pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

胃にやさしい解熱鎮痛薬は?

 さまざまな解熱鎮痛薬が汎用されていますが、胃に負担がかかりにくい薬はどの薬でしょうか。

 

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1874428/

こちらは2002年に発表されたケースコントロールとも呼ばれる症例対照研究(後ろ向きの観察研究)です。

各種、NSAIDsによる上部消化管出血のリスクを検討しています。

イブプロフェン:OR1.7(95%Cl, 1.1-2.7)

ジクロフェナク:OR4.9(95%Cl, 3.3-7.1)

ナプロキセン:OR9.1(95%Cl, 6.0-13.7)

ピロキシカム:OR13.1(95%Cl, 7.9-21.8)

アセトアミノフェン:OR1.2(95%Cl, 1.1-1.5)

現在はあまり頻用されてない薬が多く、最近よく処方されているロキソプロフェンやCOX2選択的阻害薬は載っていません。

アセトアミノフェンは消化管出血リスクが格段に低い結果でした。市販薬としてよく用いられているイブプロフェンも比較的リスクが低めです。

 

こちらはシステマティックレビュー。

The effectiveness of five strategies for the prevention of gastrointestinal toxicity induced by non-steroidal anti-inflammatory drugs: systematic review | The BMJ

TABLE2にCOX2選択的NSAIDsと非選択的NSAIDsの比較データがあります。相対危険度RR(relative risk)は…、

①COX-2 selectives(エトドラク、メロキシカムなど) vs non-selectives 28,178名 

症候性潰瘍:RR0.41(95%CI 0.3 to 0.7)

心血管イベントCVDまたは腎疾患:RR0.95(95%CI 0.6 to 1.7)

以下、2次アウトカム

消化器症状:RR0.73(95%CI 0.7 to 0.8)

内視鏡的潰瘍:RR0.41(95%CI 0.2 to 1.1)

 

②COX-2 specifics(セレコキシブなど) vs non-selectives 25,564名 

症候性潰瘍:RR0.49(95%CI 0.4 to 0.6)

心血管イベントCVDまたは腎疾患:RR1.19(95%CI 0.8 to 1.8)

以下、2次アウトカム

消化器症状:RR0.81(95%CI 0.7 to 0.9)

内視鏡的潰瘍:RR0.25(95%CI 0.2 to 0.3)

 

H2RA、PPI、ミソプロストールの予防効果についてもTABLE2に記載されています。

ミソプロストールも予防効果が示唆されていますが、下痢や腹痛、若い女性に投与しづらい(子宮収縮作用により妊婦禁忌)といった点が問題となるためか、あまり頻用されていないように思います。

H2RAは日本の潰瘍に使用される量の倍量でないと有効性はないという報告もあるようです。

 

 厚労省の副作用マニュアルによると、予防投与無しでのNSAIDs潰瘍発症頻度は、4~43%で、NSAIDs潰瘍のリスク因子となるのは、高齢65歳以上、消化性潰瘍の既往、抗凝固薬・抗血小板薬の併用となっています。

 NSAIDsを長期投与する場合、PPIを併用することが多く、抗血栓薬として用いられる低用量アスピリンPPIとの合剤も販売されています。ただし、適応に「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の既往がある患者に限る」と注意書きがあるため、原則、潰瘍の既往がないと保険が通らないのではないかと考えられます(既往がなくても保険が通るといった噂もあるようですがなんともいえません)。

 

 NSAIDs潰瘍の予防は臨床上、重要な問題ですが、 今年、新しい胃薬タケキャブが発売予定です。PPIと似ているようですが、カリウムイオン競合型アシッドブロッカーと呼ばれる新しい作用機序となるようです。情報が集まり次第、アップする予定です。

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H27.2.25更新

日本のケースコントロールがありましたので追記します。

Case-control study on the association of upper gastrointestinal ble... - PubMed - NCBI

消化性潰瘍や胃炎による消化管出血リスクは、アスピリン、ロキソプロフェン、その他のNSAIDsともどもOR5~6くらいで日本で良く用いられているロキソプロフェンもほぼ同等といった結果でした。

 

こちらも日本の研究。セレコキシブvsロキソプロフェンのDB-RCTです

Comparison of gastroduodenal ulcer incidence in healthy Japanese su... - PubMed - NCBI

P:健康な日本人ボランティア 年齢40~74歳

E:①セレコキシブ100mg/回 分2 (n=76) ②ロキソプロフェン60mg/回 分3(n=76)

C:プラセボ(n=37)

O:投与2週後の内視鏡的潰瘍

アウトカム発症率は、セレコキシブ1.4%、ロキソプロフェン27.6%、プラセボ2.7%

 胃への負担が少ないとされているセレコキシブがロキソプロフェンに大きな差をつけて消化性潰瘍発生率が低いという結果でした(ロキソプロフェンでそんなに発症するとは思えないのですがどうなのでしょうか…。頻用されている薬ですが、2週間といった短期間の服用で胃障害が多発している印象はありません)。ただ、追跡期間が2週間と短期間であるため、リウマチ等の長期連用においても同じような結果が得られるかはわかりません。長期連用で安全性が高いかが重要だと思いますので、追跡期間を長くして検証して欲しいところです。またCOX2選択的阻害薬は心血管系の副作用も懸念されているので、その点も留意すべきかと思います。

 痛み止めは根治療法ではなく、対症療法ということになりますが、 痛みというのはQOLを大きく下げる一因となります。痛みを取り除く薬物療法の安全性の検討は大事かと思いますので、よりさまざまな観点から有効性と安全性の検証を行って欲しいと思います。