pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

「論文を読め派」 vs 「教科書やガイドラインを読め派」

「論文を読め派」 vs 「教科書やガイドラインを読め派」
定期的に勃発するこの戦争…。
自分は詳細は知りませんが、ぶっちゃけどちらの意見も「それな」と思ってしまうんですよね。
「薬剤師の仕事に役立つ臨床論文」なんていう本を書いておいてアレなんですけど…。
おまえも「論文を読め派の戦士」として戦えや!と怒られるかもしれませんが、どっちも一理あるって思っちゃうんだからしゃーない。
自分は二重人格のジキルとハイドなのです。

真面目に話してもおもしろくもなんともないので、水泳に例えましょう。

 

論文を読むスキル(情報の質を精査するスキル)は「水泳」です。
情報の渦に放りこまれても、溺れることなくスイスイ泳げるのって超アツいやろ!ってなわけです。
自分も泳げるようになりたくて、身近にトレーナーがいるわけでもないのに、何度も水に飛び込みました。
溺れ死にかけたこと多々あり。
そんな自分だからこそ思うのですが、いきなり泳ごうとしても水難事故を起こしかねない…。つまり、”論文の解釈間違い”や”どう解釈したらいいかわからない”ですね。論文の読み方をかじっても、臨床を知らず、背景知識も薄いままだと、論文を読んでも研究結果の本質をわかったつもりになってしまうリスクがあります。
しっかり体を鍛えていない状態でいきなり水に飛び込んで泳ぎ方だけを練習しようとするのは危険だということです。
いっさい体を鍛えることなく水にドボンしまくって、泳げるようになる人もいるかもしれませんが、それはその人が才能があるんですよ。あるいは、身近にメンターがいるかのどちらかでしょう。

「教科書やガイドラインを読め派」の戦士はおそらくそこを心配しているのではないでしょうか?
基礎体力をつけるのも大事でしょ!ジムに行って筋トレだ!ってことです。

でも、「泳げるようになる必要なんてない」という意見には反対です。泳げたほうがいいに決まってます。
薬剤師なんだから、情報の渦に飲み込まれること必至。
泳げないとニセ情報を信じてしまって溺れます。
ひたすら筋トレしてマッチョになっても(背景知識が増えても)、泳げないものは泳げません(研究結果の吟味ができるとは限らない)。
まあ、いうて、基礎体力の鬼なら、溺れにくいってのはあると思いますけどね。

 

というわけで、自分は最終的にはウルトラスイマーになるのが理想だけど、まずは筋トレも大事だと思ってます。
教科書、添付文書、ガイドライン…、いいじゃないですか。勉強になりますよ。
自分は、背景知識がないまま難しい論文の本質を見極める自信なんてないです。ある程度、知ってる領域(鍛え済みの筋肉)ならまだしも未知の領域を論文情報だけから学ぶのは効率が悪すぎます。まずはガイドラインでしょう。深堀りは論文って感じです。

 

あ、ちょっと待って。反論の声が聞こえてきました。「背景知識・基礎知識も論文から学べばいい」って?
たしかにそうかもしれませんね。
泳ぎの練習をする間に、自然と筋肉はつくと思います。
論文のイントロダクションを読むだけでも背景知識が学べるので、泳いで泳いで鍛えまくれ!っていう体育会系もアリかなと思うんですが、効率よく泳げるようになるためには、基礎体力をつける総合トレーニング(体系的に背景知識を学ぶこと)も必要だと思うんです。
おそらく論文を読むだけで背景知識が増えていった人は、調べ癖がついているんですね。論文の中に書いてあることに関して、わからないことがあれば別途調べるっていうのを徹底して深堀りしつづけたから鍛え抜かれたスイマーになったんじゃないですか?論文を読む過程で、自然と背景知識を収集するという筋トレを無自覚にやってたんじゃないでしょうか。そういう天才風のトレーニングもアリかもしれませんが、いきなり水の中に放り込まれて「さあ、筋肉を鍛えよ!」って言われてもねぇ~。まずはジムの器具(教科書)でトレーニングしたらい
いんじゃないですかねぇ~。

 

さて、かなり雑に書き散らかしましたが、もう飽きてきたので、このへんで終わりにします。

 

自分の指摘としては、

「論文を読め派」 の戦士は、
「教科書やガイドラインを読め派」が「論文なんて読む必要がない。教科書などを読め」と言っていると誤解している。
→おそらく「論文を読む必要はない」とは思っておらず、「まずは教科書とかから学んだほうがいいのでは?」と言っている。

 

「教科書やガイドラインを読め派」の戦士は、
「論文を読め派」が「教科書なんて読む必要がない。論文だけ読め」と言っていると誤解している。
→おそらく「教科書やガイドラインを軽視している」ということではなく、「基礎知識を学ぶことも大事」だけど、「情報を深堀りし、目の前で困っている個別の患者さんに適切な対応をするためには、最終的には論文から情報を入手できるようになったほうがいい」と言っている。

 

こんなところじゃないですか。
要はすれ違いですね~。
人間社会なんて、すれ違いの毎日ですわ。世知辛い世の中っすね~

食事のときに、野菜を先に食べる→血糖値は下がる? part2

前回(食事のときに、野菜を先に食べる→血糖値は下がる? - pharmacist's record)に引き続いてのテーマです。

2019年の糖尿病診療ガイドラインに、
「近年、食品の摂り方によって、食後の血糖上昇を抑制しうることが注目されている。特に食物繊維に富んだ野菜を先に食べることで食後血糖の上昇を抑制し、HbA1cを低下させ、体重も減少させることができることが報告されている」

日本糖尿病学会(編) 糖尿病診療ガイドライン2019
CQ3-13「食事の摂り方は糖尿病の管理にどう影響するか」より
糖尿病診療ガイドライン2019|一般社団法人日本糖尿病学会

もちろん引用文献がついています。
確認してみると…。
てっきり、先日とりあげた文献かと思っていたら、なんとランダム化比較試験の文献でした。
これはノーチェックだったわ!ってことでそちらも参照してみました。


A simple meal plan of 'eating vegetables before carbohydrate' was more effective for achieving glycemic control than an exchange-based meal plan in Japanese patients with type 2 diabetes
Asia Pac J Clin Nutr. 2011;20(2):161-8. PMID: 21669583.

こちらは、ランダム化比較試験なので、患者背景に大きなズレはありません。
HbA1cは昔のJDS値なので、現行のNGSP値でいうと、試験参加者の平均HbA1cは8.7%くらいですね。
JDS値+0.4=NGSP値)

さて、食べる順序を「野菜→炭水化物」にするという介入群(Vegetables before carbohydrate (VBC) group)ですが、他にも指導を行っています。
「果物ではなく、緑の野菜を少なくとも 1 日 1 回食べる」
「一口あたり 20 回以上噛む」
「野菜、キノコ、海藻、GIの低い食品の摂取量を増やす」
という指導も行っています。

おや?先日とりあげた2010年発表の研究と似てますね。
論文の著者をチェックしたら同じ先生でした。
レトロスペクティブの調査で有効性が期待できそうなので、RCTで検証したということでしょうか。


ちなみに、GI(グリセミック・インデックス)は食後血糖値の上昇度の指標みたいなもんです(前回の記事で説明し忘れてた)
GIが高ければ食後の血糖値が上がりやすいということ。

数々の食品のGI値の一覧はこの論文のTable1にあります。
Dietary glycemic index and load in relation to metabolic risk factors in Japanese female farmers with traditional dietary habits
Am J Clin Nutr. 2006 May;83(5):1161-9. PMID: 16685061
たとえば、
白米77、玄米55、食パン(White bread)74
ほか、いろいろ載っているのですが、GIだけにこだわればいいというわけではない気がします。
たとえばケーキのDIは46だそうですが、食パンを食べるかわりにケーキばかり食べてたらまずいような…。
そのほか、せんべい(Rice crackers)のGIは91、ポテトチップスは54…。でも、ポテチばかり食べてたら油のとりすぎになりそうですよね。

本試験の介入内容「野菜、キノコ、海藻、GIの低い食品の摂取量を増やす」のあるとおり、GIだけにこだわればいいわけではなく、野菜やきのこなども摂りましょうって感じですね。


さて、話を戻して…
対照群は何もしていないのかというと、こちらも食事指導が入っています。
交換食ベースの指導(exchange-based meal plan)とは、“Food Exchange Lists: Dietary Guidance for Persons with Diabetes”を使用した指導です。
「1日あたり350g以上の野菜と80kcal以上の果物を摂取するよう推奨」とあります。

“Food Exchange Lists: Dietary Guidance for Persons with Diabetes”というのは、おそらく市販されている「糖尿病食事療法のための食品交換表」のことではないかなと。
私は第7版を持ってますが、フルカラーで各食品のデータが写真つきで載っています。


この2通りの介入にて24か月フォローし、介入群も対照群もHbA1c低下。両群を比較すると、介入群のほうが有意に下がっていたという結果です。
(原著のFig2にグラフがあるのでぜひそちらを参照してください。フルテキストフリーの論文です!)

食事摂取量の変化をみてみると、両群ともに食事摂取カロリーを減らすことに成功しています。
ただ、食事指導内容の違いによって、食事量の変化に差が生じており、介入群では対照群よりも炭水化物と果物の量が少なく、野菜が多くなっています(詳細は原著参照)。
この食生活の変化の違いが血糖値に差を生んだのかもしれませんね。


ひとつだけ気になる点があるとすれば、試験開始時に約7割の人たちが糖尿病の薬物療法を受けていたのですが、2年間のフォロー中にこの薬に変化はあったのかってことですね。
介入群だけ薬の用量などが増えている傾向にあったら、それが結果に影響した可能性が出てきます。
論文の「Result」には記載がないですが、「Discussion」のLimitationに関する記述として、
「介入群では、14% の患者が薬の量を減らし、7% が薬の量を増やした。 一方、対照群の患者の50%は、薬の量を増やし、そのなかには経口血糖降下薬からインスリン療法への変更も含まれていた」
とあります。詳細不明ですが、この一文だけをみると、対照群のほうが増量していたということでしょうか。
そうなると、介入群の効果を弱めるバイアスがかかるため、やはりこの介入は有効なのかもしれません。

前回も書いた通り、不利益がほとんどなさそうな介入なので、自分としてももし血糖値が上がってきたらやってみたいなと思える対策かなと感じました。
さっそく、血糖値(HbA1c)がじわじわあがってきて薬を飲むのが嫌だから食事療法をがんばろうと思うという患者さんにご紹介しました(効果があったというデータもあるという話こみで)。
ハードアウトカムへの影響は不明ですが、簡単にできるところがいいですよね~。


参考)
↓本試験の筆頭著者の先生によるレビュー
食品の摂取順序を重視した糖尿病栄養指導の血糖コントロール改善効果
食品の摂取順序を重視した糖尿病栄養指導の血糖コントロール改善効果
糖尿病 55 巻 1 号 1-5,2012
このレビューにも研究結果がまとめられているので(日本語&フルテキストフリー)、参照してみてください。

食事のときに、野菜を先に食べる→血糖値は下がる?

食物繊維が豊富な野菜を先に食べることで食後血糖の上昇を抑制するっていう説がありますよね。自分も患者さんに話したりするのですが、その効果を検証したデータはあるのかな?ってことで調べてみました。

国内から、外来患者に対する摂取順序を重視した糖尿病栄養指導の血糖コントロール改善効果というタイトルの実践事例報告が発表されています。レトロスペクティブな観察研究のようです。
↓ざっくりまとめるとこんな感じ

外来患者に対する摂取順序を重視した糖尿病栄養指導の血糖コントロール改善効果
日本栄養士会雑誌53巻12号 p.1084-1091 2010年


介入群では管理栄養士さんの栄養指導あり
ビジアブのとおり、さまざまな指導が行われましたが、そのうちの一つとして、食事の順番を「野菜→炭水化物」にすることを推奨とあります。ほかは「よく噛んで食べる」「GI値の低い食品を推奨」です。

RCTではないので、介入群と非介入群の背景は違います。
介入群では、罹病期間が短く、まだ薬物療法を受けていない糖尿病患者さんが多かったようなので、介入群のほうが食生活改善で血糖値が低下する余地が大きい傾向にあったという可能性もあります。
因果関係を証明するRCTではないので、このようなバイアスの可能性は排除できませんが、「野菜を先に食べる」という介入や「よく噛んで食べる」といったとくに苦がなくできる対策なら試してみてもいいのでは?と個人的には思います。

因果関係(効果があるかどうか)を証明するためにはRCT(ランダム化比較試験)という前向きの試験を行うことになりますが、観察的なデータで有効性が示唆されることもあります。患者背景の違いによって生じた差かもしれませんが、期待できる効果が大きかったり、介入による不利益が小さいのであれば試してみてもいいかな~というのが個人的な見解です。
たとえば「野菜を先に食べる」というのは不利益がほとんどなさそうな気がします。
順番を変えるだけですからね。「好きなものを食べるな」と言われるわけでも、「好きじゃないものを食べろ」と言われているわけでもありません。費用(コスト)がかさむこともないでしょうし、安全性も問題なさそう。国の保険をつかってなにかを援助するわけでもないので、国全体としてのコストもかかりません。
こういう介入であれば、因果関係が証明されていなくても、試す価値はあるんじゃないかなと…。

医療者によって意見が分かれるかもしれませんけどね汗
みなさんはどう考えますか?(突然の呼びかけ)


※このテーマはこれで終わろうと思っていたのですが、このテーマでランダム化比較試験も実施されているようなので、この話は「次回へ続く」かも…?

追記
ph-minimal.hatenablog.com

こちらへ続きます!