しゃっくりにメトクロプラミドの処方。“今日の~”にも適応外使用として記載されているみたいですが、せっかくなので、文献を探してみました。
しゃっくり
横隔膜のけいれんによる起こる呼吸反射で、突然の吸気、その直後に声帯が閉じて独特の音声を伴う。原因ははっきりしていないが、中枢から横隔膜までの神経を刺激して引き起こされると考えられている。
持続性:48時間以上 難治性:1ヶ月以上
通常は自然に消失するが、48時間以上続く場合は精査が必要。また就寝時にも起こる場合も器質性疾患を考える。
<しゃっくりの原因>
①中枢性:脳血管障害、髄膜炎、側頭動脈炎などの頭部疾患、アルコール、低Na血症、高Ca血症、尿毒症、糖尿病など
②横隔膜の直接刺激:GERD、胃炎、胃拡張(早食い・大食い)、膵炎、胆嚢疾患など
③迷走神経・横隔神経刺激:胸膜炎、喘息、肺炎、肺がんなど
④薬剤:デキサメサゾン、αメチルドパ、ジアゼパムなど
※ほかにもさまざまな疾患がある
<治療>
非薬物療法
- 氷水を飲む
- 舌を引っ張る
- 舌圧子を挿入(咽頭反射)
- レモンを噛む
- スプーン2杯程度のグラニュー糖を舐める
- バルサルバ法:吸気時に息をこらえる→腹腔内圧上昇→圧受容体刺激→迷走神経刺激(※房室伝導抑制によりPSVTにも応用)
- ペーパーバッグ法:炭酸ガスの上昇がしゃっくりを減少
- クロルプロマジン(保険適応あり)
- メトクロプラミド
- バクロフェン
- ガバペンチン
- クロナゼパム
- PPI(←GERDの関与があれば用いることあり)
- 芍薬甘草湯
- 柿蔕湯(シテイトウ。市販薬 ネオカキックス細粒など。柿蔕という柿のへたが含有)
などなど、いろいろな治療法がありますが、実際のところどうなのでしょうか。まず冒頭のメトクロプラミドについて。
“Metoclopramide” “hiccup”で検索したところ、以下の文献がヒット
Intern Med J. 2014 Dec
昔から経験的に使われているけど、ちょっと有効性を調べてみようって感じでしょうか。二重盲検ランダム化比較試験DB-RCTです。パイロット試験というのは大規模試験を行う上で実現可能可どうか大規模試験の前に行う小規模試験で、予備的研究といった位置づけでしょうか。
P:難治性しゃっくり36名
E:メトクロプラミド10mgを1日3回(n = 18)
C:プラセボ(n = 18)
O:しゃっくりの停止と改善
結果は、
メトクロプラミドのほうが有効 RR 2.75(95%CI 1.09-6.94, P = 0.03).
副作用は軽度で、疲労、気分動揺、めまいなど
難治性しゃっくりの治療薬として有望であるが、さらなる検討が必要と結論
Trials. 2014 Jul 22
脳卒中患者の持続性しゃっくり(persistent hiccups)に対するバクロフェン(リオレサール、ギャバロン)の有効性を検討した中国のDB-RCT
P:持続性しゃっくりのある脳卒中患者30名
E:バクロフェン1回10mgを1日3回 5日間(n=15)
C:プラセボ 1日3回 5日間(n=15)
O:しゃっくりの停止
結果は、
バクロフェンが有効 RR 7.00(95%CI, 1.91-25.62; P = 0.003).
有害事象はバクロフェン群で1件、一過性のめまいや眠気
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3114667/
Can Fam Physician. 2011 Jun
『Managing hiccups』ということでさまざまな治療法に言及
非薬物療法
- 息を止める
- 水をごくごくと飲む
- 水をコップの逆側から飲む。
- ピーナッツバターを食べる
- こしょうを吸入してくしゃみを誘導
- レモンをかじる
などの声門の刺激が有効(ネット検索の民間療法)
薬物治療(大規模なRCTはない)
①クロルプロマジン:FDAが承認した唯一の薬剤だが、低血圧・尿閉・緑内障などの副作用の可能性もあり、ファーストラインとしては推奨されていない。通常投与量は、1回25~50mg、1日4回
②ハロペリドール:クロルプロマジンと同じくドパミン遮断作用による
③バルプロ酸:GABAの分解抑制によるGABAの作用を介して、しゃっくり刺激を阻止。薬物相互作用や治療域の狭さが問題となる。
※GABA:横隔膜の興奮性を調節する可能性が示唆されてる
④ガバペンチン:カルシウムチャネル遮断、GABA放出増加。ある研究では1日900mgで32名、1日1200mgで9名に投与、しゃっくり減少。重篤な副作用はないが、12名で眠気あり。
⑤シメチコン(国内での類似薬はガスコン):胃の膨満感があれば消泡剤が有効かもしれない
⑥メトクロプラミド/ドンペリドン:胃腸機能亢進にて胃を空に保つことで消泡剤が奏功することあり。
⑦PPI:しゃっくりを促進するGERDの治療薬として有用
⑧バクロフェン:小規模な臨床試験で有効性が示唆。用量は1回5mg1日2回~1回20mg1日3回。GABA誘導体でシナプス伝達の遮断によりしゃっくりに有効。ただし、運動失調、せん妄、めまい、鎮静などにより使用できない可能性もある。せん妄は腎不全患者で起こり易い。
⑨ニフェジピン:しゃっくり反射の異常な脱分極を反転させる可能性あり。10~20mgを経口または舌下(国内では舌下投与は推奨されていない)、症例報告にて有効性が示唆。
⑩メチルフェニデート:ドパミン、ノルエピネフリン取り込み阻害を介してしゃっくりを減少させる可能性あり。(国内では厳しく管理されており適応外使用は困難)
⑪ミダゾラム:皮下注や静注にて使用される
⑫リドカイン:静注→手術後のしゃっくりを止めるが、心血管・神経毒性のリスクあり。噴霧→有効かもしれないが誤嚥リスクあり
⑬セルトラリン(ジェイゾロフト):腸管のセロトニン受容体を介して胃や食道、横隔膜の異常な移動性を軽減、またはしゃっくり反射の中枢作用を介して、しゃっくりに有効な可能性あり
<結論>
しゃっくりの原因として、胃腸が原因となるものが多く、まずはPPIとメトクロプラミドを試すのが良い。効果不十分で、腎機能に問題がない場合にバクロフェンが有効。腎機能が悪い場合はクロルプロマジンやハロペリドール(メトクロプラミドは中止)を試すべきかもしれない。ガバペンチンは単独もしくは追加投与にて有用。
というわけで、長引くしゃっくりにメトクロプラミドの処方は妥当かと思います。48時間以上続いたり、メトクロプラミドやPPIが無効ならきちんと精査したほうが良さそうです。最後の文献では残念ながら漢方について一切触れられていません。市販薬の柿蒂湯は効能がしゃっくりで販売されていますし、芍薬甘草湯、半夏瀉心湯、半夏厚朴湯、呉茱萸湯なども有効なようです。有効性を検討したRCTはなさそうですが、体質に合致していれば選択肢の一つにはなりうると思います。
追記 国内の柿蒂湯の文献がありました。
医療薬学 Vol. 27 (2001) No. 1 P 29-32
注)比較試験ではありません
対象:中枢性吃逆と末梢性吃逆の患者(全例男性、40~86歳、平均66歳)
介入:柿蒂湯(ネオカキックス®)
<結果>
21症例中 著効8例、有効3例、やや有効2例、無効8例
中枢性吃逆の有効率66.7%(15例中、著効7例+有効3例)
末梢性吃逆の有効率16.7%(6例中、著効1例)
著効8例の改善時間:柿蒂湯の単独投与開始後1~2時間が1例、3~4時間が1例、1~2日が6例で数回の投与だけで数日間持続していた吃逆が消失。
有効3例の改善時間:3~7日が2例、11日が1例
比較試験ではないため、なんともいえないところですが、中枢性吃逆の場合は試してみる価値はありそうです。ぜひRCTやってほしいですね。