索して適当にピックアップ
Risk factors for gastroesophageal reflux disease: the role of diet. - PubMed - NCBI
Prz Gastroenterol. 2014;9(5):297-301. PMID:25396005
あれ?そうでもない…?

考察より
products/dishes high in fat, spicy or sour, citrus fruits and juices, alliums, tomatoes and tomato juice, chocolate, coffee, beverages and products containing peppermint, carbonated beverages, and alcohol
このあたりが過去の研究から、GERD悪化しうる食事として報告されている。
で、本研究ではtable1のように、アルコールはそうでもなかった模様。この研究ではペパーミントが意外とアカンかもってことで、要注意だとのこと。
症例数は512。多変量解析は難しいって感じなのかな。


Relationship between gastroesophageal reflux symptoms and dietary factors in Korea. - PubMed - NCBI
J Neurogastroenterol Motil. 2011 Jan;17(1):54-60.PMID:21369492
こっちは症例数もっと少ない。162名。
アブストから目に飛び込んでくるのは「肥満ってハイリスクだなぁ」ってこと。
うむ。今後も節制をつづけよう。
この論文はFig2をぼんやり眺めるとおもしろいかも。
アルコールも一応有意差あり。ただ、健常者でもそれなりに症状を引き起こしている。「でしょうね~」という感じですが。
table6にオッズ比あり。年齢と性別のみ調整。


やっぱりアルコールは影響ゼロってわけにはいかないでしょうね~。
ただ、右側臥位を左側臥位にかえるのはなんら苦痛はない(個人的には)けど、お酒をやめるのはそれなりに苦痛って人は多いでしょう。自分は節酒してますけど(←声を大にして言いたいので、文字を大にして書いた)。
このあたりは患者さんの価値観・好み次第なのかな。お酒は絶対やめたくないっていうなら、高脂肪食とか辛いものを控えるなど、選別して注意していくなどという選択肢が考えられますね。