pharmacist's record

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高血圧の治療方針・生活習慣改善

〈高血圧管理計画〉

初診時に血圧が高くても、血圧は日をあらためて複数回測定。家庭血圧を確認、危険因子のチェック等行い、全体像を評価。

 

低リスク群⇒3ヶ月の生活習慣指導で140/90以上なら降圧薬治療

中リスク群⇒1ヶ月の生活習慣指導で140/90以上なら降圧薬治療

高リスク群⇒ただちに降圧薬治療

初診時の高血圧管理計画|高血圧と合併症|大日本住友製薬

 

〈降圧目標〉

診察室血圧の目標値は以下のとおり(※家庭血圧の目標値は診察室血圧より収縮期/拡張期ともに5mmHg低く設定)

  • 若年~前期高齢者(74歳):140/90未満
  • 後期高齢者75歳以上:150/90未満(忍容性があれば140/90)
  • 糖尿病:130/80未満
  • タンパク尿陽性のCKD:130/80未満
  • 脳血管障害、冠動脈疾患:140/90未満
  • 血栓薬使用中:130/80程度を目処に(目標値のエビデンスは明確ではないが、脳出血の危険因子となるので厳格に血圧管理を行う)

 ガイドラインでの目標値は上記のとおりですが、必ずしもコンセンサスは得られていないようにも思います。

 たとえば2型糖尿病については、

All-cause mortality in patients with type 2 diabetes in association... - PubMed - NCBI

観察研究ですが、興味深い結果です。

参加者:台湾の2型糖尿病患者12,643人

プライマリアウトカム:死亡

 収縮期血圧はU字現象がみられ、もっともハザード比が低かったのが130~140mmHgでした。観察研究なので交絡因子もあると思いますが、むやみに血圧を下げればいいというわけではないということが示唆されます。ちなみにLDLは100~130g/dLがもっとも死亡リスクが低かったようです。

 

Effects of intensive blood-pressure control in type 2 diabetes mell... - PubMed - NCBI

こちらはNEJMに載ったACCORD BPです。

P:2型糖尿病4,733名

E:SBP120mmHg以下を目標に降圧治療(強化治療)

C:SBP140mmHg以下を目標に降圧治療(標準治療)

O:非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、死亡

平均追跡期間は4.7年。

1年後の平均血圧は、強化治療群で119mmHg、標準治療群で133.5mmHg。

プライマリアウトカム:強化治療群1.87%、標準治療群2.09%。HR0.88(95%CI, 0.73 to 1.06; P=0.20)

死亡:強化治療群1.28%、標準治療群1.19%。HR1.07(95% CI, 0.85 to 1.35; P=0.55)

脳卒中:強化治療群0.32%、標準治療群0.53%。HR0.59(95% CI, 0.39 to 0.89; P=0.01). 

降圧治療による重篤な有害事象:強化治療群3.3%、標準治療群1.3% (P<0.001).

 必ずしも厳格に降圧しなくても予後は劇的には変わらないといった印象です。脳卒中は減らしますが、副作用は増えるといった印象。ただ、厳格な血糖コントロールを試みたACCORDのように厳格に下げすぎたからといって予後が悪化することは示唆されませんでした。

 JSH2014では、海外のガイドラインのようにACCORD BPをふまえて糖尿病の降圧目標を緩和しなかった理由として、日本人は欧米に比べて脳卒中の発生率が高いことを上げています。

 

 このように目標血圧の設定については、たくさんのエビデンスがあるため、理想血圧はこうだ!とはっきりと言えないのが現状なのではないかと思います。薬物治療による降圧はどこまで下げればよいか難しいところです。

  

〈生活習慣の改善〉

①食塩制限

2012年WHOのガイドラインでは5g/日が推奨

日本では6g/日未満を目標。日本の現状は10g/日を超えている。

※減塩1g/日ごとに収縮機血圧1mmHg減少するというメタ解析あり。

食品の栄養表示:Na表示の場合、食塩相当量=Na×2.5g

 

②栄養

DASH食:アメリカで考案された野菜、果物、ナッツ類、魚類、低脂肪乳製品、穀類を中心とした複合食。カリウムマグネシウム、カルシウム、食物繊維が豊富で、飽和脂肪酸コレステロールが少ない。

 

③体重

肥満⇒血圧上昇、血糖値・脂質・尿酸上昇、脳梗塞脂肪肝、月経異常、睡眠時無呼吸症候群SASなどのリスクとなる。

BMI25kg/㎡未満、ウエスト男性85cm未満、女性90cm未満

約4kgの減量で、血圧が4.5/3.2低下したというメタ解析あり

 

④運動

有酸素運動⇒血圧低下、体重体脂肪減少、インスリン感受性改善、血清脂質改善が期待できる。

 ウォーキングなどの有酸素運動を、できれば毎日30分以上行うと良い。レジスタンス運動やストレッチ運動を補助的に行うとよい。

 運動強度はコンセンサスが得られてないが、強すぎると血圧上昇を招くことがあるのでややきつい程度にとどめる。Ⅲ度高血圧(180/110mmHg以上)や心血管病等では対象外。患者個々に応じて対策を講じる必要あり。

 ※レジスタンス運動:筋力トレーニングのこと。運動中は呼吸を止めずに、複式呼吸で行う。息をとめて力んだりしない。息がつまるようなら負荷を軽くする。

 レジスタンス運動に降圧効果があるという報告があるようですが、息をとめて力むような筋トレは血圧上昇をきたし良くないとされているので、高血圧患者が行う場合には慎重に検討する必要があると思われます。

運動施策の推進 |厚生労働省

運動については、厚生労働省の健康づくりのための身体活動指針が参考になります。

 

〈アルコール〉

 飲酒習慣は血圧上昇の原因となる。大量の飲酒は、脳卒中、心筋症、心房細動、SASなどのリスクとなる。アルコールと血圧の関係はU字現象をきたすというデータもあるが、少量飲酒の有効性はメカニズムがはっきりしていない。

男性:エタノール20~30mL(日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎半合弱、ウイスキー・ブランデーダブル1杯、ワイン1杯弱に相当)

女性:エタノール10~20mL

 

〈タバコ〉

 喫煙は血圧上昇を引き起こす。喫煙者は仮面高血圧を生じやすい。

禁煙による体重増加には注意する必要があるが、喫煙は心血管疾患のリスクとなるので、禁煙(受動喫煙の防止も含む)する必要あり。

 

〈室温と入浴〉

 体が冷えると血圧が上がる。冬は血圧が上がりやすいので冬は室温管理(20℃以上)に配慮。脱衣所や浴室など、急に体が冷え込まないよう注意。

 入浴は熱すぎない38~42℃くらいの温湯で、5~10分程度(温湯40℃以下なら血圧はほとんど上がらない)。冷水浴やサウナは避ける。

〈排便〉

便秘で、排便時にいきむと血圧が一過性に上昇。便秘予防も大事。

 

 サイレントキラーと呼ばれる高血圧。できれば生活習慣の改善でなんとかしたいところですが、必要に応じて薬物治療介入となります。