pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

学会へ!

3連休を頂いたので、ひさびさに学会に行きます!
とんこつラーメンを食べに勉強しに行ってきます!!

この学会は以前、幕張で開催されたときに参加したんですが、薬局よりも病院の薬剤師さんが多い印象。
もしかしたら、以前SNSでやりとりさせていただいてた病院薬剤師さんたちとばったり会えるかもしれませんね~。

自分は初めての場所なので、会場で迷子になりそう…。
キョロキョロしながら迷っている感が丸出しの人物がいたら、おそらくそれが私です。

あるいは、書籍コーナーでこの本を手に取った人に、かめはめ波のポーズで購入意欲を促進する念を唱えている人物がいたら、それも私である可能性が高いですね。


まだプログラムをちゃんとチェックできてないのですが、この演題はぜったい聴いた方がいいよ!みたいなのがあったら教えてください~
あと、これは絶対食べといたほうがいいよ!ていうのも…(ボソッ)
とりあえず、とんこつラーメンは食べたい!

β遮断薬はCOPDを悪化させる?②

NEJMに興味深い論文が発表されました。
COPD患者にβ遮断薬を投与したRCTです。


COPDとβ遮断薬については以前とりあげたことがあります
ph-minimal.hatenablog.com

4年の時を経て、再び同じテーマで第2弾を書くことになろうとは…。
β遮断薬による気管支平滑筋の収縮を懸念してCOPD患者さんには慎重になった方がよいのでは?ということで使用を躊躇する傾向にある一方で、心臓選択性のβ遮断薬であれば使っても大丈夫そうだという報告も多いようです。

最近では、LAMA/LABAのRCTの事後解析でβ遮断薬服用者と非服用者を比較したところ、肺機能はβ遮断薬による悪影響はなかったとされており、心疾患合併COPD患者に対してβ遮断薬の慎重かつ適切なβ遮断薬の使用を支持する報告もでています
β-Blockers in COPD: A Cohort Study From the TONADO Research Program. - PubMed - NCBI
Chest. 2018 Jun;153(6):1315-1325.PMID:29355547


さて、今回のNEJMで報告されたRCTですが、なんとβ1遮断薬のメトプロロールがCOPD増悪予防に有効かどうか検証されました。

まずはバックグラウンドから。

心筋梗塞心不全に対するβ遮断薬の有効性は確立している。COPD患者は肺機能への悪影響を懸念して、β遮断薬の適応がある場合でも、使用されないことがしばしばある。複数の観察研究で、心血管疾患を合併しているCOPD患者に対するβ遮断薬の有益性が示唆されているにもかかわらず、使用されない傾向が続いている。COPD患者を対象とした観察研究では心疾患の有無に関係なく、β遮断薬は死亡リスクを減らすという報告もある。しかし、観察研究なのでバイアスの可能性がある。
そこで、β遮断薬のCOPDの増悪リスクに対する影響を検証した。」

ざっと意訳するとこんな感じです。
最新の論文のイントロダクションって勉強になりますよね。これまでの報告でわかっていることがまとまっているのでアツい!

さて、研究の概要をビジアブ(ビジュアル・アブストラクト)でまとめました。

f:id:ph_minimal:20191025105207j:plain
Metoprolol for the Prevention of Acute Exacerbations of COPD. - PubMed - NCBI
N Engl J Med. 2019 Oct 20. PMID:31633896

ランダム化、盲検化(メトプロロールの心拍数や血圧の低下で見破られる可能性もある?)
メトプロロールvsプラセボ
アウトカムはCOPDの増悪
増悪の定義は3日以上の抗菌薬orステロイドの治療を必要とする「咳、痰、喘鳴、呼吸困難、胸の圧迫感(chest tightness)」のうち2つ以上の症状。

さて、この試験、なんと安全性の懸念に基づいて試験中断となっているんですね。

プライマリエンドポイントは有意差はありません(中途終了による検出力不足の可能性もある?)
COPD増悪については、mild,moderate,severe,very severeの4段階、severe,very severeは入院を必要とする増悪です。
で、入院を必要とするCOPD増悪がメトプロロール群で増加していたようです。

さて議論になりそうなこの試験結果…、みなさんはどう思いますか?
個人的に気になったのは、喫煙率がメトプロロール群のほうが多い傾向にあること(current smoker 35.4% vs 26.9%)

この試験ではβ遮断薬の恩恵が大きい患者さんは除外されています。
β遮断薬が必要な患者さんには使ったほうがよいのでしょうけど、COPD患者さんに使用する場合には、呼吸機能の悪化に十分注意したほうがよさそうですね。

カフェインの鎮痛補助効果は? [ビジアブ]

以前から疑問に思っていたカフェインについて取り上げます。

カフェインといえばコーヒー!って感じですが、カフェインは医薬品にも配合されています。

パッと思いつくのはPL配合顆粒®などの総合感冒薬ですね。抗ヒスタミン薬による眠気を防いだり、血管収縮作用による頭痛の鎮痛補助として配合されていると言われています。

眠気防止だけでなく、鎮痛補助の目的もあるんですね。

たしかに処方せんがなくても購入できる鎮痛薬の中にはカフェインが配合されている商品もありますよね。販売メーカーのサイトを見てみると、カフェインは「頭痛をやわらげる」「痛みをおさえる働きを助ける」と書いてあります。

痛みをおさえる働きを助ける作用(=鎮痛補助作用)があるとのことですが、カフェインを鎮痛補助として治療に用いることはあるのでしょうか(自分が知らないだけ?)。

ためしに医療用医薬品の添付文書検索メニューで「カフェイン」で検索すると、各種メーカーからカフェインの散剤が販売されており、効能効果は「ねむけ、けん怠感、血管拡張性及び脳圧亢進性頭痛(片頭痛、高血圧性頭痛、カフェイン禁断性頭痛など)」となっていました。鎮痛補助という効能はありませんが、頭痛に対する効能はあるとされているようです。
(カフェインの医療用医薬品があるとは知りませんでした…)


というわけで、カフェインの鎮痛補助効果について調べてみたいと思います。
頭痛に対する鎮痛補助効果についての文献はちらほら見たことがあるような気がするのですが、つい最近、腰痛・首の痛みに有効なのか検証した試験結果が発表されました1)。
おっ!これは気になる!ということでこの文献IDをメモしておいたのですが、最近、怠け癖がついていて、あとで読むリストに放り込んだまま永遠の眠りについてしまう可能性があるので、本ブログで取り上げてみたいと思います。

1)A randomized, placebo- and active-controlled, multi-country, multi-center parallel group trial to evaluate the efficacy and safety of a fixed-dose ... - PubMed - NCBI
J Pain Res. 2019 Sep 23;12:2771-2783.PMID:31576162

f:id:ph_minimal:20191023010412j:plain

概要はビジアブ(ビジュアル・アブストラクト)のとおり。
対象は腰痛or首の痛みです。急性ってことで3週以内が対象。もっと持続している症例は慢性疼痛ってことで除外されています。

介入内容は3通り
イブプロフェン400mg+カフェイン併用 vs イブプロフェン400mg単独 vs プラセボ
2:2:1でランダム化

スペースの都合上、ビジアブには記載してませんが、レスキュー薬の使用も許可されています。
痛みが強いとき、アセトアミノフェン500mgを1回1~2錠、1日2回まで。
(→てことは、試験結果を見るとき、アセトアミノフェンの使用率もチェックしておいたほうがよいですね)

あと、カフェインの鎮痛補助効果を検証ってことなので、試験参加者にはカフェイン含有飲料などを控えるように指示されました。advised to refrainってことで、完全に禁止というわけにはいかないって感じでしょうか。

介入期間は5日間ですが、
主要評価項目(プライマリアウトカム)は1日目→2日目の痛みの変化。
厳密には初日の朝(服用開始前)の痛みをベースラインとして、2日目の朝の服用2時間後の痛みのスコアを比較しています。
痛みは体動による痛み(pain on movement)とし、もっとも痛みが強い体動痛を評価しました。

結果はご覧のとおり。
プラセボがすごい。
まあ、自然軽快もあるのでしょうけど…。
(群間差がちょっと見づらいかもしれませんが、マイナス=痛みのスコアの減少幅が介入群つまり併用群の方が小さいということです)

併用群がプラセボに対する優位性を示せませんでしたが、これは検出力の問題もあるのでしょうか?一応、減少傾向にはありますね。
ただ、イブプロフェン単独群と比べると併用群は有意差がないどころか、若干劣ってる傾向。

アセトアミノフェンの使用率は、
併用群:12.1%
イブプロフェン単独群:8.7%
プラセボ群:12.7%

この試験結果を見る限りでは、腰痛や首の痛みに関してはカフェインの鎮痛補助効果は期待できそうにないなぁという印象です。

個人的に気になったのは、体動による痛みを評価したってところでしょうか。
この結果を見ると、イブプロフェンの効果自体がイマイチな感じがしてしまいますが、体を動かして痛みを誘発したら、鎮痛薬を飲んでても痛いよねって気もします。多少は痛みが軽減しているのでNSAIDsの効果は出ているといえるのかなぁ~という印象です(とはいえ劇的な改善は見込めなそう…)。

プライマリは2日目で評価してますが、試験は5日間実施されています。
詳しい試験結果はぜひ原著論文をご確認ください!この論文も全文フリーで読めます!


<おまけ>
カフェインの鎮痛補助効果についてはコクランレビューが出ています
Caffeine as an analgesic adjuvant for acute pain in adults. - PubMed - NCBI
Cochrane Database Syst Rev. 2014 Dec 11;(12):CD009281.PMID:25502052
結論は、「The addition of caffeine (≥ 100 mg) to a standard dose of commonly used analgesics provides a small but important increase in the proportion of participants who experience a good level of pain relief」
small but importantですって…。
辛口な印象のあるコクランの結論がこんな感じ。

メタアナリシスの結果、
鎮痛効果は鎮痛薬単独と比べてカフェイン併用はRR1.2(1.1 to 1.3)、NNTは14

パッと見、腰痛や首の痛みについての研究は含まれていないようですね(きちんと読み込んだわけではないので、原著をご確認くださいッ汗)
歯の痛み、生理痛、頭痛などの研究が主だそうです。

痛みの種類によって鎮痛補助効果を示すかどうかが異なるのかもしれませんね。