pharmacist's record

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オルメサルタンによるスプルー様腸疾患

いまさらですが、テレビ「ドクターG」でも紹介されたことですし、この文献を。
Severe spruelike enteropathy associated with olmesartan. - PubMed - NCBI
Mayo Clin Proc. 2012 Aug;87(8):732-8.
オルメサルタンによる原因不明の腸疾患のケースレポート
2008年~2011年、Mayo Clinicにて22名のオルメサルタン服用患者の原因不明の慢性下痢を評価

患者22名(女性13名)の年齢の中央値は69.5歳(47~81歳)
慢性下痢と体重減少(median -18kg[-2.5 to -57kg])
14名が入院を必要とした。

オルメサルタンの投与量:ほとんどの患者が1日40mg(range 10-40mg)

オルメサルタン投与から下痢発症の期間を14名の患者のデータより算出
平均3.1年(0.5-7年)、うち5名は1年以内に発症

<随伴症状>
吐き気Nausea/嘔吐vomiting:15名(68%)
腹痛abdominal pain:11名(50%)
鼓腸bloating(ガスがたまり腹部膨満):9名(41%)
疲労fatigue:15名(68%)

腸の生検によると、
15名に絨毛萎縮および粘膜の炎症がみられ、
7名にコラーゲンの沈着(コラーゲン性スプルー)がみられた。

<中止後の経過>
オルメサルタン中止によりすべての患者において臨床応答あり
体重増加 +12.2kg (range 2.9-28kg)
フォローアップされた患者18名すべて組織学的な病変も改善


ドクターGの症例では、絨毛萎縮による吸収不良症候群をきたし、ビタミンB1欠乏→ウェルニッケ・コルサコフ症候群(ADと違い作話が目立つ)を合併しており、たかが下痢ではすまされない有害事象といえます。
薬の中止だけで改善するのかという点ですが、
Systematic review: Sprue-like enteropathy associated with olmesartan. - PubMed - NCBI
Aliment Pharmacol Ther. 2014 Jul;40(1):16-23
こちらのレビュー(全54名)でも報告されているとおり、基本的にオルメサルタンの中止ですべての患者が改善しています。


オルメサルタンは他のARBと比べて下痢が多いか?という点については、
他の降圧剤と比較したケースコントロールスタディが同じくMayo Clinicより報告されています。
Olmesartan, other antihypertensives, and chronic diarrhea among patients undergoing endoscopic procedures: a case-control study. - PubMed - NCBI
Mayo Clin Proc. 2014 Sep;89(9):1239-43.
50歳以上の内視鏡検査を行った症例を解析(2007年~2013年)
検査を行う原因疾患でケース/コントロールを分類
ケース:下痢
コントロール:
食道胃十二指腸内視鏡検査(EGD;esophagogastroduodenoscopy)においては食道逆流esophageal reflux。
大腸内視鏡検査(colonoscopy)においては大腸がんのスクリーニング

オルメサルタンと他のARBと比較して、
EGD:OR1.99(95%CI 0.79-5.00)
大腸内視鏡検査:OR0.63(95%CI 0.23-1.74)

統計的には有意差はないという結果。
オルメサルタンによるスプルー様腸疾患はごくまれな有害事象ではないかとconclusionで述べられています。


統計的にはほとんど差はみられないようなごく稀な有害事象でも、目の前の患者さんで起こりうる可能性もあるので、頭に留めておく必要がありますね。