pharmacist's record

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がんの骨転移について

 2人に1人はがんになる時代と言われていますが、がんで亡くなった方の2~6割で骨転移がみつかるそうです。

 

がんの骨転移 

骨転移(骨メタ)とはがん細胞が別の臓器のがん細胞が骨に転移することをいい、脊椎や骨盤、肋骨、大腿骨などに多い。乳がん、肺がん、前立腺がん、腎臓がんなどで起こりやすい。骨転移そのものは直接、生命に影響は与えないといわれているが、麻痺や痛みによりQOLの低下をきたす。

治療目標:症状緩和・骨折予防・麻痺の改善⇒運動機能を維持

〈骨転移の症状〉

  • 骨の痛み:転移した骨やその周辺の痛み。体動時に強く痛むことがあるが、安静時も痛むことあり。年齢からくる身体の痛みとの違いとしては、鎮痛薬で治療しても徐々に悪化することがあげられる。(体動時に痛みが増す原因⇒侵害受容体が骨膜に多く分布しているため、骨膜が体動により伸展すると痛む。)
  • 骨折:重いものを持ったり、身体をひねる程度の動作で骨折してしまう
  • 麻痺:脊椎に転移すると、脊髄が圧迫され、手足の麻痺、歩行障害や排尿排便障害(排尿や排便の感覚がわからない)が生じる。圧迫される部位によって症状が異なる。
  • 高カルシウム血症:骨が破壊されたり、腫瘍細胞から出るホルモンで血中Ca濃度が高くなる。食欲不振、吐き気、口渇、多尿、多飲、便秘、傾眠、倦怠感、イライラなど

 

〈骨転移の治療〉

抗がん剤:転移元のがんの治療

手術:①根治が見込めるケース(転移が一箇所等) ②麻痺による歩行障害を防ぐ⇒脊椎の手術 ③骨折予防⇒人工関節を入れたり、大腿骨などを補強する

疼痛コントロール:NSAIDs、鎮痛補助薬、オピオイドなど

放射線治療:鎮痛薬が無効な場合などに行う。効果が出るまで3~4週間。

骨吸収抑制:ビスホスホネート、抗RANKL抗体。骨転移があると、腫瘍細胞により破骨細胞が活性化、壊された骨の隙間で腫瘍細胞が増大する。破骨細胞の働きを抑える薬により、腫瘍増大を抑え、骨折や麻痺のリスクを低下させる。

 〈ビスホスホネートBP(ゾレドロン酸など)〉

3~4週間隔で点滴注射

骨転移での骨吸収亢進による高Ca血症にも有効。ゾレドロン酸は早期から改善。投与2日後からCa値低下、6〜10日で最も低下する。

副作用:38度前後の発熱(特に初回投与時。徐々に頻度減)、一時的な骨の痛み(投与数日以内)、低カルシウム血症、顎骨壊死、非定型骨折など

 〈抗RANKL抗体(デノスマブ)〉

骨転移の適応を持つのはランマーク皮下注120mg。4週に1回皮下注射

(同成分のプラリア皮下注60mgシリンジは6ヶ月に1回投与で骨粗鬆症に用いられる)

 副作用:低カルシウム血症、顎骨壊死、皮膚感染法、非定型骨折など

 

〈顎骨壊死ONJ〉

 ビスホスホネートや抗RANKL抗体製剤で起こることがある副作用。正常な骨代謝の抑制や血管新生抑制が関与していると考えられているが明確ではない。

薬剤のリスクの度合い:ゾレドロン酸>パミドロン酸>>経口BP(米国口腔外科学会のガイドラインより)。投与期間が長い方がリスク増。

リスク因子:抜歯、歯周病、義歯が合ってない、加齢、糖尿病、ステロイド使用、飲酒、喫煙など。上顎より下顎にできやすい。

初期症状:歯肉の痛み・腫れ、歯のぐらつき、下唇やあごのしびれなど。ひどくなると骨が口腔内に露出する。

治療開始前の予防処置:歯科検診を行い、必要な歯科治療、歯石の除去、入れ歯の調整は事前に済ませておく。 (経口BPについては抜歯の前後3ヶ月は休薬で発生率低下。重篤副作用疾患別対応マニュアルより)

治療開始中のケア:適切なブラッシングで口腔を清潔に保つ、口腔が乾燥しないよううがいをする。定期的な歯科検診。

一般の歯科治療(充填、根の治療、クラウンやブリッジなどをかぶせる、義歯を作る)はBPの投与中止や特別な予防は不要 

 

〈低カルシウム血症〉

症状:手足のふるえ、筋力低下、痙攣、手指・唇のまわりの痺れなど

2012年にデノスマブ(ランマーク)による低カルシウム血症でブルーレターあり

デノタスチュアブル:ランマークによる低カルシウム血症の治療・予防

ヨーグルト風味のチュアブルで、カルシウム・マグネシウム・天然型VD3が配合

  

 がんの痛みのコントロールは大事ですが、脊髄圧迫による麻痺もQOLを大きく低下させ患者さんの予後を悪化させる要因となりますので、病状に応じて歩行障害を防ぐための手術など適切な選択をすることが望まれます。また、がんの患者さんは高齢の方が多く、痛みががんによる痛みなのかどうかを鑑別することも大事かと思います。