pharmacist's record

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機能性ディスペプシアに六君子湯は有効?(各種FD関連文献)

Randomized clinical trial: rikkunshito in the treatment of functional dyspepsia--a multicenter, double-blind, randomized, placebo-controlled study. - PubMed - NCBI
Neurogastroenterol Motil. 2014 Jul;26(7):950-61
研究デザイン:多施設二重盲検ランダム化比較試験、ITT解析(脱落例を除いたper-protocol(PP)populationの解析も行われている)
P:20歳以上の機能性ディスペプシア(FD;functional dyspepsia)(RomeⅢ基準で診断)
E:六君子湯7.5g 分3(n=125)
C:プラセボ(n=122)
O:FDの症状の改善(レスポンダー)の割合。
レスポンダーの定義;GPA(global patient assessment)スコア "1.extremely improved" or "2.imploved"
GPAスコア;合計7点 4点がnot change、スコアが低いほど改善
試験期間:8週間
資金提供:a Health and Labour Sciences Research Grant for Research on Health Technology Assessment
COI:過去2年のCOIについて明記されており、ツムラクラシエなどの漢方メーカーの記載はない。

<患者除外基準>
6ヶ月以内のピロリ除菌治療
IBS
重度の肝疾患、心疾患、腎疾患
悪性疾患
上部消化管手術の既往
など

<患者特性>
平均年齢:54歳
女性:63%
BMI:21
チャールソン併存疾患指数:2
ピロリ菌陰性:60~68%
ピロリ除菌済:14~21%

<結果>(ITT population)

六君子湯(n=125) プラセボ(n=122) p value
GPAレスポンダー 42名(33.6%) 29名(23.8%) 0.09
心窩部痛Epigastric pain 55名(44.0%) 37名(30.3%) 0.04
胸焼けEpigastric burning 30名(24.0%) 25名(20.5%) 0.54
食後膨満感Postprandial fullness 63名(50.4%) 46名(37.7%) 0.06
早期満腹感Early satiation 45名(36.0%) 36名(29.5%) 0.28


ピロリ菌とGPAレスポンダー
ピロリ菌(+):六君子湯40% vs プラセボ20.5%
ピロリ菌(-):六君子湯29.3% vs プラセボ25.6%

有害事象(すべて軽度、p=0.46)
六君子湯19例:下痢7例、吐き気3例、頭痛3例、γ-GTP上昇2例、上腹部痛2例、ALT上昇1例、腹部膨満1例、腹部不快感1例など
プラセボ14例:γ-GTP上昇4例、下痢1例、上腹部痛1例、腹部膨満1例など


<感想>
「過去の試験では、消化不良の症状緩和率はプラセボ23.3%、H2RA36%、PPI51.1%。
六君子湯の効果率36%、プラセボ23.3%と仮定、サンプルサイズはpower80%、α0.05で416人。被験者は430名必要としたが、人数が集まらず研究期間が2年を超えたため220名に目標数を減少、power50%に」ということで、この試験結果は検出力不足の可能性があります。
有害事象については、プラセボと比較すると下痢・吐き気は六君子湯の副作用として考えられます。漢方で下痢する人もいますよね。
肝機能については症例も少ないこともあってプラセボと比べて多いかどうかはっきりしませんが、肝機能障害を起こすこともあるとされているので注意が必要です(医薬品安全性情報No213.医薬品・医療機器等安全性情報 No.213 | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)。

六君子湯は食欲を亢進させるグレリンを分泌するという説があります。
血漿グレリン濃度は六君子湯プラセボともに、ベースラインと比較して有意な増加はみられませんでした。
グレリンはピロリ菌によって抑制されることが示されており、ピロリ菌陽性患者においては、六君子湯によってグレリンが増加したそうです(プラセボでは増加せず)。この点は、ピロリ菌陽性患者においてGPAレスポンダーが有意に多かった理由の1つと考えられます。

FDといえば近年承認されたアコチアミドがあります
Efficacy and safety of acotiamide for the treatment of functional dyspepsia: systematic review and meta-analysis. - PubMed - NCBI
ScientificWorldJournal. 2014;2014:541950
アコチアミドをプラセボと比較した7RCTのメタアナリシスでは、
FDの全体的な改善:RR1.29(95%CI 1.19-1.40, P<0.00001 I(2)=15%)
食後愁訴症候群(PDS;postprandial distress syndrome)の改善:RR1.29(95%CI 1.09-1.53 P=0.003 I(2)=0%)
心窩部痛症候群(EPS;epigastric pain syndrome)の改善:RR0.92(95%CI 0.76-1.11 P=0.39 I(2)=0%)

心窩部痛に対してアコチアミドの有効性が低いようなので、心窩部痛が強い症例では六君子湯を試してみる価値はありそうです。

ちなみにアコチアミドもグレリンを増やすという文献(Improvement of meal-related symptoms and epigastric pain in patients with functional dyspepsia treated with acotiamide was associated with acylated... - PubMed - NCBI Neurogastroenterol Motil. 2016 Feb 27)もあるようです。


その他、参考文献
アブストラクト流し読みですが汗。
WITHDRAWN: Pharmacological interventions for non-ulcer dyspepsia. - PubMed - NCBI
Cochrane Database Syst Rev. 2011 Feb 16;(2):CD001960.
対象はnon-ulcer dyspepsia
Prokinetics(消化管運動機能改善薬):RRR(relative risk reduction)33%(95%CI 18% to 45%)
H2RA:RRR23%(95%CI 8% to 35%)
PPIs:RRR13%(95%CI 4% to 20%)
スクラルファート:RRR29%(95%CI -40% to 64%)
制酸薬(antacid):RRR -2%(95%CI -36% to 24%)

Prokinetics:イトプリド(ガナトン®)、モサプリド、トリメブチン(セレキノン®)、ドンペリドン、メトクロプラミド、アコチアミドなど

やはり、器質的病変のないディスペプシアには薬が効きにくい印象です。
(注:あっ、すみません、このコクランの論文、取り下げされてますね 追記2018


国内でよく用いられるモサプリドはどうでしょうか。
まず日本の文献。

Large-scale randomized clinical study on functional dyspepsia treatment with mosapride or teprenone: Japan Mosapride Mega-Study (JMMS). - PubMed - NCBI
J Gastroenterol Hepatol. 2012 Jan;27(1):62-8.
国内のオープンラベルのRCT
P:胃内容停滞gastric stasis(GSS) and/or epigastric pain (EPS)1042例
内視鏡で90名に器質的病変が認められ除外、264名は内視鏡検査後1週間以内に症状消失→→618名ランダム化
E:モサプリド
C:テプレノン
O:Severity and frequency of GSS and EPS,health-related quality of life (HR-QOL)
モサプリド→GSS、EPSともに改善
テプレノン→GSSのみ改善
HR-QOLの改善;モサプリド91%、テプレノン52%

プラセボとの比較ではないこと、またオープンラベルであることなど解釈に注意が必要。
テプレノンがそんなに効くとも思えませんが…。
モサプリドについてはメタアナリシスもあるようです!

Mosapride treatment for functional dyspepsia: a meta-analysis. - PubMed - NCBI
J Gastroenterol Hepatol. 2015 Jan;30(1):28-42.
モサプリドのRCT(13trial)のメタアナリシス
P:FD
E:モサプリド
C:placebo or other drugs
O:FDのSymptom response rates
improving global efficacy or symptom-based scoresのrisk ratio(RR):0.999(95%CI 0.869-1.150)
高品質のRCTの解析では、RR1.114(95%CI: 1.011-1.227)
ですが、RomeⅢ基準で診断されたFDにおける解析では、RR0.906(95%CI 0.807-1.016)

あれッ?モサプリド微妙ですね。マジですか…

では、イトプリドはどうでしょう
メタアナリシスです(全文フリー)

Itopride therapy for functional dyspepsia: a meta-analysis. - PubMed - NCBI
World J Gastroenterol. 2012 Dec 28;18(48):7371-7
RCTのメタアナリシス
P:FD患者2620名
E:イトプリド
C:プラセボorドンペリドンorモサプリド
O:プライマリアウトカムの明確な記載なし

イトプリドvsコントロール
全体症状global patient assessment:RR(relative risk)1.11[95%CI: (1.03, 1.19), P = 0.006]
食後の膨満感postprandial fullness:RR1.21[95%CI: (1.03, 1.44), P = 0.02],
早期満腹感early satiety:RR1.24[95%CI: (1.01, 1.53), P = 0.04]
"itopride had superior"との記載なので、上記症状改善のrelative riskということで1を上回っていたらイトプリド優位ということだと思います。

イトプリド推しですが、これはちょっとどうでしょう…。
コントロール薬として、プラセボorドンペリドンorモサプリドとなっているのを見た時点でちょっと読む気が失せました。
vsプラセボで分析するか、もしくは、vsドンペリドンorモサプリドで分析して欲しかったと思うのは自分だけ??
プラセボより効くかもしれないけど、ドンペリドンやモサプリドより優れているとは言えないといったところでしょうか…。

イトプリドのメーカーさんが絡んでいるのかなと思いましたが、
サポートはThe Natural Science Foundation of Zhejiang Province of China, No. LY12H29002; and Traditional Chinese Medicine Science Foundation of Zhejiang Province of Chinaとなっています。

次、意外なところでこんなRCTもありました
5-HT1Aアゴニストのタンドスピロンの国内のRCTです。

Efficacy of the 5-HT1A agonist tandospirone citrate in improving symptoms of patients with functional dyspepsia: a randomized controlled trial. - PubMed - NCBI
Am J Gastroenterol. 2009 Nov;104(11):2779-87.
多施設DB-RCT
P:FD患者144名
E:タンドスピロン10mg t.i.d.(1日3回)
C:プラセボ
O:腹部症状スコア(abdominal symptom scores)
試験期間:4週
タンドスピロンが有意に症状の改善
上腹部痛upper abdominal pain (P=0.02)
腹部不快感discomfort (P=0.002)

アブストラクトにはp valueしか記載がなく、臨床上どの程度の効果が得られるのかちょっとイメージが沸かないかな…という印象です。


どうもFDの治療効果はいまひとつパッとしないなという印象です。
FDに対する有効性は診断基準も左右するように思います。器質的病変がないことをきちんと鑑別した上で患者を組み入れないとPPIやH2RAが著効する例が混ざってくるような…。

個人的にはもし自分がFDと診断されたら最初に使ってみたいのは…、うーん悩ましい。
とりあえず六君子湯(統計的有意差無しですが)は使ってみたいです。合うかどうかわかりませんけど。
論文読む前は、モサプリドが良いのではと思ってましたが、メタアナリシスの結果が微妙なのでイトプリドのほうがいいかなぁ…。そんな大差はなさそうですが。
アコチアミドは自分が経験した数例においては劇的に効いた!という患者さんはいないです。メタアナリシスを読む限りでは食後の不定愁訴には多少は効果が期待できそうな印象ではあります。

FDは症状は辛いでしょうけど、緊急性は低い疾患かと思うので、いろいろ試してみて自分に合う薬を使うのが良いのではないでしょうか。
IBSと同じようにプラセボ効果が期待できそうな疾患なので、医師と患者の間の信頼関係も重要なのではないかと思います。