腎臓の機能が悪くなってくると、体の外に排泄されるはずだった老廃物(尿毒症毒素)がたまってしまい、さまざまな症状を引き起こします。これを尿毒症と呼びます。
尿毒症
<症状>
消化器症状 | 食欲不振、悪心、下痢、口臭 |
皮膚症状 | 掻痒、色素沈着、皮下出血 |
心血管系 | 心不全(息切れ、むくみ)、不整脈(動悸)、高血圧 |
呼吸器 | 肺水腫(咳、息苦しい)、代謝性アシドーシスによる過換気 |
血液 | 貧血(倦怠感、息切れ)、出血傾向、アシドーシス |
中枢神経症状 | 頭痛、意識障害、不眠、けいれん、幻覚、せん妄 |
末梢神経症状 | 手足のしびれ、レストレスレッグス症候群(足のむずむず)、灼熱脚症候群(足首より下が熱い) |
さまざまな尿毒症毒素により多様な症状を引き起こします。
尿毒症症状の有無は末期腎不全における透析導入の指標になります。
透析導入の明確な指標は決まっていませんが、eGFRが15mL/分/1.73㎡以下となった場合、尿毒症症状の有無、QOL、栄養状態などを考慮し、必要に応じて透析導入が検討されます。
A randomized, controlled trial of early versus late initiation of dialysis. - PubMed - NCBI
N Engl J Med. 2010 Aug IDEAL study
P:末期腎不全患者828名(平均年齢60歳、糖尿病患者355名)
E:透析早期導入群(eGFR10~14mL/分/1.73㎡)404名
C:透析後期導入群(eGFR5~7mL/分/1.73㎡)424名
O:総死亡
3.6年フォローアップ
総死亡:早期導入152名/404名、後期導入155名/424名 HR1.04(95% CI 0.83 to 1.30; P=0.75)
上記RCTからも示唆されるとおり、とくに腎不全症状がなければ、積極的な早期導入は行わず、eGFR7~8mL/分/1.73㎡程度までは待機しても生命予後はかわらないとされています(CKD診療ガイドライン2013)
ただし、eGFR2mL/分/1.73㎡未満の導入は予後不良が示唆されています。
新たなエビデンスにより、指標がかわる可能性はありますが、eGFRだけでなく、患者さんの状態を全体的に評価し、導入を検討することとなります。
透析導入を遅らせることを期待して、尿毒症の症状を改善するクレメジンが用いられます。
クレメジン(球形吸着炭)
胆汁中に排泄される尿毒症毒素(インドキシル硫酸など)を消化管内で吸着し、そのまま便として排泄させることで、尿毒症毒素の腸肝循環を防ぎ、全身倦怠感などの尿毒症症状改善・腎不全進行抑制が期待される。
<適応>
進行性の慢性腎不全における尿毒症症状の改善および透析導入の遅延
(透析期では適応なし)
<副作用>
体内にはほとんど吸収されないため副作用は消化器症状以外ほとんど無し
腹部膨満感、便秘、吐気などの消化器症状(4.5%程度)
肝障害患者では、便秘により二次的な高アンモニア血症をきたすことあり
<禁忌>
消化管通過障害
<相互作用>
吸着作用があるため2時間程度あけて服用(メーカー推奨は30分~1時間)。
クレメジンを食間(食後2時間)投与とすることが一般的。
※メーカーの見解では、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸カルシウムなどのカリウム吸着剤とは同時服用可能。ただし便秘助長に注意が必要。
<服用方法>
200mgカプセルだと1回量10カプセル、細粒だと1回2g/包
メーカー推奨の細粒の飲み方は、
①袋オブラート使用
袋オブラートに入れて、上の部分をねじってつまみ、1秒程度、水に浸してから(喉にひっかかりにくくなる)、水で飲み込む
②ストロー使用
クレメジン細粒を少量の水を入れたコップに入れる。コップの水の底に沈んだクレメジン細粒をストローで吸って飲み込む。飲み残しがあったら少量の水を入れて繰り返し。
<取り扱い>
脱カプセル、細粒の分包は不可。吸湿性があるため開封後は速やかに服用。吸着作用低下のおそれあり。
<その他>
吸収されずに排泄されるので便が黒くなることがある
国内第Ⅲ相試験
Cr5~8mg/dLの慢性腎不全244症例 DB-RCT 24週投与
食欲不振、口臭、吐気、かゆみの改善度をアウトカムとして検証
開始後2週で改善傾向、4週で有意差を持って改善
CKDガイド2012では、CKDステージG4~G5(GFR30mL/min/1.73㎡未満またはCcr30mL/min未満)ではCKD 進行の抑制効果と全身倦怠感などの尿毒症症状の改善が得られる可能性があると記載あり。
Effect of a carbonaceous oral adsorbent on the progression of CKD: a multicenter, randomized, controlled trial. - PubMed - NCBI
Am J Kidney Dis. 2010 Mar CAP-KD study
Cr5.0未満のCKD患者460名を対象としたRCT。
残念ながら、クレメジン投与による、[死亡、腎臓移植、透析、Cr6.0以上に上昇、Crの倍増]の複合エンドポイントの発生に有意差なし。セカンダリアウトカムであるCcrの低下はやや抑えられたようです。
透析導入をどの程度遅らせられるか微妙なところですが、全身倦怠感などの症状の改善は期待できるので、尿毒症症状のある患者さんには有用かと思います。