以前、地域医療ジャーナルでインフルエンザワクチンについて書きました。
インフルエンザワクチンは打つべきですか? / 地域医療ジャーナル
もはや何を書いたかちょっと忘れかけているのですが…。
ワクチンに疎いこともあって、この原稿は難産だったという記憶だけが鮮明に残っております。
この原稿について「インフルエンザワクチンは感染を防ぐわけではなく発症を抑えるのが正確な表現ではないか」という貴重なご指摘を頂きました。infectionを感染と和訳したので、ところどころ語弊のある表現をしてしまったかもしれませんが、「インフルエンザワクチンは感染は防げない/発症を抑えるだけ」という言葉が独り歩きすると、一般の方々の認識としてindirect protectionも否定されちゃう印象になりかねないのではないかという懸念もありました。感染を防げないなら他人にうつしちゃうリスクを減らすことなんてできないじゃーん!て。
発症をおさえることができれば、他人にうつすリスクを減らせるのかについて調べずに放置していたのですが、下記の文献がその答えとなるかも。
Viral Shedding and Transmission Potential of Asymptomatic and Paucisymptomatic Influenza Virus Infections in the Community. - PubMed - NCBI
Clin Infect Dis. 2017 Mar 15;64(6):736-742.PMID:28011603
さっそく、Paucisymptomaticというワードがグー○ル先生、英○郎先生、QL○fePro先生と私が活用している翻訳サイトがことごどく全滅…。We○lio先生が、微妙にひっかかって、Pauci-で微量の、という意味らしい…。軽症ってニュアンスですね。
まあ、意味なんて調べなくても定義を見ればなんとなくわかることではあるのですが。
こちらは香港の研究。
研究対象者は…
症候性インフルエンザ患者と家庭内で接触した二次感染者を同定。計235名
症状[fever ≥37.8°C, headache, myalgia, cough, sore throat, runny nose and sputum]に応じて3群に分類
症候性symptomatic (≥2 signs/symptoms):76%
→このうちインフルエンザ様症状が35%、非インフルエンザ様呼吸器症状が41%
軽症paucisymptomatic (1 symptom only):13%
無症候性asymptomatic (none of these symptoms):11%
軽症と無症候性はウイルス排泄期間が短かったとのこと。
どれくらいか?→本文Fig4
https://academic.oup.com/view-large/figure/96295980/ciw84104.jpg
うーむ。これは…。
症状が軽いほうがウイルスの検出期間が短いようですが、無症候性だからといって検出ゼロというわけではないようですね。
症状がなければ、咳などによる飛沫感染のリスクは低いとも考えられますので判断が難しいところではあります。
(これはあくまでウイウス検出期間の比較であって他人にうつすリスクを直接評価したわけではない)
インフルエンザの患者さんと接していると、インフルエンザワクチンを接種した方は、症状が軽くすんでいる方が多い傾向にあるというのが実感できることと思います。ワクチンで症状が軽くなれば(もしくは発症しなければ)ウイルス排泄期間が短くなるので、感染拡大を防げると期待されるものの、他人にうつすリスクがゼロということにはならないということでしょうか。
・ウイルス排泄期間短縮により感染拡大が防止されるのか
・それとも、無症候性もしくは軽症にて感染源となりうる自覚がないことで、感染拡大に寄与してしまうのか
地域医療ジャーナルでとりあげたindirect protectionの論文を見る限りだと、自分は前者だと思うのですが、いかがでしょうか。
この論文の著者は、
無症候性/軽症インフルエンザウイルス感染者による他者への感染の寄与を調査するためにはさらなる研究が必要であるとの結語。
ほんとそうですね。とても気になります。
個人的には、
家庭内などにおける密接なシックコンタクトのある方は、症状がなくても感染源となりうる状態にあるかもしれないという自覚を持って、人混みをさけたり、寝たきりの高齢者などハイリスク患者さんとの接触を避けたりして頂いたほうがいいのかなと思いました。
まあ、難しいところではありますが…。
ぜひ、感染症専門の方々の意見を聞いてみたいところですね。