pharmacist's record

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整腸剤で抗生剤による下痢を防げる?(高齢者)

整腸剤で抗生剤による下痢を防げる?(小児) - pharmacist's record
表題の件、小児については先日調べましたが、高齢者はどうでしょうか?


Probiotics for the prevention of antibiotic-associated diarrhoea in older patients: a systematic review. - PubMed - NCBI
Travel Med Infect Dis. 2015 Mar-Apr;13(2):128-34.
P:65歳以上の高齢者
E:プロバイオティクス
C:プラセボor治療なし
O:抗生物質関連下痢症(AAD;antibiotic-associated diarrhoea),クロストリジウムディフィシル関連下痢症(CDD;clostridium difficile diarrhoea)
研究デザイン:RCTのメタアナリシス

<結果>
6試験(n=3562)

1試験、Bacillus licheniformisの投与のみ高齢者のAADに効果あり。
他の試験においては、AAD、CDDともに予防効果は認められず。


小児と違って、微妙な結果です。
メタアナリシスですが、アブストラクトだけで詳細がわからないので、もう少し文献検索してみます。


上記メタアナリシスに含まれていたかわかりませんが、高齢者におけるAAD予防効果を検討した文献としては、Lancetのこちらが有名なのかも。
Lactobacilli and bifidobacteria in the prevention of antibiotic-associated diarrhoea and Clostridium difficile diarrhoea in older inpatients (PLACI... - PubMed - NCBI
Lancet. 2013 Oct 12;382(9900):1249-57
背景:広域スペクトラムの抗生剤が投与されている高齢者においてAADは頻繁に発生するクロストリジウム・ディフィシルに起因する場合は生命を脅かすこともある。微生物製剤(microbial preparations)はAADを防止すると評価されている。

研究デザイン:多施設、二重盲検、ランダム化プラセボ対照比較試験、modified ITT解析
P:1つ以上の経口or非経口抗生剤を投与されている65歳以上の入院患者
E:プロバイオティクス6×10¹⁰生菌(乳酸菌lactobacilliとビフィズス菌bifidobacteria)を1日1回21日間
C:プラセボ
O:8週以内のAAD発生、12週以内のCDD発生
資金提供:National Institute for Health Research, UK

除外基準:既存の下痢、免疫不全や炎症性腸疾患など

17420名の適格性を評価し、除外基準に沿って除外(1026名が既存の下痢、680名が炎症性腸疾患、214名が免疫不全、401名が人工心臓弁、201名が整腸剤継続中、139名が急性膵炎疑い など)。9068名は試験参加を拒否。
2981名をランダム化
プロバイオティクス1493名→6名は介入を受けず→17名脱落→1470名が分析対象
プラセボ1488名→1名は介入を受けず→16名脱落→1471名が分析対象

<患者背景>
平均年齢:77歳
人種:白人が99.9%
高血圧:5~6割
COPD:24%
DM:21~24%
喘息:16%
腎疾患:9~10%
消化管手術歴:14~15%
8週間以内の入院:30~33%

<投与された抗生剤>
ペニシリン:約7割
セファロスポリン:24%(第3世代0.7%)
カルバペネム:2%
テトラサイクリン:14~15%
アミノグリコシド:12~13%
マクロライド:17%
キノロン:12~13%

単剤:21%
2剤:27~28%
3剤以上:約5割

<結果>

プロバイオティクス プラセボ オッズ比
AAD 159/1470(10.8%) 153/1471(10.4%) OR1.04(0·83–1·32)
CDD 12/1470(0.8%) 17/1471(1.2%) OR0.70(0.34–1.48)
下痢 189/1460(12.9%) 172/1464(11.7%) OR1.12(0.90–1.39)
夜間下痢 55/1459(3.8%) 51/1464(3.5%) OR1.09(0.74–1.60)
しぶり腹tenesmus 22/1458(1.5%) 22/1464(1.5%) OR1.00(0.55–1.82)
腹痛 200/1458(13.7%) 193/1464(13.2%) OR1.05(0.85–1.29)
吐き気 228/1458(15.6%) 207/1462(14.2%) OR1.12(0.92–1.38)
嘔吐 124/1459(8.5%) 110/1463(7.5%) OR1.14(0.87–1.49)

 
プロバイオティクスによるADD、CDD予防効果は認められなかったという結論。
うむむ。マジですか。
入院患者ということもあって抗生剤3種併用が約半数。プロバイオティクスで下痢を防止しきれないということでしょうか。。

もう少し文献を集めてみます。
こちらはBMJ
Use of probiotic Lactobacillus preparation to prevent diarrhoea associated with antibiotics: randomised double blind placebo controlled trial. - PubMed - NCBI
BMJ. 2007 Jul 14;335(7610):80. Epub 2007 Jun 29.
研究デザイン:二重盲検ランダム化比較試験
P:抗生剤を投与された入院患者135名(平均年齢74歳)
E:抗生剤服用期間+服用終了後1週間、Lactobacillus casei, L bulgaricus, and Streptococcus thermophilusを含むドリンク100g、1日2回
C:プラセボ(無菌のミルクシェイク)
O:AAD(セカンダリとしてCD毒素の有無)
資金提供:Healthcare Foundation and Hammersmith Hospital Trustees research committee and Danone Vitapole(ダノンはフランスの製薬会社)

除外基準:入院中の下痢、腸病変、免疫不全など

プロバイオティクス69名→12名脱落→57名が分析対象
プラセボ66名→10名脱落→56名が分析対象
(脱落の理由として、退院後にコンタクトがとれないなど)

使用された抗生剤の種類
1種:5~6割
2種:約4割
3種:3%
(投与の理由は、呼吸器感染症、手術前後、尿路感染症など)

<結果>

プロバイオティクス プラセボ NNT
下痢 7/57(12%) 19/56(34%) NNT5
CD毒素陽性 0 9/53(17%) NNT6


こちらの文献は、プロバイオティクスの有用性を支持していますが、対象患者数が少ないわりに、脱落が多い印象。資金提供にメーカーさんも絡んでいて、Lancetと比べるとインパクトが落ちるような…。

Lancetの試験との違いとしては、抗生剤の種類がLancetの試験と比べて少ない傾向にあります。抗生剤1~2種類なら下痢を抑えられるかもしれないと期待できるかな…?という気もしますがどうでしょうね。


最後にCDDについてのコクランレビュー。全文フリーです。
※こちらは高齢者に限定されておらず、成人+小児となっています。
Probiotics for the prevention of Clostridium difficile-associated diarrhea in adults and children. - PubMed - NCBI
Cochrane Database Syst Rev. 2013 May 31;5:CD006095.
P:抗生剤を投与されている成人(>18歳)と小児(0~18歳)
E:プロバイオティクス
C:プラセボ
O:CDD(セカンダリ;CDI(Clostridium difficile infection)、有害事象、AAD、入院期間)
研究デザイン:RCTのメタアナリシス

"No language, publication status, or date limits were applied"
言語制限なし、出版されたものが適応、日付の制限なし
(プロバイオティクス製造会社に対して、未発表・現在進行中のRCTについてコンタクトをとったといった記述はあります)

<結果>

被験者数 コントロール プロバイオティクス 相対効果 異質性 エビデンスの質(GRADE)
CDD 4213名 55/1000 20/1000 RR0.36(0.26 to 0.51) I2=0% 中等度
有害事象 3964名 187/1000 150/1000 RR0.80(0.68 to 0.95) I2=37% 中等度
CDI 961名 127/1000 113/1000 RR0.89(0.64 to 1.24) I2=0% 中等度
入院期間 422名 平均10.3日   -0.32日(95%CI -3.21 to 2.57) I2=20%
AAD 4097名 209/1000 125/1000 RR0.60(0.49 to 0.72) I2=36%

 
有害事象として報告されたのは、
腹部痙攣、吐き気、発熱、軟便、鼓腸、味覚異常など

全体として、免疫不全や重度の衰弱のない患者におけるプロバイオティクス短期使用のエビデンスであることを考慮し、有害事象のエビデンスの質は中等度と評価。

<結論>
4213名、23RCTのメタアナリシスにおいて、プロバイオティクスはCDDの予防に有効かつ安全であることを示唆



成人/小児において、クロストリジウム・ディフィシル関連の下痢に有効とコクランは結論づけています。抗生剤関連の下痢もエビデンスの質は低いとしながらも、RR0.6と優位性を示しています。

小児~成人においては、抗生剤にプロバイオティクスを併用することは有用であるという印象ですが、高齢者においては有効性が高くないのかもしれません。BMJの文献では有効とされていますが、n数が少ない上に脱落もあり、ネガティブであったLancetの文献のほうがインパクトが強いように思います。

高齢患者さんはすでにたくさん薬が処方されているケースが多いです。ポリファーマシーがさく裂しているようなケースでは、薬は1種でも少ないほうがいいでしょうし、必ずしも整腸剤をかぶせなくてもいいかもしれませんね(お腹が弱い体質でなければ)。

個人的には原則整腸剤を併用したほうが良いのではないかと思っています。自分自身がお腹が弱いということもあって整腸剤援護側のバイアスがかかっているのかもしれませんが…笑