ワーファリンは相互作用が多い薬として注意が必要な薬です。添付文書をみると、ありとあらゆる抗菌薬が併用注意となっています。抗菌薬による腸内細菌の減少によるビタミンK低下が主な機序と思われます。
ワーファリンと抗菌薬併用による出血リスク等を研究した論文をいくつかピックアップしました。
Concurrent use of warfarin and antibiotics and the risk of bleeding... - PubMed - NCBI
Am J Med2012 65歳以上の高齢者を対象とした症例対象研究
抗菌薬併用、15日以内の出血リスクは、
- アゾール系抗真菌薬 OR4.57(95% CI, 1.90-11.03)
- マクロライド系 OR1.86(95% CI, 1.08-3.21)
- キノロン OR1.69(95% CI, 1.09-2.62)
- ペニシリン系 OR1.92(95% CI, 1.21-2.07)
- セフェム系 OR2.45(95% CI, 1.52-3.95)
アゾール系はとくに要注意という結果となっています。ワーファリンはラセミ体で活性の強いS-ワルファリンはほぼCYP2C9で代謝されますが、アゾール系抗真菌薬はCYP2C9を阻害します。CYP2C9を阻害する薬剤としては、他に、アミオダロン、フルオロウラシル系抗がん剤、サルファ剤、ブコロームなどがあります。
ブコロームは非ステロイド性抗炎症・痛風治療剤ですが、ワーファリンとの相互作用を利用して、ワーファリンの投与量を減らし、かつ安定な治療域を保たせることを目的とした適応外使用のケースもあります。適応外なのでブコロームの用量の決まりはありませんが、1日300mg程度で用いられることが多いようです。個人間のバラツキや変動が減少するという報告があり、まれに併用投与をするケースがありますが、INR異常高値を示した症例もあり、慎重に検討する必要があるかと思います。
Warfarin interactions with antibiotics in the ambulatory care setting. - PubMed - NCBI
JAMA Intern Med. 2014 Mar 後ろ向きコホート研究
①抗菌薬併用群5857例、②上気道感染群(抗菌薬非投与)570例、③対照群5579例の3群比較。
プライマリアウトカム:PT-INR5.0以上
①抗菌薬併用:3.2%
②上気道感染群:2.6%
③対照群:1.2%
感染症そのものがワーファリンのINR値に影響する可能性が示唆されました。ただ、後ろ向きコホートということでなんらかの交絡因子があるかもしれません。
①、②ともに臨床的影響はなかったと記載されています。
Serious bleeding events due to warfarin and antibiotic co-prescript... - PubMed - NCBI
Am J Med2014 Jul 米国の退役軍人22,272名を対象とした後ろ向きコホート研究です。
ワーファリン服用中の抗菌薬併用30日以内の重篤な出血イベント(一次診断または二次診断)のリスクは、
- ST合剤(HR 2.09; 95% CI, 1.45-3.02)
- シプロフロキサシン (HR 1.87; 95% CI, 1.42-2.50)
- レボフロキサシン(HR 1.77; 95% CI, 1.22-2.50)
- アジスロマイシン (HR 1.64; 95% CI, 1.16-2.33)
- クラリスロマイシン (HR 2.40; 95% CI, 1.16-4.94)
抗菌薬併用後、3~14日以内にINRを測定すると、重篤な出血リスクが減少 (HR 0.61; 95% CI, 0.42-0.88).
この研究では、抗菌薬を高リスク群(ST合剤、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、メトロニダゾール、フルコナゾール、アジスロマイシン、クラリスロマイシン)、低リスク群(クリンダマイシン、セファレキシン)としています。
ワーファリン服用患者が抗生剤を服用する場合、どの抗生剤がリスクが低いのかを知りたくていろいろ文献を調べてみたのですが、結局よくわかりませんでした。とくに日本で汎用されている第3世代の経口セフェムがどうなのか知りたかったのですが、文献が見つかりませんでした。
本来、必要のない抗生剤投与は行うべきではありませんが、風邪で抗生剤が処方されることも多いのが現状です。短期間の抗菌薬併用は臨床的な影響はほとんどないのかもしれないですが、併用する場合は、出血傾向に注意するとともに必要に応じてINRのモニタリングが大事かと思います。