pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

二日酔いにロキソプロフェンは有効??【ビジアブ】

全国の酔っ払いのみなさん!
今回は二日酔いについての論文を取り上げます!

二日酔いについては2019年10月発売の自著(ビジアブで読み解く! 薬剤師の仕事に役立つ臨床論文50)でも取り上げたのですが(私の本を購入してくれたけど、二日酔いの項目しか読んでいないという同僚も…)、その翌月の11月に二日酔いに関するランダム化比較試験の論文が発表されました。

さっそく、ビジアブにまとめます
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A Nationwide Randomised, Double-Blind, Placebo-Controlled Physicians' Trial of Loxoprofen for the Treatment of Fatigue, Headache, and Nausea After Hangovers - PubMed
Hara M, Hayashi K, Kitamura T, Honda M, Tamaki M. [published online ahead of print, 2019 Nov 2]. Alcohol. 2019;S0741-8329(19)30082-5.PMID:31689482

二日酔いの全身倦怠感や頭痛にロキソプロフェンが有効なのかどうかを検証したランダム化比較試験です。
SNSを使って、全国の医師に参加者を募集したみたいですね。
ほとんどが男性医師で、30代が半数を占めています。消化性潰瘍、心疾患、肝疾患などの持病はなく、NSAIDs(痛み止め)の常用はありません。

介入内容についてビジアブがちょっとわかりにくいので補足です。
229人がランダム割付にて、ロキソプロフェン群とプラセボ群に分けられ、試験薬として支給されましたが、全員が服用したわけではありません。二日酔いを起こしたら服用し、3時間後の症状の変化を記録しています。二日酔いを起こしたのは229人中150人ですね。事前に見積もったサンプルサイズの150人に達するまで参加者を募集したそうです。
(ビジアブの患者背景の男女率や平均年齢は実際に服用した150人のデータです)


さて、結果はというと頭痛は有意に改善するもののプライマリアウトカムの倦怠感は有意差なしでした。

倦怠感も改善しているように見えますが、p=0.07ということで有意差はつかなかったようですね。
本試験のサンプルサイズは150人、検出力は80%。
検出力90%としてサンプルサイズを増やしたら有意差がつくのかなぁ…なんて気もしましたが、あくまで本試験の結果はプライマリの倦怠感を改善せず、という結論となります。


本試験は3時間後に症状を評価していますが、ロキソプロフェンは効果発現が早いです。Tmax(最高血中濃度到達時間)は未変化体が約30分、活性代謝物が約50分(インタビューフォームより)です※。
二日酔いは時間の経過とともに改善していくため、評価時間を3時間後ではなく1時間後、2時間後と細かく評価したらどんな結果になったのかも気になるところです。論文の著者も評価時間を1時間後または2時間後としていたら結果が変わったかもしれないと考察で述べています。

※私自身、ロキソプロフェンは歯の痛みで使ったことがありますが、30分くらいで効果が出てきて、「ああ~、ロキソプロフェン様!ありがとう!」と両手を合わせて感謝したくなりました。


あと気になるのは吐き気ですね。痛み止めというと胃腸障害の副作用が知られています。単回投与でのリスクは小さいかもしれませんが、二日酔いで頭が痛くて気持ちが悪いときに胃に負担がかかるかもしれない痛み止めの薬を飲むというのはちょっと抵抗がありますね。今まで自分は二日酔いのときに頭痛を緩和するためにロキソプロフェンを飲んだことがなかったのですが、本試験では吐き気や胃痛の増加は認められなかったようです。


さて、結局のところ、自分は二日酔いのときは薬を飲まずに嵐がすぎるのをひたすら待つという選択肢をとりますね(これは人それぞれだと思います)。二日酔いは時間とともに改善するのは自明のことなので、布団をかぶってうめきながら耐え抜こうと思います。幸い、一人暮らしなので、二日酔いでうなっている私をだらしないと叱る人はいません(看病してくれる人もいませんが…涙)。

え?飲みすぎなければいいじゃないかって?
はい、それが正解です。

ただ、人間は必ずしも正しい行動をとれるとは限らないのです。
あと一杯いけるのではないかと誤った選択をすることもあるのです。

自分は症状が消失するのを待つという選択をとりますが、二日酔いで頭痛がひどくてたまらん!なんとかしてくれ!という人にとっては、本試験は貴重なエビデンスとなるでしょう。
試験を実施した先生方、そして、試験に参加して二日酔いを経験した試験参加者の方々に感謝ですね。おつかれさまでした!
いつか酒飲み薬剤師の有志を集めて二日酔いの研究をしてみたいものですね。個人的には漢方とかどうなのかなって気になっています。飲みすぎなければいい話なんですけどね…。

シップの使いすぎで胃潰瘍? [症例報告 2019年]

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(左のイラストが63歳には見えないというツッコミはナシでおねがいしますm(. .)m
[1]
NSAIDs経皮製剤(湿布)が原因と考えられた胃潰瘍の1例
日本プライマリ・ケア連合学会誌2019 年 42 巻 3 号 p. 158-161

なんと!
まさかのNSAIDsの外用薬による胃潰瘍疑いの症例です。
たしかにシップといえども使いすぎると血中濃度が上昇するので要注意ですね。

ケトプロフェンテープのインタビューフォームをみてみると、むやみやたらとたくさん貼ってしまうと、内服薬に匹敵する血中濃度になってしまうようです!
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シップだから大丈夫と安易に決め付けないようにしなくては…!!

ちなみに、他のシップ薬についても文献[1]で言及されてます。
「ロキソプロフェンテープ100mgを1日2枚5日間貼布すると、5日目のトランス体のAUCは470 ng・hr/mL。60mg経口製剤では2020±50 ng・hr/mL。
ジクロフェナクテープ30mg製剤4枚貼布のAUC1419±512 ng・hr/mL に対して,ジクロフェナク25mg錠のAUCは998±84 ng・hr/mL。」
だそうです。

ロキソプロエフェンテープはたくさん使ったときのデータがないようですね。1日4~5枚貼ったらどうなるんだろう…。


Take home messageは…、
・ケトプロフェンテープを大量に使用したら、内服薬に匹敵する血中濃度となり、胃腸障害のリスクとなる可能性あり

おまけ
となると、CKD患者がNSAIDsのシップを大量に使用すると腎臓に負担がかかるのでしょうか…。
これについてはまた別途調べてみようと思います。

COVID-19と免疫抑制薬  日本リウマチ学会の提言(2020年2月22日)

ひきつづきCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)についてです。

https://www.ryumachi-jp.com/information/medical/covid-19/

日本リウマチ学会のステートメントがでました。
(2020年2月22日現在)

患者さんから『免疫抑制薬をどのようにしたら良いか』という質問を受けた場合の対応
について記載されています。

「免疫抑制薬服用者が感染リスクを上昇させるというエビデンスはない(2020年2月22日現在)」
「免疫抑制薬、生物学的製剤、抗リウマチ薬、ステロイドは、原則として同じ用量で継続投与とし、感染症の兆候がある場合は、これら薬剤は機序的に重篤化のリスクが考えられるので、ステロイドは原則同じ用量で維持、他の薬剤は減量や投与の一時的延期などを慎重に検討し、通常の感染症時と同様に対応」

患者さん向けのQ&Aにもほぼ同様のことが書かれています。
「免疫抑制治療の減量・中止によってリウマチ性疾患の再燃のおそれがあるため、原則として、免疫抑制薬、生物学的製剤、抗リウマチ薬、ステロイドは同量で服用継続。感染症の症状があらわれたら主治医相談」
とのことです。

自己判断で中止したりせず、原則として同量で継続ということですね。
学会がこのような提言をしてくれるのは専門外の薬剤師としてはとても参考になります。ありがたいことです。

自分は薬局勤務の薬剤師ですので、COVID-19にかかった患者さんの治療に直接かかわることはありませんが、慢性疾患の患者さんと接する上で、COVID-19に関連する周辺情報をきっちりおさえておくことは大事だと思います。


繰り返しますが、これは2020年2月22日時点の提言ですので、今後更新される可能性もあります。
最新の情報をチェックしていただくようお願いします。