pharmacist's record

日々の業務の向上のため、薬や病気について学んだことを記録します。細心の注意を払っていますが、古い情報が混ざっていたり、記載内容に誤りがある、論文の批判的吟味が不十分であるといった至らない点があるかもしれません。提供する情報に関しましては、一切の責任を負うことができませんので、予めご了承ください。また、無断転載はご遠慮ください。

グレープフルーツジュースの謎 「静注のCYP3A4基質薬への影響は?」

ツイッター(現X)で見かけたのですが、イリノテカンの添付文書に「併用注意:グレープフルーツジュース」と記載があるというお話について。

※自分は生粋のツイッター派なので「X(旧ツイッター)」という言い回しはしません!「ツイッター(現X)」です!

 

イリノテカンは非経口薬…、ということはグレープフルーツジュースの影響ってホンマにあるの?っていうことですね。
うぅむ…。たしかに…。
添付文書がアレなのかな…とも思いましたが、LiverpoolのCancer Drug Interactionチェッカー(https://cancer-druginteractions.org/)でも「Do Not Co-administer」でした。

 

「イリノテカン・イリノテカンの活性代謝物であるSN-38の濃度を増加させる可能性あり。 強力な CYP3A4 阻害剤であるケトコナゾールとの同時投与後、SN-38 への曝露は約 100% 増加した」とのこと。

うん。それはいいんだけど、グレープフルーツジュースも?

イリノテカン(←自分は疎い領域なのでこの薬のことはよう知らん)は静脈内投与のはず。
経口投与とは相互作用の影響が違いますよね。
グレープフルーツジュースは主に消化管のCYP3A4阻害でしょ。どう関わってくるのでしょうか?

イリノテカンの代謝経路とか詳しく知りませんが、腸管循環するらしいですね。
でもそこにかかわるのは、β‐グルクロニダーゼであって、CYP3A4ではないんじゃないかと認識してました。
胆汁排泄されたグルクロン酸抱合体がはずれてSN-38になるんですよね。ここにもCYP3A4は絡んでるのかい?
ようわからん…。

レキシコンプも見たいところですが、弱小個人アカなので契約ナシ。


他の非経口のCYP3A4基質薬の添付文書にもグレープフルーツのこと書いてあるのかなぁ…。
静脈内投与といえば、抗がん剤かなってことで、PMDAのところで、
薬効分類「腫瘍用薬」、相互作用「CYP3A4」でデュアル検索。

非経口薬を一通りチェックしたところ、
テムシロリムス点滴静注液という薬(人生初耳の薬や…)も併用注意にグレープフルーツジュースあり。

一方、ドセタキセルも静注ですが、CYP3A4を阻害するさまざまな薬が併用注意として記載されているものの、グレープフルーツジュースの記載なし。

この違いはいったい…。


イリノテカンとグレープフルーツジュースでPubってみましたがめぼしいのはヒットせず。

※Pubる:Pubmedで検索すること(数年前に自分が流行させようとした略語だが、流行せず…。無念。。。)

 

が、こんな文献がありました。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21692829/

Br J Clin Pharmacol. 2011 Dec;72(6):978-81.PMID: 21692829

添付文書には載っていないと前述したドセタキセルのケースレポートです。

いくつか抜粋
「強力な CYP 3A4 阻害剤であるケトコナゾールを同時投与すると、ドセタキセル血漿リアランスが 49% 減少」
ドセタキセルのラベルには、グレープフルーツ ジュース (GFJ) などの強力な CYP3A4 阻害剤となる可能性のある食品については言及されていない。」
ラベルってのは添付文書のことっすね。

3か月以上毎日1日250ccのグレープフルーツジュースを飲んでいた52歳白人女性
グレープフルーツジュースの常飲をやめてもらったらドセタキセルのクリアランスが増加したそうです。
(他にCYP3A4を阻害する可能性のある併用薬は服用していないとのこと)

 

これは本当にグレープフルーツジュースの影響なのでしょうか。
当然のことながら、この報告の著者もGFJは消化管のCYP3A4阻害薬であることは承知の上。
肝臓のCYP活性にはほとんど影響しないのが定説だということは把握済み。
ただ、「大量の摂取により肝臓のCYP3A4活性にも影響する」という報告もあるそうです。
というわけでこの症例報告の著者は、この相互作用についても注意喚起しております。

 

さて…、
添付文書に載っていなくても、そして、静注薬であっても、CYP3A4の基質薬の場合はグレープフルーツジュースは避けた方がいいんですかね?少なくとも”常飲”はやめたほうがよさそうな印象ですが、実際、どのくらい摂取したら肝のCYPの活性にも影響するんでしょうね。この症例は1日250ccですから、そんなにガブ飲みってほど大量摂取とは言えないような気もします。
フラノクマリンの吸収され具合も個人差があったりするのでしょうか。

 

結論:よくわからん!
そして、添付文書の記載有無だけがすべてではない!(…かもしれない)

 

まあ添付文書はあくまでルールブックですからね。
たまにいるんですよ。
添付文書に書いてあるから、「相互作用はある!」
添付文書に書いてないから「相互作用はない!」
という薬剤師が…。


相互作用の併用注意にはチグハグさがあるっていうのは、相互作用の専門の先生方もおっしゃっていたはず。

 

もっとちゃんと調べてみたいところですが、おなかが減ってきたので終了。


ここまでなんとなく調べていたモヤモヤにお付き合いいただいた方、大変申し訳ございません!
結論のある話ではないのです!ただのメモ書きでした汗汗
(逆にがん専門の方々に聞いてみたいところ…ゴクリ)

新刊告知「形式的疑義照会を減らす! 外来処方箋の書きかた、考えかた」

疑義照会に関する書籍が発売されました。自分もほんの少しだけ執筆にかかわったので献本いただきました。

www.chugaiigaku.jp


著者は青島周一先生です。
自分をEBMの沼に引きずり込んだ招き入れていただいた張本人!
青島先生がいなかったら、自分はブログを書いてないし、書籍を執筆したりすることもなかったでしょう。
ようやく恩師のお仕事のお手伝いができてよかった!

内容は疑義照会を減らすためにはどうすればいいかっていう医師-薬剤師がwinwinになることを目指した一品。

疑義照会については、医師の立場でも、薬剤師の立場でもいろいろと思うところはあるでしょうけど、お互いの主張をぶつけあっても争いしか起きないでしょうね。

今の仕組み(※)では無駄な疑義照会は減らないでしょうけど、そこに切り込んで少しでもお互いの効率をよくしようぜ!っていうのが本書の狙いなのではないかと思います。

ぶっちゃけ、これを執筆したのは2022年なので、もはやなにを書いたのか覚えてないですけどね。
記憶のクリアランスの増加が著しい今日この頃。

まだ他の先生方が書いた内容を読んでないですが、医師のコメントもあるみたいなので、あとで読んでみます~!

※その仕組みってのはですね、「ピンポーン」おっとこんな夜中に誰かきたようだ…。

『エリスロシン錠200mg』の処方を『エリスロマイシン錠200mg「サワイ」』に代替調剤してもいい?

これ、自分は知らなかったのですが、ダメだと教わりました。

えッ!?エリスロシンのジェネリックがエリスロマイシン「サワイ」なんじゃねーの!?
2024年最大の衝撃!
(って言ったら、まだ今年始まったばかりやんってツッコまれたけど)

なんか一般名が違うんですって。

PMDAのやつで検索すると…(外用は除外)

ホンマや…。
ついでにドライシロップも違う。。

両者の違いは添付文書を見るより、こちらの文献をみたほうがいいですね。

抗菌薬内服療法におけるDDS
福森 史郎, 辻 泰弘 Drug Delivery System 33巻1号 p. 18-25 2018

「エリスロマイシンは胃酸による分解を受けやすいために、1回の服薬量および1日の投与回数が多いこと、胃腸管運動促進(酸分解物が原因)があることなどが臨床上の問題となっていた。エリスロマイシンの塩およびエステル体であるエリスロマイシンステアリン酸塩およびエリスロマイシンエチルコハク酸エステルはエリスロマイシン塩基となることにより、難溶性、耐酸性が増し胃内での安定性を増大させたエリスロマイシンのプロドラッグである。胃酸によって分解されずに腸で吸収されるようにプロドラック化したのがエリスロマイシンステアリン酸塩(エリスロシン錠)、一方で腸溶錠としてフィルムコーティングしたものがエリスロマイシン(エリスロマイシン錠「サワイ」)である」

臨床上の違いは小さいかもしれませんが、胃酸で分解されないようにする工夫が異なるようです。
ついでに適応症も微妙に違う模様。


というわけで、一般名が違うから代替調剤はできないってことみたいですね。
弊社のレセコンで代替調剤で入力しようとしたら、できない仕様になってました。

結語
自分よりもレセコンのほうが賢かった。。。

~終~


おまけ
↓以前まとめたこっちも厄介。用法も違うので間違えたら大変だ!
ph-minimal.hatenablog.com