pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

胃腸炎でダウンした!

えー、私事ですが先日胃腸炎でダウンしました。

せっかくですので、流行りのセルフメディケーション的な思考訓練をしてみました。
今回の記事はいつも以上に素人同然の記事なので、ご勘弁ください。


まずは臨床経過を(ちょっと忘れてしまいましたが)

夜中の3時:嘔吐する夢を見て(笑)、目が覚める

吐きそう!気持ち悪くて眠れない!(ゲップ、上腹部痛もあったかな?)

朝5時:盛大に嘔吐

吐き気は少し楽になって腹痛が!痛みは間欠的。1~2/10くらいの痛みが、発作的に5~6/10くらいに増悪(数秒程度の持続)。約1時間、間欠的に増悪する腹痛に悶絶。

朝6時:盛大に下痢(水様便)。体中の水分が全部もっていかれたかのような…。

腹部の間欠痛はおさまったが多少の痛みが残り、全身がだるい。熱は36度台(結局、その日の夜には発熱したのですが朝の時点では平熱でした)。

朝になり病院/クリニックも営業開始の時間。

さて受診するかどうか…というところなのですが、正直、歩くのも辛くて出歩きたくない状態…。

受診することで恩恵が得られるか?抗生剤の投与を必要とする状況なのか?
ちょっと考えてみました。

感染性胃腸炎の鑑別として、大雑把に細菌性・ウイルス性・毒素(厳密には毒素型は感染ではないですが)にわかれます。

ほんの3~4時間の間に下痢、嘔吐、腹痛の3徴がすべて揃いましたのでウイルス性胃腸炎かなぁ?と思うのですがド素人なのでちょっと自信がありません。

症状の順序:嘔吐→下痢の順
 →これは典型的な感じです。逆だったらちょっと嫌ですね(去年の胃腸炎のときは下痢→嘔吐でしたが…)。

嘔吐の回数:最初の1回で終了(おそらく上からは全部出し切った!)

下痢の性状:血便なし、おしっこと表現できるような水様便。
 →水様便はたしか小腸病変だったような…。細菌性でも水様便をきたすものもあるが、やはり水様便はウイルス性の典型という気も…。

下痢の回数:その後は排便は少なく、計2~3回/日。あまり便は出ないけど何度もトイレにいきたくなるような感覚はない(しぶり腹ではない)。
 →しぶり腹は細菌性の大腸の炎症を示唆すると言われているようなので、しぶり腹ではないということはウイルス性の可能性が高まったでしょうか。

腹部の状態:素人判断で適当にお腹を押してみたりしましたが、圧痛や反跳痛はないようでした。とくにお腹が硬い(筋性防御)ということもなくブヨブヨです(これは不摂生のせい涙)
 →やはり大腸の炎症は否定的??

脱水は?:立ち上がったときのフラフラする感じはもしかしたら起立試験陽性ってこと??でもCRTはいつもどおりで1秒くらい。
 →CRTは脱水の所見として有用ではないのでは?という意見も聞いたことがあります。1年前に胃腸炎でダウンしたとき、血液検査の結果、脱水と言われて点滴をしたのですが、病院に行く前に自分でとってみたCRTは3~4秒とあきらかに普段より延長しており、こりゃ脱水だな~、水分とっても吐いちゃってるから点滴されるだろうな~と事前にわかっていたりもしたので、CRTはある程度は参考になると思っています。食欲はまったくないですが、水分は多少とれていますし、CRTの延長もないので、点滴を受ける必要がある状態とは思えません。経口摂取できれば点滴なんて不要ですよね。痛いし。でも、ORSは買いに行きたいところ。

他の随伴症状は?:全身のだるさ・痛み(強い痛みではない)、頭痛
 →頭痛がちょっと気になりました。下痢+頭痛というとパッとあの感染症が浮かぶのですが…


病歴だけで判断するとウイルス性で抗生剤不要だろうと思ったんですが気になるのは食歴です。

4日前の夜:夜にみんなで焼肉。久しぶりにユッケを食す!鶏肉も!
3日前の夜:スーパーで買った牛タン踊り食い!
2日前の夜:好きな屋台の焼き鳥をバカ食い!
1日前の昼:ドロドロのカップうどん。お湯に入れたものの、患者対応で半分くらいしか食べれず。夜になって温めなおして残りを食べる(クラリチンレディタブよりも速やかに口の中で崩壊するという新しい食感を体験!)
1日前の夜23時頃(昨夜):コンビニのおにぎりと焼き鳥(パック)と野菜サラダ、カップ

基本朝食抜き、2日以上前の昼食は覚えてません。

うーん、我ながらめちゃくちゃです。
難しいことはわかりませんが、食歴だけに注目すると素人判断ではユッケなど焼肉によるカンピロバクターが疑わしく思えます。カンピロバクターの潜伏期間は数日ありますよね。さきほどチラッと書きましたが、カンピロバクターは頭痛をきたしますし、必ずしも血便はみられず軟便~水様便とさまざまです。
カンピロバクターにしては微妙かな?と思う点は、腹痛があまりひどくないこと(排便後はだいぶ楽になった)、発熱がないこと(→結局夜になったら熱が出たので結果的には合致?)、盛大に嘔吐したこと、あたりでしょうか。カンピロバクターで嘔吐することもあるかもしれないですが、いかにもという感じではないような…。

数時間前にお湯を入れてドロドロになったカップうどんがいけなかったのでしょうか。後日、同僚からはそれが原因だ!と糾明されましたが、厳密にどんな細菌もしくは毒素が発生したんだろうと考えると良くわかりません。微生物の感染だとしたら、その後、数時間で胃腸炎発症しているので、潜伏期間が短すぎると思います。ヘンな毒素を発生したのでしょうか…。お湯を入れてから放置したカップ麺からどんな毒素が発生するんでしょうね。まあ、こんな話をしても同僚から煙たがられるので黙りましたが。

潜伏が短い毒素発生型といえばおにぎりなどが有名です。毒素型も症状はウイルス性胃腸炎と似ているそうです。発症数時間前におにぎりを食べましたがコンビニの期限管理はきちんとされてるでしょうし…。


というわけで、吐き気に悶えながら考えてみた結果、
①ウイルス性胃腸炎ノロウイルスなど) ②カンピロバクター
①が大本命、②が大穴 (←あくまで素人判断ですッ!安易な自己診断は禁物ですが、自己責任のもと勝手に推測しました)。
ウイルス性ならもちろん抗生剤は不要
カンピロバクターの第一選択となる抗生剤はマクロライドとなっています(ニューキノロンも適応となりますが耐性化の問題があるようです)。

せっかくなので論文を紹介。小児が対象ですがカンピロバクターのRCTです
Single oral dose of azithromycin versus 5 days of oral erythromycin or no antibiotic in treatment of campylobacter enterocolitis in children: a pro... - PubMed - NCBI
J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2010 Apr;50(4):404-10.
研究デザイン:評価者盲検(assessor-blind)ランダム化並行群間試験、ITT解析
P:12歳以下のカンピロバクター腸炎(Campylobacter enterocolitis)、発症から48時間以内(n=120)
E:①エリスロマイシン(EM)50mg/kg/日 5日間 ②アジスロマイシン(AZM)20mg/kg 単回投与 ③AZM30mg/kg 単回投与
C:無治療
O:明確な記載なし(24時間間隔で6日間観察)
<結果>
①~③介入群のすべての患者と、無治療群30名中20名がカンピロバクター根絶(カンピロバクターが根絶されてないのは無治療群の1/3のみ)

EM50mg/kg/日 AZM20mg/kg AZM30mg/kg 無治療
カンピロバクター根絶 30/30 30/30 30/30 20/30
観察期間内の臨床的治癒 14/30 20/30 25/30 15/30

 
小規模かつオープンラベルのスタディですが、なんと症状の改善についてはエリスロマイシンは無治療とほぼ同等。
エリスロマイシンは腸管運動を亢進させる(麻痺性イレウスに用いられることもあるようです)ことで下痢をきたすことがあり、カンピロバクターに対する作用と相殺されて、臨床的治癒は無治療と差は無いという結果になってしまったのかもしれません。

抗生剤による症状改善の期間短縮についてのデータは無し。6日間での治癒の割合しかアブストには載っていません。
アジスロマイシンが有効ということですが国内の添付文書を見ると感染性腸炎の記載がない(H28.4)ので保険的に使いにくいのかもしれません。

カンピロバクターといえばギランバレーなどの合併症リスクもあります。ギランバレーの頻度は0.05%程度で、下痢発症から2~3週間後の発症。これをマクロライドで防止できるかどうかが知りたかったのですが、そのような合併症リスクを比較検討した文献は見つかりませんでした(もしございましたらご教授いただきたいですm(_)m)。

レジデントのための感染症診療マニュアルによれば、基本的に治療は不要
発熱、腹痛、血便など重症例や免疫不全状態を有する場合、小児、高齢者などでは抗生剤を考慮
抗生剤の投与は早期であるほど有効。

抗生剤でギランバレーを予防できるエビデンスがあるなら、「抗生剤は基本的に不要」という見解にはならないんじゃないかと。
抗生剤投与のメリットはさほど大きくないのかもしれません。

もしカンピロバクターだったとしても抗生剤が必要な状態ではなさそうだなと思って、整腸剤/ORSを服用して、自宅療養
翌日、下痢は続き、食欲もいまいちでしたが体調はほぼ回復していました。
なんだかんだでウイルス性胃腸炎だったんじゃないかなぁと思っています。

ちなみにORSはアクアソリタ®が飲みやすかったです。


↓アクアソリタはまさかの粉末もあるらしい。

賞味期限は
飲料は製造日より12ヶ月、ゼリーは製造日より18ヶ月、粉末は製造日より24ヶ月
一番長持ちするんですが、それほど大差ないですね。
買い置きするならゼリーか粉末かなぁ。いざ胃腸炎でダウンしたときに買いにいくのめんどくさいですよね。ただ、ダウンしたときに粉末を溶かすのもめんどくさい。


ORSの王道といえば、OS1でしょうか。
↓OS1はゼリーのほうが飲みやすかったような…。

乳幼児用のORSといえば、アクアライト

↓アクアライトも粉末製剤がありますが、アクアライトシリーズとアクアライトORSは若干電解質の配合が違うっぽい。

自分の味覚は乳幼児並だと思うので、今度ダウンしたらこのシリーズを飲んでみようかな。

電解質のバランスはそれぞれの製品で微妙に異なると思いますので、そこにこだわりたい方はメーカーサイトをご確認ください。まありんごジュースでもいいみたいなRCTもありましたけどね^^
www.ncbi.nlm.nih.gov