国内の文献より
禁煙補助薬バレニクリンによる嘔気出現に関連する患者背景の検討
日本禁煙学会雑誌 Vol. 10 (2015) No. 1 p. 7-12
2008~2014年のデータを解析したレトロスペクティブな研究
背景:薬による禁煙治療はニコチン置換療法とニコチン作動性受容体阻害薬(バレニクリン)に大別。バレニクリンはα4β2ニコチン性アセチルコリン受容体に作用。喫煙しない場合、部分作動薬として作用しニコチン離脱症状を緩和。喫煙すると部分拮抗薬として作用し、ニコチンによる満足感が得られにくくなる。バレニクリンの国内外の臨床試験において9~12週の4週間持続禁煙率は44~65.4%。バレニクリンの副作用が問題となることもあり、嘔気は服用初期で約3割に発現、アドヒアランスの低下につながる。
対象:バレニクリンで禁煙治療を行った261名(男性211名、女性50名)
解析内容:バレニクリンによる嘔気発現の有無、嘔気発現に寄与する因子
治療開始後、適宜電話相談を実施
再診時、または電話相談時に「嘔気により服用が困難と訴えた」場合に嘔気ありと判定
嘔気出現時の対応は、
・ノバミン5mg頓服
・バレニクリン1mg/日(朝または夕)への減量
・バレニクリン中止(中止後も通院をすすめる)
禁煙成功の判定は、「呼気CO濃度7ppm以下かつ禁煙開始4週~12週後までの8週間以上の禁煙継続」
<患者背景>
平均年齢61歳(男性62歳、女性57歳)
BMI:23
1日喫煙本数:21~23本
喫煙年数:男性41年、女性33年
呼気CO濃度:男性7.5ppm、女性9.1ppm
eGFR:男性74mL/min/1.72m2、女性78mL/min/1.72m2
<結果>
禁煙外来12週受診:9割(226/261)
禁煙成功率:86.6%(男性85.3%、女性92%)
バレニクリンによる嘔気出現
減量or中止:30.7%(男性25.6%(54/211)、女性52%(26/50) )
→処方減量or中止した患者の禁煙成功率は93.8%(男性92.6%(50/54)、女性96.2%(25/26))
嘔気出現時期
投与初期、2週目の増量時に多い(0~2週:71% 2~4週:19%)
嘔気出現の関連因子の単変量解析
女性 | p=0.0004 |
eGFRが低い(171名のみ解析) | p=0.0024 |
低身長 | p<0.0001 |
低体重 | p=0.0014 |
多変量解析
女性 | OR6.64(2.36-20.13) |
eGFR | OR0.97(0.94-0.99) |
体重 | OR0.98(0.91-1.01) |
<考察>
女性であること、eGFRが低いことが嘔気のリスク因子。
eGFRが低いと、尿中排泄率80~90%のバレニクリンのクリアランスが低下し血中濃度が上昇している可能性あり。この点は、バレニクリンによる嘔気は用量依存性であるという報告と矛盾しない。
体重と身長は女性のほうが低値だが、体格は独立した因子とはならなかった。
<感想>
女性のほうがバレニクリンによる吐き気が出やすいようです。
吐き気がでてしまい減量や中止となった場合でもむしろ禁煙率は高かったという結果。嘔気出現した患者の全例が禁煙成功率の分母と等しいので、嘔気出現者全例解析した上での高禁煙率(嘔気出現で禁煙外来から脱落してしまい、禁煙成功率の解析対象から外れたわけではない)
この文献の中でも引用されているのがこちら
日本呼吸器学会雑誌 ONLINE JOURNAL:書誌情報
日呼吸会誌, 48(11): 791-796, 2010
148例(男性113名、女性35名)のバレニクリン治療データを解析
禁煙成功率は4週間で74%、1年禁煙率は50%(性差なし)
嘔気:37.8%
便秘:13.5%
上腹部痛:12.2%
頭痛:10%
不眠:5.4%
女性は嘔気によるバレニクリン減量や嘔気に対する対症療法を必要とされるケースが多かったとの記述あり
副作用に対する対症療法は担当医師の判断
嘔気→メトクロプラミドやドンペリドン
便秘→MgO、センノシド、センナ
頭痛→ロキソプロフェンなど
上腹部痛→モサプリド、ファモチジン、ラニチジンなど
バレニクリンの処方において、しばしばメトクロプラミドやファモチジンなどを併用するという副作用防止の処方が見受けられます。そしてそのような処方は女性患者に多いですね。医師もこのような文献をチェックした上で副作用防止策をとっているのだと思います。
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