pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

慢性咳嗽にガバペンチン/プレガバリンが効く?

咳ってやっぱりコモンな症状ですよね。

長引く咳について - pharmacist's record

慢性咳嗽について過去にとりあげたことがありましたが、咳って一般的にどのくらい続くのでしょう?

こちら、タイトルがズバリ「How long does a cough last?」です!
How long does a cough last? Comparing patients' expectations with data from a systematic review of the literature. - PubMed - NCBI
Ann Fam Med. 2013 Jan-Feb;11(1):5-13.

急性の咳を引き起こす病気(ACI;acute cough illness)に抗菌薬が過剰使用となっているのではないかという仮説を立て、文献のシステマティックレビューから咳の持続期間を予測して比較してみようという趣旨の論文のようです。

分析方法などはすっ飛ばして、結果だけ見てみますと、table3にACIの予測持続日数が載っています
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3596033/table/t3-0110005/
fever:熱発のないほうが咳が少しだけ長引く傾向
sputum:喀痰の有り無しについてはあまりはっきりしない模様ですが、Green sputum(色のついた痰ということでしょうか)ではやや長引く傾向。
Self-reported asthma or chronic lung disease:これはあきらかに長引いてます。そりゃそうだろって話ではありますが。
Self-reported previous use of antibiotics for ACI:これは不思議ですね。抗生剤投与のほうが長引くってどういうことでしょう?抗生剤投与が必要と判断された人たちの咳は長引くということかも?
sex:男性より女性のほうが長引く傾向

n数がバカでかいというわけでもないので、バイアスがあるかもしれませんね。
きちんと読み込めばいろいろわかりそうですが、ここはサラッと流します。


最近、慢性咳嗽に対するアジスロマイシンの論文が出ました
The Effects of Azithromycin in Treatment-Resistant Cough: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial. - PubMed - NCBI
Chest. 2016 Apr;149(4):1052-60

研究デザイン:DB-RCT
P:治療抵抗性の咳嗽患者44名
E:アジスロマイシン250mg 3回/週
C:プラセボ
O:the Leicester Cough Questionnaire (LCQ) score
試験期間:8週

LCQ score:19項目、身体面/精神面/社会面からなる咳嗽の評価法。総スコア1.3の上昇で有意な改善と評価される
(「慢性咳嗽と閉塞性睡眠時無呼吸症候群」日呼吸誌, 4(1): 47-51, 2015)

<結果>

LCQスコア mean change
アジスロマイシン +2.4(95%CI 0.5 to 4.2)
プラセボ +0.7(95%CI -0.6 to 1.9)

2群間に有意差なし(P=0.12)

レスポンダーのサブ解析によると、
喘息と同時診断された患者のLCQスコア変化はmean6.19(95%CI 4.06 to 8.32)

アジスロマイシンの治療前後の比較では、臨床的に意義があるとされる総スコア1.3点以上改善していますが、プラセボとの群間差はないという結果となっています。


こちらは2012年。意外な薬が検討されています。
Gabapentin for refractory chronic cough: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. - PubMed - NCBI
Lancet. 2012 Nov 3;380(9853):1583-9.

研究デザイン:DB-RCT,ITT解析
P:active respiratory disease or infectionのない8週以上続く、難治性の慢性咳嗽の成人(オーストラリアの外来患者)62名
E:ガバペンチン 忍容性があれば最大1800mg/日(n=32)
C:プラセボ(m=30)
O:LCQスコア変化
試験期間:10週
10名脱落あり

<結果>

ガバペンチンvsプラセボ
LCQの群間差 1.80(95%CI 0.56-3.04),p=0·004,NNT3.58)


副作用:ガバペンチン31%、プラセボ10%
(認められた副作用は主にnausea,fatigueなど)

アブストのみ閲覧可。
NNT3.58というのはなかなかのインパクトですが、小規模のRCTなのでどうかな~って感じでしょうか。
まあ、そもそも適応外なので外来で使うことはないでしょうね。


日本ではこんなケースレポートが。
転移性肺腫瘍に伴う慢性咳嗽に対しプレガバリンが奏効した1例
Palliative Care Research Vol. 10 (2015) No. 1 p. 515-518
患者:転移性肺腫瘍に伴う慢性咳嗽
セッティング:緩和ケア外来
治療:プレガバリン 初期量1日50mg、朝夕に分割 →眠気などの副作用に注意しながら漸増、125mg/日にて咳嗽軽減。

直腸がんで手術、化学療法を実施→肺転移→抗がん剤変更し化学療法継続するものの肺転移増大→化学療法終了→乾性咳嗽悪化→CRP上昇にて抗菌薬投与するも改善せず→アンブロキソール、リン酸コデイン60mg/日投与するも改善せず。
といった流れで緩和ケアへ。という症例です。

膿性痰や発熱など感染を疑う所見がないことから、気質的病変による慢性的な気道刺激亢進が咳嗽の原因と評価。
ステロイドについては予後予測が複数月単位で長期使用となる可能性が考えられたこと、感染合併のリスクも高いことから使用しない方針となる。
(↑なるほど、勉強になります)

慢性咳嗽の抑制効果が報告されていたガバペンチンの類似薬であるプレガバリンを投与

[初診時、咳嗽NRS7]プレガバリン1回25mg 1日2回朝夕で開始
→[7日後、咳嗽NRS最大5、最小4]1回50mg朝夕へ増量
→[14日後、NRS最大8、最小2]朝50mg、夕75mg
→[21日後、NRS最大8、最小3]朝75mg、夕75mg
→[28日後、NRS最大5、最小2 日中眠気あり]朝50mg、夕75mg
→[35日後、NRS最大4、最小2]

咳嗽NRS(numerical rating scale):0~10の11段階。0が症状なし。

がんに伴う咳嗽に対して、便秘や眠気が問題となるモルヒネコデインなどの代替薬として使えるかどうか、今後に期待というところでしょうか。


今年に入ってこんな論文も
Pregabalin and Speech Pathology Combination Therapy for Refractory Chronic Cough: A Randomized Controlled Trial. - PubMed - NCBI
Chest. 2016 Mar;149(3):639-48.
研究デザイン:RCT
P:Chronic refractory cough (CRC) 40名
E:SPT+プレガバリン
C:SPT+プラセボ
O:cough frequency using the Leicester Cough Monitor, cough severity using a visual analog scale (coughVAS), and cough-related quality of life (QOL) using the Leicester Cough Questionnaire (LCQ).

(Speech pathology treatment(SPT) というのが良くわからないのですが、言語療法(speech therapy)といった非薬物療法のことでしょうか。)

<結果>
LCQの平均差:+3.5(95%CI 1.1 to 5.8)


基礎疾患のない従来健康な方の慢性咳嗽にプレガバリンの出番があるかというと…、どうでしょう?
保険適応の問題もありますし、慢性咳嗽に対する有効性と安全性のデータがもっと欲しいところです。

とはいえ、日本の緩和ケア外来の症例報告のような例を見ると、捨てがたいですね。
緩和ケアというと痛みのケアを、というイメージが強いですが、「咳」も辛い症状の1つなので、プレガバリンでコントロールできるなら有用な選択肢の1つとなるのではないかと思います。